障害ある青年に卒後の学びの場を
◎ぽぽろスクエアへ
一般の高校生の大学・短大・専門学校への進学率は7割を超える一方、支援学校高等部生の卒業後の進学率は5%程度。とりわけ知的・身体障害を持つ学生の場合は3%未満と言われています。しかし、今、障害を持つ青年たちも仲間とともに学びたいという強い要求が出てきており、親もまた学ばせたいと願っているのです。
そんななか、2011年3月に大阪障害者センターが運営主体となり、松原市に「ぽぽろスクエア」が誕生したのです。願いや要求が運動を創り出し、知恵と力を集めて学びの場を誕生させたのです。多くの需要があったようですが、設備や条件に限りがあり、現在24人が学んでいます。
先日、ここを訪問し、授業参観もさせていただきました。玄関を入ると、人なつっこい笑顔で「こんにちは」と迎えてくれ、何かこちらまでリラックスするような優しい空間がありました。
◎フリスビーの授業
今日は体育の授業があるようで、まずは先生が説明するというので、三々五々学生たちが集まってきていました。まだ遅い給食を食べている人ややりたくなさそうな表情で行動を起こさない学生もいました。授業者や他のスタッフも「早く集合せよ」などと声を荒立ててせかすこともなく、その気になるのをゆっくり待っているのです。このゆるやかさが快いのです。
見学に来た私を紹介してくださったので、ちょっとした手品をし「マジョリン」登場。笑顔が広がり「マジョリンさーん」とあちこちから声がかかり、早速仲間に入れてもらった気分になりました。
授業が始まりました。今日はフリスビーの2回目を近くの公園で実施するのです。まずは団体戦なのでチーム分けです。先生がするのかなと見ていたら、「チーム分けどうしようか」と切り出したら、先生は何も指示をしないのに、自然に学年代表の二人が前に出てきて「Aチームに入りたい人」とやり始めたのです。異論をとなえて騒ぐこともなく、ぬけている人はいないかなと細かい心配りもし、あのいやそうにしていた青年にも声かけをして、見事にチーム分けをしたのです。これには、スタッフも感心、少しずつ集団の規律性のようなものが育ってきたのだと言います。
一人の学生が手作りのフリスビーを持って来ていて「前の学校で作ったんやで」と見せてくれました。自分の作ったフリスビーを大空にビューンと飛ばしたら気分がいいだろうな。彼に作り方を教えてもらい、マイフリスビーを今度作ってみたい、と授業者も思ったようです。
さて、公園までおしゃべりしながら移動しました。簡単な準備運動をし、ひと通り練習するとチームごとに整列。記録係を買って出た学生が順番を読み上げ、スムーズに進んでいくのです。
ひょっと見ると、一部の男子学生が、公園の周りを時々みんなの姿に目線を向けながらもぐるぐる歩き回っているのです。こんな参加のし方もOKなのです。仲間たちは、彼のことを無視したり、なじったり、せき立てたりもせず、優しい目線を送りながら、出番のときはやって来るだろうと時々声かけをして待っているのです。
暑いので木陰にいた私の方を向いて「マジョリン行くよー」と声をかけてから飛ばす学生もいて、なんともかわいいです。
マイフリスビーを作ってきた学生が、私にこれを貸してやるからやれと言うので、やらせてもらったのですが、私は下手でした。ところが、彼がやったら飛んだのです。あのときの爽やかな抜けるような笑顔は忘れられません。
こんな学びの場があって、仲間と共に喜びや悲しみや不安も共有しながら育ち合っていく様を目の当たりにさせてもらったのでした。
さて、それから教室へ帰って反省会と結果発表です。両チームなんとわずか5点差のみごとなチーム分けでしたね。先生は、フリスビーに消極的だった人や遅れてきた人の出番を作ろう、とトロフィーを渡す係をお願いしたところ、嫌がることもなく、その役を果たしてくれたのです。
ここにも学生の力を信頼し、学生の今に寄り添いながら、彼らの自立を支援する姿があり、私もまた爽やかな一日になりました。障害のある青年たちの自立支援の場がまさに今求められていることを改めて実感したことでした。
(とさ・いくこ 和歌山大学講師・大阪大学講師)