キラキラ輝く科学の目 人とつながり合うなかで
◎教え子の息子の成長
35年も前の教え子と再会したのは、今から8年前のこと。その教え子が子どもの通う保育園から子育て集会(この集会で私が講演)の案内ビラをもらったことがきっかけでした。九州の方へ引っ越した後、連絡もとれずにいたのです。
「先生、小さくなったねえ」と泣きながら教え子が抱いてくれての再会でした。あの日から由美ちゃんは小学校の頃のように作文を書いてせっせと送ってくれたのです。ほとんどが、一人息子の優ちゃんの話です。支援が必要な子だと発達診断を受け、就学のときの心配、入学してからの不安、いじめられて親子で悩んだこと等々を綿々と綴ってきました。
一年生の時、朝顔の押し花をする時「咲いてる花を切るのはかわいそう」と取れなかったことが先生に言えず、下校時刻までずっと先生に叱られたこともありました。情況をつかんで、言葉で表現することが苦手な優ちゃんでした。
その優ちゃんも今年、六年生になりました。三年生から理科が始まったとき、とても興味を示し、わくわくしながら学習に取り組みました。それで、教育センターで行われている「サイエンスクラブ」に入りたいと申込書を書いたというのです。
「ぼくと科学をつないでいるものは、二つあると思います。それは、実験とそれを助けてくれる人たちです。ぼくは、実験が大好きです。テレビをみていたり、本を読んだり、遊んだりしている時もなんだか急に不思議だなあって思うことができます。そんな時は、確かめてみたいなーって思います。でもまだまだひとりではできないことが多かったり、知らないことが多かったりして、あきらめてしまったり、そのうち調べようと思ったりして、あとまわしにしてしまう時があります。ぼくは、もっともっといろいろなことを覚えたいです。そのためには、たくさんの人に助けてもらったり、自分の話を聞いてもらったりすることがすごく必要で大切なことだと思います。科学が好きで、実験が好きで、その実験やそれに関わるできごとを通して、たくさんの人たちとつながりができていることをうれしいことだと思っています」
◎優ちゃんへの手紙
私は、優ちゃんに書かずにはいられなくて手紙を書きました。
「『ぼくと科学をつないでいるものは』で始まる文章から、科学することが優ちゃんにとって本物だってわかります。テレビをみていても、本を読んでいても、遊んでいる時も『不思議だなあ』って思う心、これこそ科学の心だね。それを次に確かめてみたくなる心、博士の心だね。
それから優ちゃんがお兄さんになったなあと思うのは、自分が人の力を借りないと一人ではできないと自覚していることです。
以前、優ちゃんは、サンタさんが来た時「サンタさんのどがかわいていたら冷蔵庫にお茶がありますから、飲んでいってくださいね」とお手紙を書いていたでしょ。人のことがようくわかるようになり、優ちゃんのやさしさがこんなに深くなったことが嬉しくてたまりませんでした。そして、今、自分自身のことがよくわかるようになり、困ったら『力を貸してくださいね」「助けてくださいね」と言えること、これはまた大きく成長した証ですよね。科学を学ぶことで、たくさんの人とつながり合っていくと思える優ちゃん、何のために科学するのかを知っていますね。科学が人をバラバラにし、ときには人を殺すものになることもあります。科学は、人をつなぎ、人を幸せにしていくときこそ、ほんものの科学なのです。
きみが、これからどんな人に育っていってくれるのか、とても楽しみです。
私は、優ちゃんのお母さんの先生でしたが、今は優ちゃんから私が教えてもらっている気持ちです。ありがとうね。優ちゃん、また会おうね。お母さんによろしくね」。
教え子の子どもと今またこんなつながりがあり、太陽に向かってぐんぐん伸びる花のような人間のあざやかな成長ぶりに目を細めています。
(とさ・いくこ 和歌山大学講師・大阪大学講師)