小寄道

日々生あるもの、魂が孕むものにまなざしをそそぐ。凡愚なれど、ここに一服の憩をとどけんかなと想う。

誰が、谷中の街並みを毀すのか?(2)

2019年10月10日 | まち歩き

谷中のことがTV(TBS「噂の東京マガジン」)で紹介された日の翌日、台東区主催の「街づくり協議会」(環境部会)の会合に、はじめて参加した(住民なら誰でも参加できるのであった!)。そこで感じたこと、考えたことなどを「覚書」としてまとめた。関心のある方は、ご高覧されたい。

この番組を観た地元の方は何人いたであろうか。少なくとも道路の拡幅等の件(4から4.6mへ)について、筆者のまわりの住民たちは、ほとんど知らなかったと言っていい。前記の「街づくり協議会」の環境部会について、道路拡幅について何年も議論されてきたらしいが、それらの経緯が浸透していないのは、私たちに住民の無関心を認めざるを得ない。しかし、周知徹底をはかり、住民との合意形成を積極的にすすめなければならない台東区側にも、その責務を問われても致し方ないだろう。(注1)

さて、今会合における区側の説明はあまりにも拙劣で、要領を得ないものであったのは残念だ。たぶん区側は、この場での言質をとられないよう焦点をぼかし、具体的な内容にふれないよう腐心していた。そんな様子があからさまなのは何ともし難い。

谷中の現在の街並みを気に入っている者は、むろん小生ばかりでない。谷中の行末に思いやられる人はたくさんいらっしゃる筈だ。

ということで、谷中のいわゆる住宅エリアといわれる場所の幾つかを、あらためて散歩がてら見てまわった次第。いつのまにか3階建ての家が出来ていて(セットバックしているから将来的には4mほどの道路になる)、普段通らない場所の様変わりがはっきりと確認できた。(現在、建替え中のところが、少なくとも5,6件あった)

いまそうしたエリアの道幅が、将来的には4.6mにも拡幅されて、なんと4階建ての建築も可能になるのだという。5,60年先のことになるだろうが、私たちの子孫たちは、谷中をノスタルジアという幻想だけでしか語ることができなくなる。そう思うと寂しいし、嘆息せざるをえない。

谷中の様変わりを予感させる通りを紹介しよう。三崎坂から入ったところの通り。もちろん、自動車侵入禁止だが3階建てが3,4棟出来ている。将来的には4階建ても建設可能になる。そうなれば、谷中らしさは崩壊するだろう。

▲入ってすぐの左手。セットバックして3階建てがある。右手奥にも見えないが2棟の3階建。この狭い通りに4階建てを許可し、道路を拡幅させようと、区側は狙っている。

▲セットバックして3階建てが2棟出来ている。


▲この通りには、正一位のお稲荷様がある。小生の餓鬼の頃から規模は同じ、よく残っていると思う。

▲上の通りの出口のところの住まい。この通りが4mに拡幅されても、この先は道幅が狭く車は抜けられない。また、左右への道が拡幅されるとしても、3,4世代先の話になるだろう。

▲これは別の通り。左側はバブル時代に分譲された3階建(後退済)。台東区長の住まいもある。右側には、昭和のころの住まいが未だ残っている。手前は空き家だが、イベント時に誰かが使う。奥の黒い2階建ては現在「HAGISO」の外国人向けホテルだ。古いアパートだから風呂なし。銭湯に行けるのが売りらしいが、6畳間で1万2千円以上もする宿泊費!

                 


  10月5日 谷中地区街づくり協議会 環境部会に参加して 谷中の街並みと路地の関係(覚書)

市民側の質問に関して、区側の回答がなんとも要領を得ない、誠意も感じられないものだった。質問の主旨を無視したとは言い過ぎだが、軽視あるいは歪曲して回答していると感じた。これは由々しき問題である。この一課長の回答は、オフィシャルなのものとして、即ち区側の公式な見解、判断、基準として捉えていいものか、初めて参加して疑義が生じた。

例えば、地上から軒の高さまでの高さが9mとの設定だが、その根拠を法制度および建築技術の観点から論理的に説明してほしいと、出席していた建築設計士の方が要望した。これに対して、区側の担当課長が、質問のポイントをずらした要領をえない説明なのだ。(初参加でそのように思えるほどで、回答するにあたっての定義づけなり、前提条件がまったく意識されていない。だから論旨が曖昧で、文脈に一貫性がない。質問者がなんども論理的に説明せよとのクレームをつけるのは無理もない。)

⇒傍らに技術担当らしき人がいるのだが、直截に回答させることをその課長が阻んでいるようにみえる。何のために同席しているのだろう?  他にもいたようだがなんだかなあ。

これらのやりとりは、初参加のものから見ればアナザーワールドだ。いや、ミステリアス・ワールド!

さらに件の「軒までの高さ9m」にしても、1年以上も前から質問しているのだが、これまでに、納得のいく説明をしていないらしいのだ。

●道路拡幅にしても、住宅地は現行10mの高さ制限があるのだが、将来的には12mまでOKになるとのこと。その前提となる根拠がわからない。(前提条件となる定義すらの説明もない)

●道路幅も4mから4.6mになるという。その理由がわからない(説明しないから)。すでに狭隘(あい)道路で、3階建てがポツポツと出来ているが、これらは4mの道路を想定してセットバックして建替えられている。

●4.6mに拡幅される(敷地が削られる乃至提供する)から容積率は緩和され、建物の高さ制限が12mになる? (道路斜線制限やら天空率緩和など尤もらしい机上の計算で煙に巻かれそうだ)。現在3階建まで高さ10m制限(建築基準法内)があるなかで、どうして4階建までOKの方針がでてくるのか。その定義がなされていないので、堂々巡りの議論に終始するだろう。4階建ては、高齢化・少子化社会にはふさわしくない。防災・防火対策にも逆行するものだ。

●そもそも建替えるときの基本的な枠組み、前提、ルールをきちんと公開されるべきだ。地権者だけでなく住民に対してつねに開示し、疑問があれば誠意をもって回答する仕組みを講ずるべきだ。(当方、地権者だが、民主主義以前の行政のやり方に理不尽さを感じる)

●以上の基本となる情報(区側の基本データ、こうした議論上のやりとりなど)すべて、ネット上において公開され、誰もが自由にコメントを書き入れられるようにするべきだ。⇒街づくり協議会のすべての部会運営が1時間半で決まっているため、議論は中途半端で収束する感が否めない。だから、ネットでの質疑応答のシステムをもうけることは、区側と住民の両者にとっても、有益なものとなるだろう。


◆私見:道路拡幅と路地が魅力的な景観、この二つのコンセプトは「トレードオフ」の関係にある。だから、道路拡幅のみの前提条件では、路地のある谷中らしい風情は保つことはできない。むしろ、防災・防火というコンセプトを優先させた街づくりがベターだし、よりスピーディで確実な「災害に強い」街づくりが実現されると考えられる。現在、小回りの良い消火技術、低コストの防災システムが次々と開発されている。2世代、3世代かけて道路拡幅をめざすよりも、より災害に強い、谷中らしい街づくりの最適な方法を採用してほしい。

以上


(注1):谷中の家の西川直子氏により、表記の間違いを指摘されたので若干語句を訂正した。環境部会における議論の変遷についてはここでは触れない。但し、この部会への参加が住民だけでなく区外の誰もが参加できるよう配慮したのは、部会長の松田氏の英断によるものだったという。そのことを書き添えておく。(2019.11.5記 )

 


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