やあ、いらっしゃい。
今夜は昨夜約束した通り、「学校の怪談」第2弾を話そう。
夏休みも後半に入ると、そろそろ学校生活が恋しく思える筈…そうでもないかい?
貴殿は既に卒業しているだろうか?
それとも青春を謳歌してる最中の学生だろうか?
卒業すれば実感するだろうが、日々他人と同じ場所に通い、同じものを学ぶ経験は貴重と言っていい。
同じ場所に通うだけなら、卒業して会社勤めでもすれば、可能だがね。
昨夜も語ったが、学校に怪談が数多く集まるのは、大勢が同じく過す場所柄、共感を得易いからだろう。
今夜話すのは、このブログの主が実際に体験した事だ。
大して恐くはないが、何時かの納涼のタネにでもして貰いたい。
怪談の始め方としては常套だが、私の通っていた高校は、かなり古い歴史を持っていた。
校舎は幾度か改築され、木造でこそなかったが、新棟旧棟の2つに分れ、その間には結構な広さの中庭が在った。
が、今回の舞台は中庭ではない。
ところで当時、私は美術部に所属していた。
部室は正門から遠く離れた旧棟の端に在り、窓からは「生徒ホール」と言う名で呼ばれる、小じんまりした建物が見えた。
この生徒ホールは生徒達の憩いと交流を目的に建てられたというのが名目らしく、中には卓球台が数台置いてあった。
ちなみに壁を隔てて横は写真部の暗室と物置と、使用目的がよく解らない小部屋が在ったが、それも今回の話にあまり関係は無い。
卓球台が置いてあるとはいえ、ボールやラケットは教員に許可を貰わなければ貸し出しは出来ず、加えて卓球部の活動は何故か別に体育館を使用して行われていたので、授業をさぼった生徒が身を隠す位な利用価値の、言わば校内で浮いた場所だったのだ。
あれは9月の始め頃だったろうか。
放課後、自分を加えて集まった部員は6名。
何時もの様にホールの隅へ卓球台をどかし、出来た空間に新聞紙を敷いて、ゲートにペンキを塗る作業を行っていた。
9月ともなれば下絵は済んでいる。
後は塗るだけ、追い込まれてはいたが、若干生れた余裕から、各自買って来た菓子を口にしつつ、和やかにダベりながら居たと記憶している。
腕時計の針が夜の8時を回る頃、そろそろ帰ろうかという話になった。
校舎側正面の硝子扉から外を見れば、夏を過ぎたばかりとはいえ、とっぷり暮れていた。
学校は高台にぽつんと建ち、駅までの道は商店も少なく、暗くて寂しい。
部員の殆どが女子である為、あまり遅くまで残る事は出来なかった。
全員帰る仕度を整え出した、その時だ。
「ううううううう………!」という気味の悪い唸り声が、四方の壁から迫る様に響いて聞えた。
ホールに居た全員の表情が強張って固まり、次の瞬間、けたたましく鳴るクラクションの様に口を開いて叫んだ。
「何今の気味悪い声ー!?」
「校内放送!?」
「今頃!?誰が何の目的で!?」
「そもそも今の声か!?」
校内放送と思ったほど、その声(?)はホール全体を大きく震わして聞えた。
だがそれはない、何故ならホールにスピーカーは設置されていない。
「蝦蟇蛙の声か何かでは?」という意見も出たので、硝子扉を除く三方の壁に嵌った窓を開けて確認したりもした。
しかし何も見付からなかった。
そもそもホール側に水場は無い。
校舎から離れて建つホールの周囲には、だだっ広い土のグラウンドと、背の低い雑草が疎らに生えてる位の寂しい裏庭しかない。
誰かが、もしくは何かが潜んで居たとすれば、忽ち姿を明らかにしている筈だった。
念の為隣の暗室や物置等も検めたが、鍵の掛けられた暗室は兎も角、他からは何も見付からなかった。
もし暗室に人が潜んで居て、悪戯から声を発したとしても、四方の壁を震わすほどの仕掛けをどの様に行ったと言うのか?
