◆〜本と歩こう(51)〜◆
こんにちは。市民レポーターの 杉浦玲子 (すぎうら れいこ)です。
今回は9月25日(月)に藤村記念館で行われた、『伝統から学ぶ甲府の魅力(その5)創業191年・城下に伝わる甲府の銘菓』のご報告です♪
講師は、松林軒豊嶋家7代目の鈴木信吾(すずき しんご)さん。
甲府市中心部にて、1832(天保3)年創業の老舗和菓子店「松林軒」の当代店主です。
明治初期に誕生した銘菓(名前が付いた菓子)「月の雫」を軸に、松林軒と市中心部の歴史や、地方で働くビジョンについて語られました。
店に現存する古い写真には、店頭に「十時あん万十」ののぼりがはためく松林軒本舗の写真が。
現在の「モーニングサービス」のような販売でしょうか。地域に親しまれた様子が伺えます。
松林軒が大きく発展したのは、4代目音兵衛氏の明治初期の頃。
山梨産の果物「甲州ぶどう」を使った「月の雫」が生まれ、海外での博覧会をはじめ数々の賞を受賞。
美しい名前のこの銘菓は、5代目善造氏が商標登録をして作り方を広めたことによって、山梨を代表する土産物として全国的に知られるようになりました。
現在「月の雫」の現場では、生食用の甲州ぶどうの生産量が減っているため、原材料の甲州を確保するのが難しくなっているそうです。
「酸味があるからこそ、この味が出せて、日持ちもする。」と鈴木さん。
「月の雫」は座りながら長時間、一人で作業するため、他のことは何もできなくなるとか。
伝統の菓子を守っていくには、いつの時代もそれぞれの苦労があるのですね。
前半終了の休憩の間に、展示されていた看板と写真を拝見。
甲府空襲の後、焼け跡の瓦礫のなかから、お客様が拾って届けてくださったという「松林軒」の看板。(右)
いかに、地域の方からお店が愛されていたかが、伝わってくるエピソードですね。
その当時からの状態で、修復をせずに保存されています。(市文化財指定)
後半は、歴史文化財課の市職員との掛け合い談話や、参加者からの質疑応答で会場が盛り上がりました。
なかでも松林軒がかつて、松菱百貨店というデパートを経営していたことにふれて、
「松林軒専用の商品券やポイントカードを発行していた。」(現物回覧)というものや、
山梨初のエレベーター設置(1937年以降)で、
「エレベーターのドアは蛇腹式だった。」
「エレベーターガールの人が、近所のお姉さんで照れくさかった。」など。
当時を知る方ならではの貴重な証言が出て、市中心部の思い出話に花が咲きました。
そして戦争末期の七夕空襲で、あたり一面焼け野原になってしまった市中心部。
「甲府空襲で唯一焼け残った松林軒(松菱百貨店)は、一筋の希望だった。」
「これからも、食べた人が笑顔になれるお菓子を作ってください。」(手紙より)
当時を知るお客様からの手紙について、最後に鈴木さんは紹介しながら、
「和菓子は一人ひとりの一生に寄り添うもの。自分なりに『和菓子のある生活』を提案していきたい。」
「お菓子を売ることだけではなく、その先の豊かさ、『お客様に笑顔になっていただくこと』と『楽しく働くこと』を考えて、次世代につなぐ、地域性を生かした多彩な活動をしていきたい。」と締めくくられました。
※現在の松林軒は、甲府中心部のビジネスホテルの敷地内と、国玉町の新店舗でそれぞれ営業中です。
★本と歩こう(51)★
『和菓子の絵本』
平野恵理子 作
あすなろ書房
2010.9.30初版
1400円(税別)
※出版社の許諾を得て書影を使用しています
ご覧ください。この表紙(裏表紙も)一面の美味しそうな和菓子たち!壮観ですね!!
タイトルには「絵本」とありますが、この本には専門書並みの知識がぎゅっ!と詰まっています。
「和菓子って、なに?」から始まり、種類や作り方、季節の行事や歴史などイラスト付きで解説。
作るのもよし。食べるのもよし。
小学生から大人まで、和菓子のある暮らしの幸福(口福)を味わえる一冊です。
―取材へのご協力、ありがとうございました―