「働いていないことで、世の中の奴隷にはなっていないという自負はある」と述べる作家田中慎弥氏は、好き嫌いがはっきり別れる作家という点では衆目一致すると思う。
芥川賞受賞作『共喰い』は、例の記者会見効果もあって、ベストセラーになったようだけど、この作家の別の作品について、平野啓一郎氏は「田中作品は、小説としての着地点を安易に設定していない。どうしようもなくからみとられている、着地できない状態を書いている」と評しているそうな。たしかに、昨今流行りの「癒しの文学」とは正反対だ。
小説『共喰い』の生命線は、集英社版の文庫本ではP79の「覚えちょけ。俺はこんだけ卑怯なんじゃ。俺は自分でやる代わりに、父親と母親を見殺しにするんぞ」という、主人公遠馬のセリフにつきる、と僕は思うね。
これのセリフを違和感なく、ここの落とし込むために前後の数十ページがあるという感じです。自分ではどうしようもないものに突き動かされている自分、でも自分は何もできないという、宙ぶらりんな でもそれでも、生きていかなくちゃいけないという現代の人間像を 田慎(たなしん)流に表現した作品だと思いました。
田中 慎弥 - 情熱大陸 -
無効になっていたら こちら だよ