瀬戸際の暇人

今年も偶に更新します(汗)

君と一緒に(ルナミ編-その17-)

2010年08月28日 18時18分44秒 | 君と一緒に(ワンピ長編)
前回の続きです。】





「無事で良かったわ…セグウェイが」
「どーせ俺はこわれても良かったさ!」

意地の悪いナミの一言に、ふてくされて返す。
何度も転んで体中しこたま打った。
服を脱いだらきっと全身青あざだらけだろう。
息を吸いこむたびにズキズキ痛む。

「インストラクターの人から聞いたんだけど、『セグウェイ』ってすっごく高いらしいわよ。最初発売された時なんか、1台60万円もしたんだって。そんな高価な物を海に落っことしてたらと想像すると……ゾッとしない?」
「俺だって海に落ちてたら、おぼれて死んでたかもしれねーんだぞ!少しはゾッとしてくれよ!」
「あんたが落ちたら私が助けるに決まってるじゃない!…セグウェイ引き上げてから」
「結局セグウェイを優先すんのかよ!?」
「だって…ルフィの方が頑丈に出来てるもん!」

そう言って、にっこりほほえまれたら、何も言えなくなる。
良いんだか悪いんだかナミの中で俺は最強、勉強以外で心配なんてされた事が無かった。

「何時までも拗ねてないの!そんだけ信頼されてる証じゃない♪」

パーカーにつっこんでた俺の右手を、ニコニコ顔で取り出す。
ギュッとにぎられると、手袋ごしに熱を感じた。

ツアーの最後、港の広場に立ってたクルクル色が変わるクリスマスツリーの前で、記念撮影をしてもらった。
追加リクエストで、港につながれた走らない帆船の前でも、写真を撮ってもらった。
帆船は赤くライトアップされていた。

見回せば「光の街」って名の通り、塔も河も何もかも金ピカリンに変わってた。
水に光が反射して、下にも星空が在るように見える。
まるでプラネタリウムに居るみてェだなと思った。

「…ところで、その『私』と一緒に居たっていう男」

ピカピカ光る並木道を歩いてる途中、ナミが手を引っ張りたずねて来た。

「あんたのバイト先の先輩のサンジ君とやらに、そんなに似てたの?」
「似てたってもんじゃねェ、本人そのものだった!まゆげもちゃんと巻いてたし!」
「けど本人なわけないんでしょ?」
「うん、電話したら、確かに家に居た」


念の為自宅に電話したら、二日酔いで苦しんでたらしいサンジは、陰にこもったすすり泣きで応えた。
ばりぞーごんののしり呪いの言葉を目いっぱいぶつけられ、終いには何わめいてんだか判らなくなったんで切った。
とりあえずサンジにも、その内良い事が起こればなと思う。


「あんたって、霊感が強い性質とか?」

ナミのくちびるがプルプル震えてる。
自分だって有り得ないと思うけど、2度も見たし、声だって確かに聞いた。
笑われるのはしんがいだったから、ムキんなって見た光景をしょーさいに説明した。
俺の話を聞き終えたナミは、名探偵みたくあごに手を当て考えこみ、おもむろにしゃべり出した。

「つまりあんたの供述を纏めるとこうね――『私』に瓜二つの女は、あんたの前に立つ度連れの男を変え、仲睦まじい様子を見せ付けた後、煙の如く消え去った」
「ああ、その通りだ!」
「この事から推理するに、あんたが目撃したそれは――」
「ふんふん!」
「単なるあんたの幻覚」

――ズルッとこけそうになった、実際ひざがカクンて抜けた。

「だって見かけた2度とも、私はルフィの傍に居たでしょう?アリバイは完璧だわ!」
「だからって俺の目を疑うってのかァー!?」
「ゴメンゴメン♪あんたの言う事を信じないわけじゃないのよ。ルフィは嘘吐けないし。…でもちょっと嬉しい、私が他の男と仲良くデートしてる幻覚を2度も見るなんて…それって他の男に私を取られたくない独占欲?」

ニマニマ笑ってつめ寄る。
そーいうかいしゃくはしてみなかったな…思わず腕を組んでもっこうする。
ナミが俺の耳にヒソヒソささやいた。

「『私』が他の男と仲良くしてるの見て、どう感じた?ヤキモチ妬いた?」

あれはナミを他の奴に奪われたくないって気持ちが見せた幻覚なのか?
けどナミのカッコが1度目と2度目で違ったのは何でだ?

