新見公立大学では、毎年教員が学生たちに推薦図書を示すようになっています。
2021年度に紹介した本は以下の書です。
『爛々と燃ゆる』(Burning Bright) (大阪教育図書スタインベック全集第8巻 他) ジョン・スタインベック(John Steinbeck)
スタインベック研究者として毎年彼の作品を紹介していますが、寅年の今年はタイトルBurning Brightがウィリアム・ブレイク(William Blake)が詩のトラの眼の描写から取った本作を紹介します。これはスタインベックの実験的な作品で小説と演劇脚本の中間的作品です。長所は通常の演劇脚本よりは読みやすいことと、舞台化を想定しているため通常の小説よりも情景を浮かべながら読みやすいことです。
『移動祝祭日』(A Movable Feast)(新潮社他)アーネスト・ヘミングウェイ(Ernest Hemingway)
『小説 太宰治』(小学館) 檀一雄
日米2冊の書の同時紹介ですが、前者はヘミングウェイの、後者は太宰治の恋愛や他の作家や芸術家たちとの交流が描かれている小説(小説というより日記に近いかもしれません)です。文学を研究するということは、書かれた作品の分析にとどまるのみではなく、その作品を生み出した作者またはその作者が生きてきた社会や時代を知ることも含みます。研究だけではなく文学の鑑賞も、作家のことを知った方がより楽しくなるものです。
『変わったタイプ』(Uncommon Type)(新潮社) トム・ハンクス(Tom Hanks)
俳優であり映画監督も務めるトム・ハンクスが2017年に出版した(日本語版は2018年出版)短編集です。様々な映画に出演していろいろな「人生」を生きてきた彼の経験が役に立っているのか、過去から未来の、そしてニューヨークやカリフォルニアそして宇宙までいろいろな場面の作品が収録されています。中で私が気に入ったのは人物の心理描写が秀逸な「特別な週末」 (A Special Weekend)という作品です。
『ミシシッピ=アメリカを生んだ大河』(講談社)ジェームス・M・バーダマン(James M. Vardaman)
新型コロナウイルス感染症の影響で海外に行けない今、決してその代わりにはなりませんが、外国のいろいろな土地について書かれた書を読むことはおもしろい読書体験となります。この書はアメリカを縦断して流れるミシシッピ川をその河口ニュー・オーリンズから上流に遡る形でたどって各地の歴史などを紹介するものです。コロナ終息後(現役中は難しいから退職後になるでしょうか)ミシシッピ河の船の旅、ぜひ、実現させたいです。
『ノマド 漂流する高齢労働者たち』(Nomadland—Surviving America in the Twenty-First Century)(春秋社) ジェシカ・ブルーダー(Jessica Bruder)
ネットショッピングの最大手アマゾン、消費者側から考えたら自宅などのPCからクリックするだけで買い物ができるとても便利な「店」です。しかし、よく考えれば気づくように、「店」の倉庫はとてつもなく大きく、各地からの注文を受け、倉庫から発注品を探し配送に回す無数のスタッフが必要なことがわかります。この書はそんな人たちの生活を描くドキュメンタリーです。新たな労働者階級「漂流する高齢労働者たち」のお話です。
『武漢日記 封鎖下60日の魂の記録』(河出書房)方方(Fang Fang)
2019年12月に中国の武漢で初めて発生した新型コロナウイルス感染症、瞬く間に世界中に広がり今も続く混乱を与えています。この書は、封鎖中の武漢の様子を2020年1月25日(旧暦1月1日)から3月24日までにかけて描いた60篇にわたるブログ発表の日記を1冊にまとめたものです。おそらくカミュの『ペスト』のように、将来COVID-19を振り返る際に読まれる貴重な記録文学作品になるだろうと思われます。
『論語と算盤』(角川ソフィア文庫他) 渋沢栄一
NHK大河ドラマの渋沢栄一を描いた『青天を衝け』に触発され読みました。本書は「正しい道理の富でなければ、その富は完全に永続することができぬ」という一言に集約されると考えられます。社会には様々な悪徳商法が存在していますが、それは決して持続可能なものではありません。経済活動をする場合にも、論語に代表される道徳心が必要であるということです。次は、渋沢が編集をした『徳川慶喜公伝』を読んでみようと思っています。
『カムカムエヴリバディ 平川唯一と「ラジオ英語会話」の時代』(NHK出版) 平川 冽
