【前回の続きです。】
我に返った時は、既に山端近くまで、陽が傾いていた。
あっという間に黄昏に染まった場内、釣瓶落しとはよく言ったもんだわ。
予約しといた長崎空港行高速船の出発時刻まで、もう後15分足らず。
慌てて3人して出航場所、『マリンターミナル』へと向う。
出入口の所では、タンテ・アニーの店員さんが、出張販売をしていた。
…こんな所まで…商魂逞しいと言うか…。(でも商売人として、見上げた心意気よね)
待合席の前には、場内の季節イベントを流してるTV。
ゴスペルライブ・ショーや、ラィティング・セレモニーといった、懐かしい映像の数々。
2泊3日なんて、短いもんだったわよねー…。
2人に待合席で座ってるよう言い、側の高速船発券所で、人数分の券を貰った。
後5分もしたら乗船出来るんで、準備しといて下さいと説明される。
発券所を横に、ルフィとゾロはシートに並んで座っていた。
ルフィを間に挟んで座り、貰った乗船券を渡す。
後10分…10分で…この、時が極めて遅く流れてるよな街と、サヨナラしちゃうのね…。
今度来れるのは何時になるんだろう?
不吉な想像だけど、その頃まで、この街は在るだろうか?
決して多くはない待合客の数を見てると不安になった。
「しかし最後まで忙しねェ旅だったよなァァ。…場内幾度となく駆け摺り廻らされてよォォ。」
如何にもくたびれた風で、首をコキコキ鳴らしながらゾロが言う。
「一体場内何周したんだろうなァー?帰って体重計乗ったら、やせてたりしてな♪」
「『ダイエットに効果有。万歩計持参してお出でませ。』なんて、キャッチコピー出して宣伝すりゃあ、挙って女共が来るんじゃねェの?」
「うはははは♪♪ゾロ!!お前、上手い事言うなァァ~~~!!売り込んでみろよ!!ナイスアイディアだっつって、さい用されっかもしんねーぞ!!」
「広々としてますよったって、限度が有らァな。全部廻る気なら、3泊は必要なんじゃねェか?」
「そうだなァ~~~。広いのは気持ち良いし、好きなんだけどな。結局、乗りたかった物とか、行きたかったトコとか残っちまって、ちょっと欲求不満だよなァ~~~。」
「消化不良っぽいよな。…まァ、でも…漸く帰れるっつか。本音言うと、握り飯とか、簡単に食えるもんに飢えて来ててな…此処の食いもんはまずまず美味ェが、やっぱ家の飯が1番だよな。」
「それ言ったら俺はカップメンが食いてェ!」
「ルフィ、お前、外国行くなら、味噌汁とか茶漬けとか、山程インスタント食品背負ってけよ。向うではそうゆうの、あんま売ってねェらしいぞ。」
「え!?そうなのか!?よし!!カップメンにカップスープにインスタントみそ汁永○園のお茶づけ…あああ!!思い出したら食いたくなって来た……早く帰りてェェ~~~~~!!!」
「……………悪かったわねェェ2人共……こんな…来たくもない場所に連れて来ちゃって………」
「「あ??」」
ガタリと勢い良くシートから立上がる。
あっけにとられてる2人の顔を、思い切り睨め付けた。
最後くらい、喧嘩せずに気持ち良く、別れてやろうと思ってたけど…
もう駄目…我慢限界…堪忍袋がぷっつんだわ…!
