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一新劇学徒の苦難の道 @ 沢村貞子 『貝のうた』

 


 たしか古在由重だと思うが、『一哲学徒の苦難の道』と言う本があったように思う。

 それに準えれば、沢村貞子の出生から1945年8月15日を37歳で迎えるまでのこの半生の記録は、まさに『一新劇学徒の苦難の道』と言えます。戦前の37年間、壮絶な人生を歩んでこられたんですね。その内容は僕がここで書くよりも、現物を呼んでいただいた方がいいと思います。
 
 沢村貞子が生前、親交のあった脚本家の山田太一の著作『逃げてゆく街』で、渥美清、沢村貞子の人柄について、以下のように書いているそうです。

 「おふたりとも人間について深くあきらめているようなところがあった、人間関係についても深入りを断念してるようなところがあった、だから嫌味がなかったのだと思う」

 確かに、役者仲間の中では「人づきあいが悪い」と思われ、「泊りがけのロケの仕事はお断り」だったもんで、監督からは「これだから、インテリ女優は扱いにくい」などと言われていたのです。

 この本を読むまでは「そりゃ、大変な思いをして結婚した大好きな夫のもとをひと時も離れたくなかったのさ」と思っていました。それは確かにそうなんですが、この『貝のうた』を呼んで、更に深い背景があるんだと気づきました。

 それは、戦前の壮絶な体験から、「人間」も「組織」も、信じられなくなった、という事なんだと思います。でもそれでも「生きること」を諦めなかった。そうだからこそ、「信じられる人、たった一人でいいから、そういう人とともに生きゆきたい」と心底願ったんだと思もいます。そして夫である大橋さんという人だった。

 この本は、ひとりの女優さんの『半生記』なんですが、ドストエフスキーの小説みたいな重量感でした。










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