上記の書同様、これもNHKのドラマに触発され読んだ本です。授業で紹介したクラスもありますが、「ラジオ英語会話」の講師平川唯一氏は、お隣の高梁市出身です。また朝ドラ「カムカムエヴリバディ」も岡山を舞台とした話です。ドラマを楽しみながら関連した書も楽しんでみる、悪くはない読書法だと思いますよ。書中では平川氏のラジオに影響を受けた一人として僕の恩師の田崎清忠先生も紹介されていて嬉しかったです。
『貝に続く場所にて』(講談社) 石沢麻依
東日本大震災に遭遇した私は、今ドイツ留学中です。そこに震災で死んだ知人が連絡をくれて会いに来ました。この町では現在と過去が混在することがあり、以前この町に滞在した寺田寅彦も登場します。死んだ人も生きているのです…。混乱しながら読み進めると後で何となく結びつき、そんな不思議な話ではなかったというような読後感です。作者が物語の中に入れ込んだ様々な要素が綿密に結びついていく、そんなお話です。
『きよしこ』(新潮文庫) 重松 清
僕も同じ「きよし」としてずっと気になっていたこの作品、昨年ようやく読むことができました。「きよし」という名なら必ず意識するクリスマスソングの「きよしこの夜」、このタイトルはそこから来ています。吃音に悩む著者をモデルにした少年が周りの人たちに支えられながら成長していく様子が描かれています。少年期を終え、大人の入り口あたりにいる学生の皆さんに是非薦めたい書です。著者の重松氏は岡山県(津山市)出身です。
『謎の蝶 アサギマダラはなぜ海を渡るのか?』(KKベストセラーズ)栗田昌裕
皆さんはアサギマダラ蝶という渡り蝶をご存知ですか?これは、夏は北に、冬は南に渡りをする蝶で、秋に南下する際はフジバカマなどの花の蜜を好んで吸うことが知られています。昆虫観察が好きな僕は、3年前自宅の庭にフジバカマを植え昨年10月に初めてアサギマダラの飛来を確認できました。この書は、その蝶の生態について研究者によって書かれたものです。ちなみにアメリカにもオオカバマダラという美しい渡り蝶がいます。
『見る鉄のススメ 関西の鉄道名所ガイド』(創元社) 来住憲司
身内びいきではありますが、著者の来住憲司は僕の従兄で鉄道ライターをしています。幼い頃から鉄道好きで、それが高じて鉄道雑誌記事を執筆し、著書も何冊かある業界の第一人者となりました。鉄道を見るということは、単に鉄のレールの上を動く四角い物体を見て写真を撮って喜ぶということではなく、かなり奥の深い世界であることがわかります。電車通学生の皆さん、鉄道で帰省や旅行をする方、ぜひ手に取ってみてください。
2021年度に紹介した本は以下の書です。
『爛々と燃ゆる』(Burning Bright) (大阪教育図書スタインベック全集第8巻 他) ジョン・スタインベック(John Steinbeck)
スタインベック研究者として毎年彼の作品を紹介していますが、寅年の今年はタイトルBurning Brightがウィリアム・ブレイク(William Blake)が詩のトラの眼の描写から取った本作を紹介します。これはスタインベックの実験的な作品で小説と演劇脚本の中間的作品です。長所は通常の演劇脚本よりは読みやすいことと、舞台化を想定しているため通常の小説よりも情景を浮かべながら読みやすいことです。
『移動祝祭日』(A Movable Feast)(新潮社他)アーネスト・ヘミングウェイ(Ernest Hemingway)
『小説 太宰治』(小学館) 檀一雄
日米2冊の書の同時紹介ですが、前者はヘミングウェイの、後者は太宰治の恋愛や他の作家や芸術家たちとの交流が描かれている小説(小説というより日記に近いかもしれません)です。文学を研究するということは、書かれた作品の分析にとどまるのみではなく、その作品を生み出した作者またはその作者が生きてきた社会や時代を知ることも含みます。研究だけではなく文学の鑑賞も、作家のことを知った方がより楽しくなるものです。
『変わったタイプ』(Uncommon Type)(新潮社) トム・ハンクス(Tom Hanks)
俳優であり映画監督も務めるトム・ハンクスが2017年に出版した(日本語版は2018年出版)短編集です。様々な映画に出演していろいろな「人生」を生きてきた彼の経験が役に立っているのか、過去から未来の、そしてニューヨークやカリフォルニアそして宇宙までいろいろな場面の作品が収録されています。中で私が気に入ったのは人物の心理描写が秀逸な「特別な週末」 (A Special Weekend)という作品です。
『ミシシッピ=アメリカを生んだ大河』(講談社)ジェームス・M・バーダマン(James M. Vardaman)
新型コロナウイルス感染症の影響で海外に行けない今、決してその代わりにはなりませんが、外国のいろいろな土地について書かれた書を読むことはおもしろい読書体験となります。この書はアメリカを縦断して流れるミシシッピ川をその河口ニュー・オーリンズから上流に遡る形でたどって各地の歴史などを紹介するものです。コロナ終息後(現役中は難しいから退職後になるでしょうか)ミシシッピ河の船の旅、ぜひ、実現させたいです。