「ゴメンねェ2人共!!最後まで私の我儘に付き合せちゃってェ!!でも恐らくこれで最後だろうから許してくれるゥ!?」
「…どしたんだナミ??顔が赤鬼みたくメチャ怖ェぞ???」
「……んだよ?その、『お終い』めいた言い様は?」
「でもさァァ!!そォんな行きたくなかったんなら、無理して来なきゃ良かったのに!!私だって…来たくもなかった奴と旅行したって、却って気分が悪くなるだけだわ…!!」
「は??…別に俺、行きたくなかったなんて、1度も言ってねェぞー??」
「……おい…ナミ…いきなり何ぶち切れてんだよ…?」
「ぶち切れちゃ悪い!!?足りなきゃついでに縁切ったげるわ!!!」
――ガタン!!と音立てて、ゾロも立上がる。
怖い顔して傍寄って、腕を力いっぱい摑まれた。
「離してよ!!!痛いでしょォ!!!」
「我儘もいいかげんにしろっつったろ馬鹿女!!!最後最後最後最後って…てめェはそんなに俺達と別れたいのかよっっ!!?」
「別れたがってんのはあんた達の方じゃない!!!っつかもっと性質悪く眼中に無!!?自分達の夢追っ駆けるのに夢中で、残される人間の寂しさなんて考えた事無いんでしょ薄情者共!!!」
「薄情者だァ!!?こっちの気も知らず悲劇のヒロイン気取りかよ!!?そんな寂しけりゃ一緒に来りゃ良いだろがいっその事!!!」
「一緒に行ける訳無いでしょ!!!私にだって追い駆けたい夢が有るんだからっっ!!!」
「人薄情者扱いして何だよその自己中態度は!!?だったらお互い様だろがっっ!!!」
「……あの……お話中失礼ですが……そろそろ出航時刻となりますので…乗船して頂けませんでしょうか…」
「誰だ?おっさん??」
「乗船案内の者です。…他の皆さん、既に乗船して待ってますんで…済みませんが、話を切り上げて…あの……」
「あーー…この2人の口ゲンカなら、放っときゃその内カタ付くから、ちょっと待っててくれよ♪」
「いえ、待っててったって……もう間も無く出航――」
「何他人事みてェに呑気に座って観客面してんだルフィ!!!?」
「そうよ!!!ゾロだけじゃなく、あんたにも言ってんだからね!!!」
「何だよーー!?俺まで巻き込むつもりかァーーー!?関係無ェんだから止めてくれよなァーーー!!」
「おめェが何時までも仲裁しようとしねェから平行線なるんだろがっっ!!!何で止めねェんだ!!?薄情者!!!」
「俺のどこがはくじょうだってんだ!!!?いつでも2人して勝手にケンカしていつの間にか仲直りして、止めに入る必要無ェだろバカヤロウ!!!!」
「そんな事問題にして無いでしょ!!?話逸らすなゾロ!!!」
「馬鹿野郎だァァ!!!?――人がわざわざ、何で2人だけで廻らせたと思ってんだ!!!?鈍感馬鹿!!!!」
「知るか!!!!そんなの!!!!何でだよっっ!!!?」
「服が濡れてしんどくて廻りたくなかったからでしょ!!!!来たくなかったんなら最初から付いて来んな馬鹿迷子!!!!」
「迷子言うんじゃねェ!!!!来たくねェなんて1度も言ってねェだろがっっ!!!!――この女に付き合って話聞いてやって甘えさせてやりたくとも俺じゃあ直ぐ喧嘩になっちまって出来ねェからお前に期待して頼んだんだろうがっっ!!!!」
「甘えさせるって何よ!!!?私が何時甘えさせてなんて頼んだっつうの!!!?人の知らぬ間にこっそり失礼な事頼んでんじゃないわよ!!!!」
「そうだ!!!!何でナミ甘えさせてやんなきゃなんねーんだよ!!!?俺だって甘えてェ!!!!」
「おめェが甘えてどうするよ!!!?っつか四六時中思うが侭甘えてんだろが!!!!――ナミが…俺達と離れるのが嫌で…寂しくて…せめて最後くらい甘えさせて欲しい思ってんのが、解んねェのかてめェにはァァ…!!!!?」
「………何だ、ナミ。おめェ、俺たちと離れるのがイヤで、さびしがってたのか?」
「う………う……うっさァァァい!!!!!あんた達みたいな薄情者、遥か彼方のM78星雲まで行っちまえば良いんだっっ…!!!!!」
「………そんな遠くまでは行けねェよ。ったく、でっけェ乳して、中味はてんでガキっつうか…!!」
「ゾロもそう思うか!?マジでっけェェよなァ~~~!!!コートの上からでもくっきり判るデカパイ!!俺、感動しちま―――」
――ドゴッッ!!!!メキャッッ!!!!
