■『ポール・ヴァ―ゼンの植物標本』から 堀江敏幸の「記憶の葉緑素」を読む
30年ほど前のこと。フランスのリヨン、長距離バスの待ち合わせで2、3時間、待つことに・・。作家の堀江敏幸は、旧聖堂のある広場で古道具屋「オロバンシュ」(※注)にふらっと立ち寄る。書籍コーナーもあったが、理系の雑書が多く、数学、サイエンス系の専門書で占められていた。そのなかに紛れていたルソーの『ある散歩者 . . . 本文を読む
入院中に読んだ本について書く。去年に入院したときの読書で、岩波新書の『岡潔 数学の詩人』についてブログにスマホで書いた。感想文程度のものであり、書評とは言い難い半端なもの。
病床におけるメインの読書については、ブログに掲載したかったのだが、全部を読み通すことができなかったという体たらくだった。自宅に戻ってから読み通したものの、全体の感想なりメモを残すことができなかったのである。
その本とは、長 . . . 本文を読む
坂口安吾の掌編小説『復員』(1946年11月4日付「朝日新聞」大阪・名古屋版掲載。2018年、阪大・斎藤理生氏が発掘)
四郎は南の島から復員した。帰ってみると、三年も昔に戦死したことになっているのである。彼は片手と片足がなかった。 家族が彼をとりまいて珍しがったのも一日だけで翌日からは厄介者にすぎなかった。知人も一度は珍しがるが二度目からはうるさがってしまう。言い交した娘が . . . 本文を読む
『そこにすべてがあった』という書名は、本の内容を的確にしめす題名とは思われない。だが、装丁をトータルにみると、この暗示的な言葉は惹句としては良い。副題に『バッファロー・クリーク洪水と集合的トラウマの社会学』とあり、これでおおよその見当を知ることができる。
著者はカイ・T・エリクソン、出版社は「夕書房」という会社。地元の本屋の、社会科学系のコーナーに4,5冊ほど平積みされていた . . . 本文を読む
この2,3日、メディアは、人種差別の大小の問題を取りあげている。小さいのは、フランスのプロサッカー選手が日本人を揶揄したもの。過去のプライベート動画が内輪から漏れ?、「これは差別だ!」としてネット炎上したらしい。「日本人の顔は醜いとか、言語が可笑しい」などと、フランス語を理解しないホテルのスタッフを揶揄っている動画が、「これは明白な人種(日本人)差別だ、けしからん」として、SNSで拡散したのだ。
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池澤夏樹と多和田葉子によるネット対談「ウィズコロナを生きる 読書から学ぶ知恵」を視聴した。
▲日経ビジネスにしては珍しい企画。冒頭に、どこかの組織の代表として作家阿刀田高の挨拶があったのも妙だ。
池澤は現在、札幌に居を構えているという。しばらく前にはフランスに居て、その前は沖縄に居をかまえていた。彼は7,8年ほど定住すると、まったく違う環境に移るのが習性のようだ。池澤は現在75歳、北海道生 . . . 本文を読む
デンマークの作家、ユッシ・エーズラ・オールスンによる警察小説〈特捜部Q〉を知ったのは、5,6年ほど前だった。映画化されたものをアマゾン・プライムのビデオで観たのが切っ掛け。珍しいデンマークのサスペンス映画、しかも監督をはじめとするスタッフ陣が、スウェーデンのサスペンス・ドラマ『ミレニアム』を撮ったクルーで構成されていたことが、観ようと思った大きな理由だった。(『ミレニアム』の原 . . . 本文を読む
永井陽子という不世出の歌人を知ったのは、詩人時里二郎のブログ『森のことば、ことばの森』を読んだことによる。ブログの《そばに置いておきたい本》という括りのなかに、堀辰雄やベンヤミンの著作に続いて、『永井陽子全歌集』(青幻舎2005年刊)が紹介されていた。
永井の歌集それぞれは、今おいそれと入手できない。青幻舎の全歌集は、高価であるがアマゾンその他で求められる。が、当初売価の3倍ほどになり、貧民の小 . . . 本文を読む
「声は楽器のごとく」という記事を書いた延長で、『共感覚という世界観』(原田武著・新曜社)という本を図書館で借りて読んだ。アルファベットや数字が、色彩や音色として感覚される不思議な「共感覚」という知覚現象を、心理学や脳科学、時にマクルーハンのメディア論などの研究書を参照し、著者がフランス文学者のためか、古今の文学書を繙いて共感覚的な表現を論じたきわめて刺激的な書であった。
A.ランボーの「母音」と . . . 本文を読む
まず最初に。これは2年ほど前の本を取り上げたもので、時流から外れたものであることを、あらかじめお断りしておく。(ゆえに、読む価値を割り引いていただくと助かります)
先日古本屋に寄って、町田康のフォトエッセイ集『爆発道祖神』と一緒に、川上未映子と村上春樹との対談本『みみずくは黄昏に飛びたつ』を同じ金額で買った。
以前、この新刊書が出たときに、店頭でざっと前半の方を斜め読みして . . . 本文を読む
税務署に行ったので、ちかくの古書ほうろうに寄った。一箱古本市の日に仮オープンした時に行ったきり。一か月半近くもご無沙汰していた。
そのときは箱が山積みに押し込められ、閉鎖されていた小部屋があった。今日伺うと、詩・歌句集の棚、店主宮地氏の好きな鉄道本、グローカルで多種多彩な評論、その他一口で形容し難い癖のある文学書、エッセイなどが集められた、趣のある古本の別室といった雰囲気が漂う。有名なウォーホル . . . 本文を読む
一週間ほど前、地元の古本屋「古書木菟(みみずく)」さんに行った。客としてはヘビーユーザーでもないのに、馴染みのように話し相手になっていただき有り難い。吉本隆明の信奉者(らしき?)ご主人が、3月号の「ちくま」を読みましたかと訊く。読んでいない、ネットの「webちくま」をたまに読むだけだと返したら、「今号から鹿島茂が、エマニュエル・トッドを介して隆明の『共同幻想論』を読み解く新連載が載っています。よろ . . . 本文を読む
読後感はたいへん爽やかだが、ちょっとグロテスクな余韻もある。文庫で160pほどの中編小説を2時間ほどで読み終えた。凝ったレトリック、練られた比喩表現はない。でも、シンプルで過不足のない、とても上手い、ドライブ感のある力強い文章といっていいか。村田沙耶香は新たな日本文学を構築していくかもしれない。それほどの器量と才能をもっている。
▲村田沙耶香さん 芥川賞を取ったときの印象はうすいのだ . . . 本文を読む
畏敬する竹下節子さんの新著を手にする。ほぼ半年前だったか、著書の題名を知った。人類にとって3つの普遍的なテーマを絡めて考察し、かつ世界史的なストリームで連環する構造、その課題に、人間はいかに取り組むべきなのか・・。止揚するもの、超越していくもの、或いは組込まれるものとは何か。
これら思想の動き・エッセンスを竹下さんならではのキリスト教・比較文化史観から概括するものだと予想していた。
その枠 . . . 本文を読む