『ノマド 漂流する高齢労働者たち』(Nomadland—Surviving America in the Twenty-First Century)(春秋社) ジェシカ・ブルーダー(Jessica Bruder)
ネットショッピングの最大手アマゾン、消費者側から考えたら自宅などのPCからクリックするだけで買い物ができるとても便利な「店」です。しかし、よく考えれば気づくように、「店」の倉庫はとてつもなく大きく、各地からの注文を受け、倉庫から発注品を探し配送に回す無数のスタッフが必要なことがわかります。この書はそんな人たちの生活を描くドキュメンタリーです。新たな労働者階級「漂流する高齢労働者たち」のお話です。
『武漢日記 封鎖下60日の魂の記録』(河出書房)方方(Fang Fang)
2019年12月に中国の武漢で初めて発生した新型コロナウイルス感染症、瞬く間に世界中に広がり今も続く混乱を与えています。この書は、封鎖中の武漢の様子を2020年1月25日(旧暦1月1日)から3月24日までにかけて描いた60篇にわたるブログ発表の日記を1冊にまとめたものです。おそらくカミュの『ペスト』のように、将来COVID-19を振り返る際に読まれる貴重な記録文学作品になるだろうと思われます。
『論語と算盤』(角川ソフィア文庫他) 渋沢栄一
NHK大河ドラマの渋沢栄一を描いた『青天を衝け』に触発され読みました。本書は「正しい道理の富でなければ、その富は完全に永続することができぬ」という一言に集約されると考えられます。社会には様々な悪徳商法が存在していますが、それは決して持続可能なものではありません。経済活動をする場合にも、論語に代表される道徳心が必要であるということです。次は、渋沢が編集をした『徳川慶喜公伝』を読んでみようと思っています。
『カムカムエヴリバディ 平川唯一と「ラジオ英語会話」の時代』(NHK出版) 平川 冽
上記の書同様、これもNHKのドラマに触発され読んだ本です。授業で紹介したクラスもありますが、「ラジオ英語会話」の講師平川唯一氏は、お隣の高梁市出身です。また朝ドラ「カムカムエヴリバディ」も岡山を舞台とした話です。ドラマを楽しみながら関連した書も楽しんでみる、悪くはない読書法だと思いますよ。書中では平川氏のラジオに影響を受けた一人として僕の恩師の田崎清忠先生も紹介されていて嬉しかったです。
『貝に続く場所にて』(講談社) 石沢麻依
東日本大震災に遭遇した私は、今ドイツ留学中です。そこに震災で死んだ知人が連絡をくれて会いに来ました。この町では現在と過去が混在することがあり、以前この町に滞在した寺田寅彦も登場します。死んだ人も生きているのです…。混乱しながら読み進めると後で何となく結びつき、そんな不思議な話ではなかったというような読後感です。作者が物語の中に入れ込んだ様々な要素が綿密に結びついていく、そんなお話です。
『きよしこ』(新潮文庫) 重松 清
僕も同じ「きよし」としてずっと気になっていたこの作品、昨年ようやく読むことができました。「きよし」という名なら必ず意識するクリスマスソングの「きよしこの夜」、このタイトルはそこから来ています。吃音に悩む著者をモデルにした少年が周りの人たちに支えられながら成長していく様子が描かれています。少年期を終え、大人の入り口あたりにいる学生の皆さんに是非薦めたい書です。著者の重松氏は岡山県(津山市)出身です。
『謎の蝶 アサギマダラはなぜ海を渡るのか?』(KKベストセラーズ)栗田昌裕
皆さんはアサギマダラ蝶という渡り蝶をご存知ですか?これは、夏は北に、冬は南に渡りをする蝶で、秋に南下する際はフジバカマなどの花の蜜を好んで吸うことが知られています。昆虫観察が好きな僕は、3年前自宅の庭にフジバカマを植え昨年10月に初めてアサギマダラの飛来を確認できました。この書は、その蝶の生態について研究者によって書かれたものです。ちなみにアメリカにもオオカバマダラという美しい渡り蝶がいます。
『見る鉄のススメ 関西の鉄道名所ガイド』(創元社) 来住憲司
身内びいきではありますが、著者の来住憲司は僕の従兄で鉄道ライターをしています。幼い頃から鉄道好きで、それが高じて鉄道雑誌記事を執筆し、著書も何冊かある業界の第一人者となりました。鉄道を見るということは、単に鉄のレールの上を動く四角い物体を見て写真を撮って喜ぶということではなく、かなり奥の深い世界であることがわかります。電車通学生の皆さん、鉄道で帰省や旅行をする方、ぜひ手に取ってみてください。