「ムカついた?何とも思わなかった?」

何とも思わなかったわけねーだろ。
目に飛びこんだ瞬間、胸が鉄砲で撃たれて、血が噴き出たみてーに熱く感じた。
特にサンジがナミのひざの上に頭置いてるのを見た時は…すぐに消えてなかったら飛びかかって殴ってただろう。
知ってる男が相手だと、リアルさが増してよけいに腹立つ。

ムカムカ思い出してたら、左ほほを優しくつつかれた。
振り向くのがしゃくで、目だけをナミの方へ動かす。
並んで歩くナミは、嬉しそうに笑って、俺の事を見ていた。

金色の並木道を抜けて、教会が建っている広場に着く。
広場には土産や食べ物や飲み物を売る屋台が並んでた。
すげーな、屋台までキラキラしてる。
昼間モッフルを買ったバス電車もどきの屋台も停まってて、つい足がフラフラと側へ寄ってった。
土産代をけずって買っちまおうか?モッフル美味かったしなァ、それとも今度はナミが食べたクレープにするか、ホットドッグの方が食いで有るかな?
目移りしてるそこへ、ナミの残念そうなため息が聞えた。

「あーあ、点灯式終っちゃった…セグウェイ乗るのを決めた時点で諦めてはいたものの、観られるもんなら観たかったなァー」

屋台街の側には木のイスとテーブルが散らばってて、その前にはクリスマスデコレーションされたステージが、教会の横のかべにくっ付くように設置されてた。
行きのバスの運転手のおっさんが、17:50~この広場で点灯式をやるって言ってたっけ。
時計を見たら30分以上オーバーしてる、当然ステージは真っ暗、客席はガラガラだった。

「明日の晩も居るんだから、明日観りゃいーじゃんか!」
「勿論その積りよ。でも観たかったなァと思って。そしたら2度目はホテルの窓から観たわ」
「2度も観るほど楽しいショーなのか?一体どんな事やるんだ?」
「それは私も観た事無いから解らないけど、案内によると、公募したカップルにステージの上でプロポーズして貰うんだって。で、告白した後、街のイルミネーションをパーッと点灯させるらしいわ」
「え?そんだけか?だったら俺観なくていいや!他人のプロポーズ観たってつまんねーもん!」
「あら、他人のだって、プロポーズはロマンチックな気分にさせてくれるじゃない」
「そうかァ~?俺はそうは思わねーけどなァ~~」

いまいち理解出来ず、鼻をほじくる。

「ま、あんたにゃ永遠に理解出来ない感覚だろうけど…何時でも女の子はロマンチックな告白を夢見てるものよ。自分には叶わない夢ならば、せめて他人の夢に乗って叶えたい…だから少女漫画でラブストーリーが流行るんじゃない」

うっとりと話すナミの目は、教会と並んで立つクリスマスツリーに向いている。
金と赤の実が鈴生りのビッグツリー。
吸い寄せられるように木の下まで歩いてった時、教会の鐘が「サンタが街にやって来る」を演奏した。

「うお!!すげー!!」
「わぁ…綺麗ーv」

教会の正面を向いた俺達は、同時に歓声を上げた。
8つ有る窓が全部ライトアップされてる、それが鐘の音に合わせて、赤・青・黄・緑と、どんどん色を変えてく。
ナミも俺も立ち止まり、だまって眺めてた。

鐘が鳴るたび空気が震える。
曲の終り際、1段高くカーンと響いた。
それを合図に窓は赤紫色で静止し、俺達同様足を止めて眺めてたヤツらは、満足して離れてった。

広場が再び静かになっても、ナミはまだ夢から覚めないで居た。
うるんだ瞳で見上げたまま、ゆっくりため息を吐く。

その表情を見ていた俺は、良い事を思いついた。
教会正面入口の真下には花時計、そして正面入口の左右には階段。
俺はナミの手を引っ張って階段を駆け上がった。

「ちょっ!…何!?」

教会の扉を背にして立ち、ナミの体をテラスの手すりに押しつけた。
俺の思惑に気づかないナミは面食らってる。
今から告白する事を聞けば、もっとビックリするだろう。
想像したら胸がワクワク踊った。