「…も、物も言わずにアッパーで殴んな!!!防御する間位与えろよ!!!!」
「るさいっっ!!!!セクハラで訴えられたいかあんたら!!!!?」
「い…良い、右ストレートだったぜ……さすがだな、ナミ…!!」
「…っとに……何であんた達…こ…な…デリカシー無い……だか…!!!」
「あ、ナミ泣かしちまった!!!…悪い奴だなー、ゾロ!」
「おめェが泣かせたんだろうがっっ!!!責任転嫁してんじゃねェよ!!!」
「2人揃って泣かせたんでしょ馬鹿ァァ…!!!!」
…連れて来るんじゃなかった…連れて来るんじゃなかった…!!
せめて…最後くらい…楽しい思い出作っておこうとしたのに…!!
こいつらちっとも…こっちの気持ちなんか解ってくれようとしない…!!
春になったら、会えなくなっちゃうんだよ…?
それぞれ分かれた道進んで……それが、2度と交差しないかもしれないのに…!!
あんた達は平気なの…?
寂しくないの…?
何でそんな、ヘラヘラヘラヘラ笑ってられんのよっっ…!?
「なァ~~~ナミィ~~~。泣き止んでくれよォ~~~。おめェ泣かすと、おめェんトコのおっさんに死ぬほど怒られて怖ェんだからよォ~~~。」
「…知るか馬鹿ァァ!!!むしろ私からゲンさんに頼んで半殺しにして貰うわよっっ!!!」
「いィィ!!?半殺しィィ!!?――ヤベェよゾロ!!早く行っちまわないと、おめェ身が危険だぞ!!」
「だからおめェの身が危険なんだろっつうの!!!」
「どっちもに決まってるでしょうがっっ!!!!」
馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿…!!
もう知るもんか、行っちまえ、薄情者共!!
今此処で縁切りだわ!!むしろこっちから2度と会ってやるもんか!!
卒業したら赤の他人、写真も何もかも全部破り捨てて、記憶から排除してやるっっ!!!
「あのよ…ナミ……俺、20歳になったら、戻って来っから。そしたら……また、皆でここ来ようぜ!」
泣いて床に蹲る私の耳に、ルフィの声が届いた。
顔を上げる、コートの袖で涙を拭う。
ルフィが、目の前に座ってた。
「………信じられないわよ…あんたの口約束なんて…!!」
――ポン…と、頭の上に、何かが被された。
「……本当は、麦わらだったら良かったんだけどな。」
そう言って、にししっと、歯を剥き出しにして笑う。
手で触れたそれは、正面に鍔の有る帽子……さっきまでルフィが被ってた、船長帽だった。
「――必ず、約束する!!…それは『ちかいのボウシ』だ…!!」
………誓いの、帽子…?
「…ったく、黙って聞いてりゃ、今生の別れでもあるかの様に……大袈裟なんだよ、てめェは!離れるったって、同じ日本国内だろがっっ!!」
ルフィの隣に来て、ゾロも床に胡坐を掻く。
「そうだ!!俺だって同じ地球の上じゃんか!!大げさだな、ナミは!!」
「いや、おめェは少し大袈裟に捉えとけよ。…大体、俺達てめェに借金してるしな……それとも踏み倒し許してくれんのかよ?」
「許す訳無いでしょ!!!?地獄の果てまでだって取り立てに行ってやるわ!!!!」
「それ見ろ!縁切る気全く無ェんじゃんか!」
「つかあんたら!!!卒業前迄には耳揃えて払ってくれるんでしょうね!!!?延滞する分だけ利子増してくんだから、早く払いなさいよ!!!!」
「安心しろ!!ナミ!!出世したらまとめて払う!!!」
「信用出来ないっつったでしょ馬鹿者ォーーーー!!!!!」
「まーとにかく、20歳まで後…たったの2年だろ?今度は皆してここ来て、どんちゃん騒ぎしようぜェ♪♪」
「ハウステンボスで同窓会か……悪くねェんじゃねェか?」
「その頃まで……此処……もたないかもしれないじゃない……」
「「もたねェ??」」
「此処ね……すっごい赤字なんだって……1度、倒産もしてるし……ひょっとしたら、2年後は、もう…無いかも…!!」
会える港を失くしたら、私は皆を、何処で待てば良いの…?
「千年続く街だっつうたじゃんか。」
「……それは、あくまで理想よ、ルフィ。」
「でもこんだけしっかり、がんじょーに造ってあるんだ!建物は必ず残るだろ!?」
建物だけ残ってたって……!!