屋根に犬猫の獣でも居るのではとも考え、窓に足を掛けて上り、探ったりもした。
やはり何も、誰も見付からなかった。
結局その夜、騒ぐだけ騒いだ後、全員内心びくびくしながら、帰路に着いたのだった。
学校に怪談は付き物で、私の通っていた高校にも数多く存在した。
しかし不思議な事に、その事件が起きるまで、生徒ホールで怪談が囁かれた例は無かったと言う。
結果、体験した私達は、新たな怪談の発信者になってしまった訳だが……
後日暗室を使用している写真部員に、今迄隣のホールから声が聞えた事が有るか尋ねてみたが、その部員は1回も聞いてないと答えた。
美術部員6人全員が聞いた、あの気味の悪い男とも女とも、そもそも人間の声とも判断のつかない物音の正体は、果たして何だったのか…?
体験した者同士、今でも時々集まっては、首を傾げて推理し合っている。
その内の1人はあまりに気になった為、卒業してから1度訪れ、探ってみたそうだが、疾うにホールは閉鎖され、完全な物置になっていたそうだ。
夜学でもないかぎり、学校は昼に通う場所だ。
日々通っていながら、夜の学校を知る機会は割りと少ない。
大勢が知っていながら、大勢の知らない影が有る事も、学校に怪談を多く集める理由だろう。
貴殿の学校に通うのは、貴殿と同じ生徒や、教師以外にも居るやも知れぬ。
その存在の正体を知りたくば、授業を終えた後、独り校舎に残り、探ってみては如何だろう。
…今夜の話は、これでお終い。
さあ…蝋燭を1本吹消して貰えるかな。
……有難う。
それでは妙な物音を耳にしない内に、気を付けて帰ってくれ給え。
――いいかい?
夜道の途中、背後は絶対に振返らないように。
夜中に鏡を覗かないように。
風呂に入ってる時に、足下を見ないように。
そして、夜に貴殿の名を呼ぶ声が聞えても、決して応えないように…。
御機嫌よう。
また次の晩に、お待ちしているからね…。
今夜は昨夜約束した通り、「学校の怪談」第2弾を話そう。
夏休みも後半に入ると、そろそろ学校生活が恋しく思える筈…そうでもないかい?
貴殿は既に卒業しているだろうか?
それとも青春を謳歌してる最中の学生だろうか?
卒業すれば実感するだろうが、日々他人と同じ場所に通い、同じものを学ぶ経験は貴重と言っていい。
同じ場所に通うだけなら、卒業して会社勤めでもすれば、可能だがね。
昨夜も語ったが、学校に怪談が数多く集まるのは、大勢が同じく過す場所柄、共感を得易いからだろう。
今夜話すのは、このブログの主が実際に体験した事だ。
大して恐くはないが、何時かの納涼のタネにでもして貰いたい。
怪談の始め方としては常套だが、私の通っていた高校は、かなり古い歴史を持っていた。
校舎は幾度か改築され、木造でこそなかったが、新棟旧棟の2つに分れ、その間には結構な広さの中庭が在った。
が、今回の舞台は中庭ではない。
ところで当時、私は美術部に所属していた。
部室は正門から遠く離れた旧棟の端に在り、窓からは「生徒ホール」と言う名で呼ばれる、小じんまりした建物が見えた。
この生徒ホールは生徒達の憩いと交流を目的に建てられたというのが名目らしく、中には卓球台が数台置いてあった。
ちなみに壁を隔てて横は写真部の暗室と物置と、使用目的がよく解らない小部屋が在ったが、それも今回の話にあまり関係は無い。
卓球台が置いてあるとはいえ、ボールやラケットは教員に許可を貰わなければ貸し出しは出来ず、加えて卓球部の活動は何故か別に体育館を使用して行われていたので、授業をさぼった生徒が身を隠す位な利用価値の、言わば校内で浮いた場所だったのだ。
あれは9月の始め頃だったろうか。
放課後、自分を加えて集まった部員は6名。