舌かんだりしないよう、深呼吸をくり返す。
頭を1度空っぽにしてから、俺は広場に響き渡るくらいの大声で、プロポーズをした。

「ナミ!!俺はおまえが好きだ!!
 おまえとずっと一緒に生きて行きたい!!
 だから俺と結婚してくれ!!」


言った――ついに言ったぞ…!!
まるでマラソン20キロ完走した気分だ、息がゼーゼー鳴ってる。
けどものすごくスッキリした!
初めに計画したようにはいかなかったけど、目的を達成出来た事に満足した。
後はナミの返事を聞くだけ…予想通り真ん丸に開いた目を、俺はじっと見つめて待った。
ピンクだったほほが、火が点いたみてーに赤く変ってく。
俺自身、体が燃え出しそーなくらい熱い。
照れくささに「しししっ♪」って笑ったら、ナミも少し強ばった笑顔を返した。


「……私と…ずっと一緒に生きて行きたい…?」
「うん!死ぬまでずっと一緒にな!」
「…嘘吐き!」
「え?今何て言った??」

聞えた言葉がすぐに理解出来ず、聞き直してた。
ナミの目じりがつり上がってく、どうも怒ってるらしい。
ひょっとしてプロポーズの言葉が気に入らなかったのか?
そりゃねーよ!旅行に来る前から今まで、頭しぼって考えたってーのに!
努力も知らずにケチ付けやがってと、こっちまでムカッ腹立った。

「…何で俺がウソつきなんだよ?何時そんな事言ったってんだ?」
「『お前とずっと一緒に生きて行きたい』って、嘘でしょ!?」
「ウソなもんか!!本気で言ってる!!何で疑うんだ!?ナミは俺がウソでプロポーズするような奴だと思ってんのかよ!?」
「だってあんた!…高校卒業したらシャンクスって人追って、ヨット乗りになる積りなんでしょ!?それで世界1周する積りで居るんでしょ!?」

くちびるをワナワナ震わせてナミが怒鳴る。
気迫に負けた俺は、一瞬言葉を失くしちまった。
見つめるナミの目ん中に、水がじんわりたまってく。

「彼女より夢を選ぶ気で居るくせに…プロポーズなんてしないで!とっとと海へ出てけ!!」

まつげに引っかかってた涙が、1滴こぼれたとたん、次から次へとあふれ出した。
ナミは気が強くてめったに泣かない、なのに今日2回も泣かせちまった。
ウソ泣きだったら何度も有る、けれど母ちゃんが死んだ時だって、次の日には笑ってた。
だから俺はそんなナミを泣かせないようにしようって…絶対泣かさないって、ナミの母ちゃんの墓の前でちかったのに…。

「ナミ、聞いてくれよ!俺、ナミより夢を選ぶつもり無ェんだ!ナミも夢も両方選びたいと思ってる…!」

泣いてる顔を胸に押しつけた。
落ち着かせようと、震えてる背中を手の平で軽くたたく。
うつむいてすすり泣いてるナミを抱きしめたまま、俺はゆっくり言葉を続けた。

「…両方選ぶってのもちょっと違う……ナミが居て、俺の夢は実現するんだ。利用ってんじゃなくて…ナミも夢も俺にとっては同じ線の上に在るんだよ…1つにつながってんだ…」

「………無理よ」

ボソッとナミが声をもらす、聞きづらかったんで体を離した。
ナミはまだ泣き顔のままだ。
なのに口端は持ち上がり、笑ってるように見えたから、よけい不安になった。

「…ルフィ……私はあんたの夢に付き合えない」
「何でだ!?俺の事嫌いなのか!?」

ナミなら断らないと信じてた。
ちょっとためらったとしても、プロポーズを受けてくれると思ってたのに。

「嫌いなわけないじゃない!…あんたが何処へ行こうと、私はあんたが世界中で1番好き…!」

そう言いながら、ナミはゆっくりと階段の方へ後ずさりしてく。
本気で離れてく気なのを覚り、胸の中心から恐怖がわき起こった。
腕を取ろうとして、スッとよけられる。
近づくほどナミは遠ざかり、何時の間にか2人とも階段を下りて、広場に立っていた。

再び教会の鐘が響いた、それに合せて正面の窓が何色にも変る。
今度のはさびしい曲だ、何て言ったっけ?
音楽の授業でピアノでの演奏を聴いた事の有る、この曲の名前は――思い出そうと考えてるすきに、ナミは広場から、歩いて来た通りに移動してた。

「…好きだけど……私にはあんたと一緒の夢を見る事が出来ない…!だって私は…海が嫌いだから…!」
「そんなのウソだ!!ナミこそ大ウソつきだ!!だっておまえの母ちゃん海が大好きだったじゃねェか!!おまえの名前は海の『波』から取ったのに…その母ちゃんが大好きだったものを、おまえは嫌いになれるのか!?」
「大嫌いよ…!!!だって海の波は…私から母さんを攫って…あんたまで攫おうとしてる…!!」