「なァ、ナミ!………会いてェヤツが居て、そいつと行きてェ場所が在んなら、何度だって廻り合えるさ!!」
そう言ってルフィが微笑む。
人を安心させる、太陽の様な笑みで。
「……本当に、あんたって、理想主義者なんだから…!!」
「…あの……お話の決着はなされましたでしょうか…?」
案内係と思しき小父さんが、おずおずと側近寄り、喋り掛けて来た。
「とうに出航時刻を10分も過ぎております…他の乗客の方の御迷惑になってしまいますので、お早目に…あの……」
はっとして身を起す。
気付いた時には、私達の周囲は、黒山の人集りで、垣根が作られていた…。
「おい…向う戻ったら俺、携帯買いに行くから、付き合えよ。」
入国した時の様に、海に長く伸びた桟橋を、駆け足で渡ってる途中で、ゾロに肩を摑まれ耳打ちされた。
「携帯??……あんたが!?…何の為に!??」
「俺1人じゃ、機種とか何選んだら良いか、判んねェからな。だから、付き合え。」
「……肌身離さず電話持つのは、考えるだけで煩わしいんじゃなかったの?」
「それで……どうしても寂しくて仕方ねェ時は、俺に電話しろ。何時でも、会いに行ってやっから…!」
話した後でポンと私の背中を叩くと、急いでルフィの後を追い、船内へと入ってった。
「………ゾロ……。」
私も、案内係に急かされ、船へと走る。
桟橋に繋留された、来た時と同じ、小さな高速船。
振り返れば、すっかり薄暮に包まれた、童話めいた煉瓦の街並。
橙色に灯った街灯が、暗い海面にまで光を投げる。
2年後……この街は、変らず在ってくれるだろうか?
会いたい人に廻り合える場所で、在ってくれるだろうか…?
【その40に続】
写真の説明~、ニュースタッド、アムステル運河の夕景。
夕方5時を過ぎると、場内にポツリ…ポツリ…と灯りが点き出します。
漸く、ラスト…ワン…!!(お疲れ様~)(汗)
我に返った時は、既に山端近くまで、陽が傾いていた。
あっという間に黄昏に染まった場内、釣瓶落しとはよく言ったもんだわ。
予約しといた長崎空港行高速船の出発時刻まで、もう後15分足らず。
慌てて3人して出航場所、『マリンターミナル』へと向う。
出入口の所では、タンテ・アニーの店員さんが、出張販売をしていた。
…こんな所まで…商魂逞しいと言うか…。(でも商売人として、見上げた心意気よね)
待合席の前には、場内の季節イベントを流してるTV。
ゴスペルライブ・ショーや、ラィティング・セレモニーといった、懐かしい映像の数々。
2泊3日なんて、短いもんだったわよねー…。
2人に待合席で座ってるよう言い、側の高速船発券所で、人数分の券を貰った。
後5分もしたら乗船出来るんで、準備しといて下さいと説明される。
発券所を横に、ルフィとゾロはシートに並んで座っていた。
ルフィを間に挟んで座り、貰った乗船券を渡す。
後10分…10分で…この、時が極めて遅く流れてるよな街と、サヨナラしちゃうのね…。
今度来れるのは何時になるんだろう?
不吉な想像だけど、その頃まで、この街は在るだろうか?
