やあ、いらっしゃい。
最近は朝と夜に、少し涼しい風を感じられる様になって来たね。
秋来ぬと 目にはさやかに 見えねども 風の音にぞ おどろかれぬる
立秋を過ぎ、季節は早くも秋へ…夏休みを満喫していた学生さんも、今頃はひたひたと近付く二学期を思って、溜息を吐いてるだろうか?
そんな学生さん達に送る、今夜と明日は「学校の怪談」だ。
これは或る高校の学生が、国語を担当する教師に聞いた話だと言う。
或る年の夏休み、或る体育会系の男子部が、校内で合宿を行った。
そして合宿の夜も更け、部の顧問だった男性教師2人が、シャワーを浴びようと、体育館横のシャワー室に連れ立って向った。
その途中、ふと隣の女用のシャワー室を見ると、電気が明々と点いている。
疾うに生徒達は全員シャワーを浴び終わったと思っていたが…まだマネージャーが残って居たのだろうか?
こんな時刻に女の子が…と不審を覚えなくもなかったが、何せ昼間炎天下のグラウンドで、若者らに付き合い、へとへとになるまで汗を掻いている。
早いとこさっぱりしたかった教師2人は、気にせず男用シャワー室に入った。
浴び終わってシャワー室を出ると、まだ女用シャワー室に電気が点いていた。
そこで顧問としての責任から、出て来るのを外で待つ事にした。
だが、暫く待っても出て来ない。
ひょっとして電気を消し忘れたのでは?
そう考えた顧問の教師は、女用シャワー室の扉を僅かに開けてみた。
すると中に、ランニングシャツ姿の女性が1人、立って居るのを認めたので、彼らは慌ててドアを閉めた。
なんだ、やっぱりマネージャーが使っていたのか。
そう考えた2人は、再び外で待つ事にした。
しかし5分過ぎても、10分過ぎても、15分過ぎても、何時まで経っても出て来ない。
あんまり長い事待たされた教師2人は、段々と心配になって来た。
まさか中で倒れて居るんじゃ…?
試しに大声で呼掛けてみた。
「おい!!どうかしたのか!?」
「具合でも悪くしたのか!?」
口々に呼掛けるも、返事が無い。
痺れを切らした教師2人は、ドアを開けて中に入った。
しかしそこには誰も居らず――明々と点いた電燈の下、床は乾き切っていたという。
…今も昔も夜の学校は怪談のスポットだ。
貴殿も通っている、或いは昔通っていた学校で、幾つかの怪談を耳にしたに違いない。
大勢が頭に思い浮べられる場所、それ故に怪談の背景にも、選ばれ易いのだろう。
…今夜の話は、これでお終い。
さあ…蝋燭を1本吹消して貰えるかな。
……有難う。
それでは気を付けて帰ってくれ給え。
――いいかい?
夜道の途中、背後は絶対に振返らないように。
夜中に鏡を覗かないように。
風呂に入ってる時に、足下を見ないように。
そして、夜に貴殿の名を呼ぶ声が聞えても、決して応えないように…。
御機嫌よう。
また次の晩に、お待ちしているからね…。
『現代民話考〔第二期〕―学校―(松谷みよ子、編著 立風書房、刊)』より。
最近は朝と夜に、少し涼しい風を感じられる様になって来たね。
秋来ぬと 目にはさやかに 見えねども 風の音にぞ おどろかれぬる
立秋を過ぎ、季節は早くも秋へ…夏休みを満喫していた学生さんも、今頃はひたひたと近付く二学期を思って、溜息を吐いてるだろうか?
そんな学生さん達に送る、今夜と明日は「学校の怪談」だ。
これは或る高校の学生が、国語を担当する教師に聞いた話だと言う。
或る年の夏休み、或る体育会系の男子部が、校内で合宿を行った。
そして合宿の夜も更け、部の顧問だった男性教師2人が、シャワーを浴びようと、体育館横のシャワー室に連れ立って向った。
その途中、ふと隣の女用のシャワー室を見ると、電気が明々と点いている。
疾うに生徒達は全員シャワーを浴び終わったと思っていたが…まだマネージャーが残って居たのだろうか?
こんな時刻に女の子が…と不審を覚えなくもなかったが、何せ昼間炎天下のグラウンドで、若者らに付き合い、へとへとになるまで汗を掻いている。
早いとこさっぱりしたかった教師2人は、気にせず男用シャワー室に入った。
浴び終わってシャワー室を出ると、まだ女用シャワー室に電気が点いていた。
そこで顧問としての責任から、出て来るのを外で待つ事にした。
だが、暫く待っても出て来ない。
ひょっとして電気を消し忘れたのでは?
そう考えた顧問の教師は、女用シャワー室の扉を僅かに開けてみた。
すると中に、ランニングシャツ姿の女性が1人、立って居るのを認めたので、彼らは慌ててドアを閉めた。
なんだ、やっぱりマネージャーが使っていたのか。
そう考えた2人は、再び外で待つ事にした。
しかし5分過ぎても、10分過ぎても、15分過ぎても、何時まで経っても出て来ない。
あんまり長い事待たされた教師2人は、段々と心配になって来た。
まさか中で倒れて居るんじゃ…?
試しに大声で呼掛けてみた。
「おい!!どうかしたのか!?」
「具合でも悪くしたのか!?」
口々に呼掛けるも、返事が無い。
痺れを切らした教師2人は、ドアを開けて中に入った。
しかしそこには誰も居らず――明々と点いた電燈の下、床は乾き切っていたという。
…今も昔も夜の学校は怪談のスポットだ。
貴殿も通っている、或いは昔通っていた学校で、幾つかの怪談を耳にしたに違いない。
大勢が頭に思い浮べられる場所、それ故に怪談の背景にも、選ばれ易いのだろう。
…今夜の話は、これでお終い。
さあ…蝋燭を1本吹消して貰えるかな。
……有難う。
それでは気を付けて帰ってくれ給え。
――いいかい?
夜道の途中、背後は絶対に振返らないように。
夜中に鏡を覗かないように。
風呂に入ってる時に、足下を見ないように。
そして、夜に貴殿の名を呼ぶ声が聞えても、決して応えないように…。
御機嫌よう。
また次の晩に、お待ちしているからね…。
『現代民話考〔第二期〕―学校―(松谷みよ子、編著 立風書房、刊)』より。