何時もの様にホールの隅へ卓球台をどかし、出来た空間に新聞紙を敷いて、ゲートにペンキを塗る作業を行っていた。
9月ともなれば下絵は済んでいる。
後は塗るだけ、追い込まれてはいたが、若干生れた余裕から、各自買って来た菓子を口にしつつ、和やかにダベりながら居たと記憶している。
腕時計の針が夜の8時を回る頃、そろそろ帰ろうかという話になった。
校舎側正面の硝子扉から外を見れば、夏を過ぎたばかりとはいえ、とっぷり暮れていた。
学校は高台にぽつんと建ち、駅までの道は商店も少なく、暗くて寂しい。
部員の殆どが女子である為、あまり遅くまで残る事は出来なかった。
全員帰る仕度を整え出した、その時だ。
「ううううううう………!」という気味の悪い唸り声が、四方の壁から迫る様に響いて聞えた。
ホールに居た全員の表情が強張って固まり、次の瞬間、けたたましく鳴るクラクションの様に口を開いて叫んだ。
「何今の気味悪い声ー!?」
「校内放送!?」
「今頃!?誰が何の目的で!?」
「そもそも今の声か!?」
校内放送と思ったほど、その声(?)はホール全体を大きく震わして聞えた。
だがそれはない、何故ならホールにスピーカーは設置されていない。
「蝦蟇蛙の声か何かでは?」という意見も出たので、硝子扉を除く三方の壁に嵌った窓を開けて確認したりもした。
しかし何も見付からなかった。
そもそもホール側に水場は無い。
校舎から離れて建つホールの周囲には、だだっ広い土のグラウンドと、背の低い雑草が疎らに生えてる位の寂しい裏庭しかない。
誰かが、もしくは何かが潜んで居たとすれば、忽ち姿を明らかにしている筈だった。
念の為隣の暗室や物置等も検めたが、鍵の掛けられた暗室は兎も角、他からは何も見付からなかった。
もし暗室に人が潜んで居て、悪戯から声を発したとしても、四方の壁を震わすほどの仕掛けをどの様に行ったと言うのか?
屋根に犬猫の獣でも居るのではとも考え、窓に足を掛けて上り、探ったりもした。
やはり何も、誰も見付からなかった。
結局その夜、騒ぐだけ騒いだ後、全員内心びくびくしながら、帰路に着いたのだった。
学校に怪談は付き物で、私の通っていた高校にも数多く存在した。
しかし不思議な事に、その事件が起きるまで、生徒ホールで怪談が囁かれた例は無かったと言う。
結果、体験した私達は、新たな怪談の発信者になってしまった訳だが……
後日暗室を使用している写真部員に、今迄隣のホールから声が聞えた事が有るか尋ねてみたが、その部員は1回も聞いてないと答えた。
美術部員6人全員が聞いた、あの気味の悪い男とも女とも、そもそも人間の声とも判断のつかない物音の正体は、果たして何だったのか…?
体験した者同士、今でも時々集まっては、首を傾げて推理し合っている。
その内の1人はあまりに気になった為、卒業してから1度訪れ、探ってみたそうだが、疾うにホールは閉鎖され、完全な物置になっていたそうだ。
夜学でもないかぎり、学校は昼に通う場所だ。
日々通っていながら、夜の学校を知る機会は割りと少ない。
大勢が知っていながら、大勢の知らない影が有る事も、学校に怪談を多く集める理由だろう。
貴殿の学校に通うのは、貴殿と同じ生徒や、教師以外にも居るやも知れぬ。
その存在の正体を知りたくば、授業を終えた後、独り校舎に残り、探ってみては如何だろう。
…今夜の話は、これでお終い。
さあ…蝋燭を1本吹消して貰えるかな。
……有難う。
それでは妙な物音を耳にしない内に、気を付けて帰ってくれ給え。
――いいかい?
夜道の途中、背後は絶対に振返らないように。
夜中に鏡を覗かないように。
風呂に入ってる時に、足下を見ないように。
そして、夜に貴殿の名を呼ぶ声が聞えても、決して応えないように…。
御機嫌よう。
また次の晩に、お待ちしているからね…。