決して多くはない待合客の数を見てると不安になった。
「しかし最後まで忙しねェ旅だったよなァァ。…場内幾度となく駆け摺り廻らされてよォォ。」
如何にもくたびれた風で、首をコキコキ鳴らしながらゾロが言う。
「一体場内何周したんだろうなァー?帰って体重計乗ったら、やせてたりしてな♪」
「『ダイエットに効果有。万歩計持参してお出でませ。』なんて、キャッチコピー出して宣伝すりゃあ、挙って女共が来るんじゃねェの?」
「うはははは♪♪ゾロ!!お前、上手い事言うなァァ~~~!!売り込んでみろよ!!ナイスアイディアだっつって、さい用されっかもしんねーぞ!!」
「広々としてますよったって、限度が有らァな。全部廻る気なら、3泊は必要なんじゃねェか?」
「そうだなァ~~~。広いのは気持ち良いし、好きなんだけどな。結局、乗りたかった物とか、行きたかったトコとか残っちまって、ちょっと欲求不満だよなァ~~~。」
「消化不良っぽいよな。…まァ、でも…漸く帰れるっつか。本音言うと、握り飯とか、簡単に食えるもんに飢えて来ててな…此処の食いもんはまずまず美味ェが、やっぱ家の飯が1番だよな。」
「それ言ったら俺はカップメンが食いてェ!」
「ルフィ、お前、外国行くなら、味噌汁とか茶漬けとか、山程インスタント食品背負ってけよ。向うではそうゆうの、あんま売ってねェらしいぞ。」
「え!?そうなのか!?よし!!カップメンにカップスープにインスタントみそ汁永○園のお茶づけ…あああ!!思い出したら食いたくなって来た……早く帰りてェェ~~~~~!!!」
「……………悪かったわねェェ2人共……こんな…来たくもない場所に連れて来ちゃって………」
「「あ??」」
ガタリと勢い良くシートから立上がる。
あっけにとられてる2人の顔を、思い切り睨め付けた。
最後くらい、喧嘩せずに気持ち良く、別れてやろうと思ってたけど…
もう駄目…我慢限界…堪忍袋がぷっつんだわ…!
「ゴメンねェ2人共!!最後まで私の我儘に付き合せちゃってェ!!でも恐らくこれで最後だろうから許してくれるゥ!?」
「…どしたんだナミ??顔が赤鬼みたくメチャ怖ェぞ???」
「……んだよ?その、『お終い』めいた言い様は?」
「でもさァァ!!そォんな行きたくなかったんなら、無理して来なきゃ良かったのに!!私だって…来たくもなかった奴と旅行したって、却って気分が悪くなるだけだわ…!!」
「は??…別に俺、行きたくなかったなんて、1度も言ってねェぞー??」
「……おい…ナミ…いきなり何ぶち切れてんだよ…?」
「ぶち切れちゃ悪い!!?足りなきゃついでに縁切ったげるわ!!!」
――ガタン!!と音立てて、ゾロも立上がる。
怖い顔して傍寄って、腕を力いっぱい摑まれた。
「離してよ!!!痛いでしょォ!!!」
「我儘もいいかげんにしろっつったろ馬鹿女!!!最後最後最後最後って…てめェはそんなに俺達と別れたいのかよっっ!!?」
「別れたがってんのはあんた達の方じゃない!!!っつかもっと性質悪く眼中に無!!?自分達の夢追っ駆けるのに夢中で、残される人間の寂しさなんて考えた事無いんでしょ薄情者共!!!」
「薄情者だァ!!?こっちの気も知らず悲劇のヒロイン気取りかよ!!?そんな寂しけりゃ一緒に来りゃ良いだろがいっその事!!!」
「一緒に行ける訳無いでしょ!!!私にだって追い駆けたい夢が有るんだからっっ!!!」
「人薄情者扱いして何だよその自己中態度は!!?だったらお互い様だろがっっ!!!」
「……あの……お話中失礼ですが……そろそろ出航時刻となりますので…乗船して頂けませんでしょうか…」
「誰だ?おっさん??」
「乗船案内の者です。…他の皆さん、既に乗船して待ってますんで…済みませんが、話を切り上げて…あの……」
「あーー…この2人の口ゲンカなら、放っときゃその内カタ付くから、ちょっと待っててくれよ♪」
「いえ、待っててったって……もう間も無く出航――」
「何他人事みてェに呑気に座って観客面してんだルフィ!!!?」
「そうよ!!!ゾロだけじゃなく、あんたにも言ってんだからね!!!」