駆け寄ろうとして足が止まる。
俺がつめた距離だけ、ナミは離れてこうとするからだ。
ナミの泣いてる顔が、イルミネーションを反射して、キラキラ光って見える。
離さない為にどうしたら良いのか、どう言えば良いのか、必死に考えても答えが見付からなかった。
ナミがまた口をゆがめて笑顔を作る。

「ごめん、ルフィ…!!
 『彼女より夢を選ぶ』なんて、非難するような言い方してごめん!!
 それで良いの…あんたは夢を追っ駆けてけば良いの!
 私は夢を追ってるあんたが好きなの!!
 あんたの夢の邪魔はしたくない……」

「邪魔になんかなるか!!!
 むしろ逆だ!!必要なんだって何度も言ってるだろ!?
 どうして解ってくれねェんだ!!!
 俺はカナヅチだし、ナミが居なくちゃ地図も読めねェんだぞ!!」

「大丈夫よ、ルフィなら!!
 だってあんたは太陽だもの!!
 私が居なくなっても、あんたは天性の明るさで、人を惹き付けられる!
 だから…私は………もう…………!」

言い終らない内に、ナミは体の向きを逆転させ、通りを駆け出した。

「ナミ!!!待てよナミ!!!」

叫んでも止まらない、何時の間にか出来てた人垣を押しのけ、元来た港街の方へと向かう。
俺も人をかき分け後を追った。
突き飛ばした数人から文句を言われたけど、構わずに先を急いだ。


橋を渡る。
三角形のクルクル色が変ってくクリスマスツリーを横切る。
何とか号って言う走らない帆船も横切ってく。

普通に走れば俺の方が速い、すぐに追いついてたはずだ。
けれど夜になるにつれ、通りは人で混み、進むたびにぶつかるから、どんどん距離が離されてった。


気がつけばナミの姿を見失い、俺は妙に静かな坂道の前に立っていた。
道の両わきに、金色の並木と外灯が続いてる。
子供のころ読んだ絵本に出て来る金の林を思い出した。
不気味なほど誰も居なかったから、ひょっとして知らぬ間にパークを出ちまったのかとあせった。

――と、その時、2つの影が動いてるのに気づいた。

男と女が並んで坂を上ってる。
暗かったけど、どちらも後姿に見覚えが有った。

男はゾロで、女はナミだ。


「ゾロ…!!ナミ!!!」


血がふっとうした。
疑問に思うより先に、足が坂を駆け上ってた。

「ゾロ!!ナミを連れてくな!!!
 ナミを連れてかないでくれ!!!
 そいつは絶対に渡せねェんだ!!!
 頼む!!…頼む!!――俺からナミを奪おうとするなァァァ…!!!!」

大声でどんなに呼びかけても、2人とも足を止めなかった。
振り向こうともしなかった。
聞えてすらいない様子で、肩を組み笑い合っている。
走ってるのに、歩いてる2人の足に、なぜか追いつけなかった。

坂を上がり切った所で、門が現れた。
2人がくぐってく、後から俺も飛びこんだ。


辺りが明るくなったように感じられた。
黄金色に光り輝く宮殿が正面に建っている。
自分は本当におとぎ話の世界に迷いこんだのかと思った。

そうさっかくするくらい、目の前の光景は現実じゃないみたいだった。
暗い森と空をバックに、堂々と建ってる黄金色の宮殿。
俺が立ってるそこは広々とした庭で、星くずを一面にこぼしたみたく、キラキラ輝いていた。








…写真はハウステンボスの冬季名物「光の宮殿」…の前庭。
「星屑の海」と表現したくなる様な素晴しい光景です。
しかし建物抜けて後庭に入ると、更なる美しい眺めが広がっているのです。

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2 コメント

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待ってて下さり有難う御座います! (びょり)
2010-08-30 21:13:36
連載1周年を迎えるのは嫌なので…遅い夏休みを取った今週中にでも、いいかげん完結させたく思います。
出来なかったら開き直って冬に完結予定。(汗)
忘れず応援下さり、本当に感謝致します。
期待を裏切らないように、後(多分)2回、頑張りますんで!
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待ってました! (四条)
2010-08-29 22:17:15
「君と一緒に」の続き、待っていました!!
急展開にビックリ。後半、ああ~どうなるの~と固唾をのんで見守ってました;;。
この続きも楽しみにしていますカラ!!
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