◆~本と歩こう⑬~◆
こんにちは。市民レポーターの 三井玲子 (みつい れいこ)です。
今回は、冊子『2020年、今を生きる』の著者、在宅ホスピス医の 内藤 いづみさんを取材しました。
内藤さんは、緑が丘にある「ふじ内科クリニック」の院長で、在宅ホスピスケアの専門医です。
長年にわたり、終末期のがんや高齢の患者さんの人生を支える医療・ホスピスケアを提唱・実践され、家での看取りのための訪問診療や、家族のサポートなどのチーム医療を実践されています。
医師としての本業の傍ら、いのちを学ぶホスピス学習会の講演を全国各地で行い、テレビやラジオ、著作物等、幅広く活動されています。
新型コロナウィルス感染拡大後、改めて「生と死に向き合う」ことの重要さを感じた内藤さん。
5月に出版されたこちらの冊子には、今年3~4月に収録されたラジオ番組での対談やメッセージ、
医学部の入試問題として取り上げられた、故・永六輔さんとの対談が収録されています。
(左)『2020年、今を生きる。 未来がより良き人間社会になるために』
(右)付録小冊子『幸せな思い出 優しさと強さを取り戻すために』
―今回の著作で、「一人ひとりが覚悟をもって生きる」というメッセージを強く感じました。
医療現場にいる私たちにとって、生と死について考えることは日常的なことですが、一般の人にとってはそうではなかったと思います。
コロナ感染が拡大して、「今こそ、どうしようか」と、誰もが考えるときになりました。
限りあるいのちを、リアリティをもって生きること。一回しかない人生の終わり方について真剣に考え、家族や親しい人と話し合ってほしいと思います。
―終末期に限らず、人生会議(最期の過ごし方の希望を家族で話し合う)が必要ということですね。
形式的なことではなく、自分の一番親しい人にできるだけ希望を伝えておいてほしいですね。
例えば、延命治療についても、点滴はどうするか、酸素吸入はするか、投薬や胃ろうをするか。ご本人の意識がなくなった場合も含めて決めていただけると、医療する側の負担が少なく、希望に沿ったかたちで最善を尽くすことができます。
―新型コロナ拡大で、家族の臨終に立ち会えないなどの厳しい状況が現れています。
人生の最期で親しい人とのつながりが断絶される現実に、どう対応したらよいでしょうか。
コロナ感染では、公衆衛生上の都合が最優先されてしまったのが最大の原因です。ガラス越しで立ち会えればまだ良いほうで、家族はお骨で対面ということも起こってしまいました。
家族にとっては、本人がどんな最期を迎えたのか、全然ようすがわからないままで。マスクや防護服の在庫不足もひとつの原因ですが、看取る側にとっては、実につらい状況です。半面、感染症ではない患者さんの場合は、これまでと変わらない状況で終末期を過ごせると思うので、より充実した終わり方について家族でも考えてほしいですね。
―ご自身も、感染した場合に備えて入院準備をされているそうですね。
これがそのスーツケースです(写真参照)。季節に合わせて衣類を入れ替えたりしています。
自分の「死」は遠くに感じていた私ですが、治療している自分もいつどこで感染するかわからない。もし感染したら即隔離されてしまうし、5%の確率で重症化してしまうかもしれない。
いろいろ仕事を抱えているので、必要最低限のものだけを入れました。言わば私のエッセンスです(笑)。中身は、漢方などの常備薬、粉末タイプの飲料、2冊の本、日記がわりのノートと衣類などですね。このスーツケースを用意することで、私も覚悟ができたというか、気持ちが落ち着きました。
★内藤いづみさんの入院準備用スーツケース★
★スーツケースに入れた2冊の本★ (表紙画像は出版社の許可を得ています)
(左)『対話の達人、遠藤周作1』遠藤周作ほか著 女子パウロ会 2006年
広い交友からしのぶ遠藤周作の名インタビュー集。内藤さんとの対話も掲載されている。
(右)『内臓とこころ』 三木成夫著 河出文庫 2013年
人間は胎児のときに、進化の歴史をたどってこの世に誕生する。発生学の哲学的名著。
―「ウィズコロナ(コロナと共に生きる)」になって、気づいたことは何でしょうか。
やはり、生と死について、皆さんが真剣に光を当てて考える機会になった、ということですね。
私たちの日常が、いかに不要不急のもので成り立っていたかにも気づかされました。
今こそ、自分たちにとって本当に大事なものや、生きる価値について考えて、人間の尊厳や絆を取り戻してほしいと思います。
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ふじ内科クリニック FAX:055-252-4811 ※注文はFAXのみで受付
在宅ホスピス医 内藤いづみ https://www.naito-izumi.net/
ありがとうございました。