「何だよーー!?俺まで巻き込むつもりかァーーー!?関係無ェんだから止めてくれよなァーーー!!」
「おめェが何時までも仲裁しようとしねェから平行線なるんだろがっっ!!!何で止めねェんだ!!?薄情者!!!」
「俺のどこがはくじょうだってんだ!!!?いつでも2人して勝手にケンカしていつの間にか仲直りして、止めに入る必要無ェだろバカヤロウ!!!!」
「そんな事問題にして無いでしょ!!?話逸らすなゾロ!!!」
「馬鹿野郎だァァ!!!?――人がわざわざ、何で2人だけで廻らせたと思ってんだ!!!?鈍感馬鹿!!!!」
「知るか!!!!そんなの!!!!何でだよっっ!!!?」
「服が濡れてしんどくて廻りたくなかったからでしょ!!!!来たくなかったんなら最初から付いて来んな馬鹿迷子!!!!」
「迷子言うんじゃねェ!!!!来たくねェなんて1度も言ってねェだろがっっ!!!!――この女に付き合って話聞いてやって甘えさせてやりたくとも俺じゃあ直ぐ喧嘩になっちまって出来ねェからお前に期待して頼んだんだろうがっっ!!!!」
「甘えさせるって何よ!!!?私が何時甘えさせてなんて頼んだっつうの!!!?人の知らぬ間にこっそり失礼な事頼んでんじゃないわよ!!!!」
「そうだ!!!!何でナミ甘えさせてやんなきゃなんねーんだよ!!!?俺だって甘えてェ!!!!」
「おめェが甘えてどうするよ!!!?っつか四六時中思うが侭甘えてんだろが!!!!――ナミが…俺達と離れるのが嫌で…寂しくて…せめて最後くらい甘えさせて欲しい思ってんのが、解んねェのかてめェにはァァ…!!!!?」
「………何だ、ナミ。おめェ、俺たちと離れるのがイヤで、さびしがってたのか?」
「う………う……うっさァァァい!!!!!あんた達みたいな薄情者、遥か彼方のM78星雲まで行っちまえば良いんだっっ…!!!!!」
「………そんな遠くまでは行けねェよ。ったく、でっけェ乳して、中味はてんでガキっつうか…!!」
「ゾロもそう思うか!?マジでっけェェよなァ~~~!!!コートの上からでもくっきり判るデカパイ!!俺、感動しちま―――」
――ドゴッッ!!!!メキャッッ!!!!
「…も、物も言わずにアッパーで殴んな!!!防御する間位与えろよ!!!!」
「るさいっっ!!!!セクハラで訴えられたいかあんたら!!!!?」
「い…良い、右ストレートだったぜ……さすがだな、ナミ…!!」
「…っとに……何であんた達…こ…な…デリカシー無い……だか…!!!」
「あ、ナミ泣かしちまった!!!…悪い奴だなー、ゾロ!」
「おめェが泣かせたんだろうがっっ!!!責任転嫁してんじゃねェよ!!!」
「2人揃って泣かせたんでしょ馬鹿ァァ…!!!!」
…連れて来るんじゃなかった…連れて来るんじゃなかった…!!
せめて…最後くらい…楽しい思い出作っておこうとしたのに…!!
こいつらちっとも…こっちの気持ちなんか解ってくれようとしない…!!
春になったら、会えなくなっちゃうんだよ…?
それぞれ分かれた道進んで……それが、2度と交差しないかもしれないのに…!!
あんた達は平気なの…?
寂しくないの…?
何でそんな、ヘラヘラヘラヘラ笑ってられんのよっっ…!?
「なァ~~~ナミィ~~~。泣き止んでくれよォ~~~。おめェ泣かすと、おめェんトコのおっさんに死ぬほど怒られて怖ェんだからよォ~~~。」
「…知るか馬鹿ァァ!!!むしろ私からゲンさんに頼んで半殺しにして貰うわよっっ!!!」
「いィィ!!?半殺しィィ!!?――ヤベェよゾロ!!早く行っちまわないと、おめェ身が危険だぞ!!」
「だからおめェの身が危険なんだろっつうの!!!」
「どっちもに決まってるでしょうがっっ!!!!」
馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿…!!
もう知るもんか、行っちまえ、薄情者共!!
今此処で縁切りだわ!!むしろこっちから2度と会ってやるもんか!!
卒業したら赤の他人、写真も何もかも全部破り捨てて、記憶から排除してやるっっ!!!
