訳あって 40年ぶりに『播州平野』を読みました。これ今でも本屋にあるかと思って、金沢市内の主要な本屋を回ってみましたが、ありませんでした。まっ、それはしたかありませんね。
戦争が終わり、思想犯として12年にわたって投獄された網走刑務所から解放される夫を迎えに、どうやって疎開先の福島から津軽海峡を渡ろうかと思案していたところ、夫の郷里である山口県に住む夫の実弟が、広島の原爆で行方不明との報がはいります。夫のいる北への思いを持ちながらも、西へ向かう列車に乗る主人公ひろ子。
終戦直後の列車の中での出来事、この戦争によって誰が傷つき、その戦争を企てた者たちが今、どんな態度をとっているのか、鮮明に描きながら列車は進むのでした。まるでロードムービーを見ているようです。
傷痍軍人が「これからは『日本の国体』なんて本は隠さなくちゃならんかね」と問うシーンがあります。ついこの前までは別の類の本を隠さなくちゃいけなかったけど、器用に隠す本をくるくると変えてしまう日本人の精神構造!!!
小説の構成は
①福島から山口までの車中のできごと
②山口の夫の実家でのできごと
③解放された夫に会いに東へ向う道中のできごと
の3つで成り立っています
で、僕はてっきり網走刑務所から解放された夫と再会して ハッピーエンドで小説が終わるものとばかり思っていましたが、実は、山口から東へ向かう列車が大雨と洪水で不通となり、それでもトラックに乗り換え、あるいは馬車の乗り換え はたまた徒歩で!と、とにかく東へ東へと進もうとするのです。
最終的には姫路あたりのまさに播州平野あたりで小説は終わるのですが、この、どんなに困難が次々と押し寄せようとも、明日という新しい時代に向けて、一歩一歩確実な、地に足をつけ着実に歩みを続ける・・・ これが正にこの小説を貫くテーマなのだと思いました。