「あのよ…ナミ……俺、20歳になったら、戻って来っから。そしたら……また、皆でここ来ようぜ!」
泣いて床に蹲る私の耳に、ルフィの声が届いた。
顔を上げる、コートの袖で涙を拭う。
ルフィが、目の前に座ってた。
「………信じられないわよ…あんたの口約束なんて…!!」
――ポン…と、頭の上に、何かが被された。
「……本当は、麦わらだったら良かったんだけどな。」
そう言って、にししっと、歯を剥き出しにして笑う。
手で触れたそれは、正面に鍔の有る帽子……さっきまでルフィが被ってた、船長帽だった。
「――必ず、約束する!!…それは『ちかいのボウシ』だ…!!」
………誓いの、帽子…?
「…ったく、黙って聞いてりゃ、今生の別れでもあるかの様に……大袈裟なんだよ、てめェは!離れるったって、同じ日本国内だろがっっ!!」
ルフィの隣に来て、ゾロも床に胡坐を掻く。
「そうだ!!俺だって同じ地球の上じゃんか!!大げさだな、ナミは!!」
「いや、おめェは少し大袈裟に捉えとけよ。…大体、俺達てめェに借金してるしな……それとも踏み倒し許してくれんのかよ?」
「許す訳無いでしょ!!!?地獄の果てまでだって取り立てに行ってやるわ!!!!」
「それ見ろ!縁切る気全く無ェんじゃんか!」
「つかあんたら!!!卒業前迄には耳揃えて払ってくれるんでしょうね!!!?延滞する分だけ利子増してくんだから、早く払いなさいよ!!!!」
「安心しろ!!ナミ!!出世したらまとめて払う!!!」
「信用出来ないっつったでしょ馬鹿者ォーーーー!!!!!」
「まーとにかく、20歳まで後…たったの2年だろ?今度は皆してここ来て、どんちゃん騒ぎしようぜェ♪♪」
「ハウステンボスで同窓会か……悪くねェんじゃねェか?」
「その頃まで……此処……もたないかもしれないじゃない……」
「「もたねェ??」」
「此処ね……すっごい赤字なんだって……1度、倒産もしてるし……ひょっとしたら、2年後は、もう…無いかも…!!」
会える港を失くしたら、私は皆を、何処で待てば良いの…?
「千年続く街だっつうたじゃんか。」
「……それは、あくまで理想よ、ルフィ。」
「でもこんだけしっかり、がんじょーに造ってあるんだ!建物は必ず残るだろ!?」
建物だけ残ってたって……!!
「なァ、ナミ!………会いてェヤツが居て、そいつと行きてェ場所が在んなら、何度だって廻り合えるさ!!」
そう言ってルフィが微笑む。
人を安心させる、太陽の様な笑みで。
「……本当に、あんたって、理想主義者なんだから…!!」
「…あの……お話の決着はなされましたでしょうか…?」
案内係と思しき小父さんが、おずおずと側近寄り、喋り掛けて来た。
「とうに出航時刻を10分も過ぎております…他の乗客の方の御迷惑になってしまいますので、お早目に…あの……」
はっとして身を起す。
気付いた時には、私達の周囲は、黒山の人集りで、垣根が作られていた…。
「おい…向う戻ったら俺、携帯買いに行くから、付き合えよ。」
入国した時の様に、海に長く伸びた桟橋を、駆け足で渡ってる途中で、ゾロに肩を摑まれ耳打ちされた。
「携帯??……あんたが!?…何の為に!??」
「俺1人じゃ、機種とか何選んだら良いか、判んねェからな。だから、付き合え。」
「……肌身離さず電話持つのは、考えるだけで煩わしいんじゃなかったの?」
「それで……どうしても寂しくて仕方ねェ時は、俺に電話しろ。何時でも、会いに行ってやっから…!」
話した後でポンと私の背中を叩くと、急いでルフィの後を追い、船内へと入ってった。
「………ゾロ……。」
私も、案内係に急かされ、船へと走る。
桟橋に繋留された、来た時と同じ、小さな高速船。
振り返れば、すっかり薄暮に包まれた、童話めいた煉瓦の街並。
橙色に灯った街灯が、暗い海面にまで光を投げる。
2年後……この街は、変らず在ってくれるだろうか?
会いたい人に廻り合える場所で、在ってくれるだろうか…?
【その40に続】
写真の説明~、ニュースタッド、アムステル運河の夕景。
夕方5時を過ぎると、場内にポツリ…ポツリ…と灯りが点き出します。
漸く、ラスト…ワン…!!(お疲れ様~)(汗)