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秋めいてきた小道は両側にススキがびっしりと伸びていて見渡す事は出来ずに
僅かに小道がすーと付いているのと、天空のみが広がりを見せている。
所どころに猪か鹿であろうか獣道がそれと判るぐらいに薄っすらと出来ていた
人の気配が無く静寂に包まれたこの道を雲上寺の和尚はとぼとぼと歩いていた。
ときおりススキの穂が顔を撫でるように掛かるのを手で払いながら
立ち止まっては考え事を纏めていたのであろうか頭を左右に振るしぐさを
してはゆっくりと歩いてゆく。
やがて前面をススキが立ちはだかり覆い隠すように伸びている後ろに
見覚えのある赤い屋根の民家が二棟見えてきた、ひょうごいしの二連の廃家である。
和尚はそっとススキを両手で分けて民家の様子を見ようとして身体を前のめりに
して覗こうとしてギョッとして立ちすくんだのだが、なんと縁側には、菜菜子さんと
江美さんがいてにっこり笑いながらこちらを見ている。
和尚は目を疑った、急いで右手で目を擦った。
ふたたび目をしっかりと見開いて縁側を見つめるとそこには二人の姿は跡形もなかった
和尚は深いため息をついて、「まぼろしであったのか!現実であればのう」と落胆した。
和尚は思った、「わしは小説の世界にどっぷり浸かりすぎたのかも知れんのう」
ひょうごいしは静まり返っている、ススキが微かに揺れて。
どの位の時間が経ったのだろうか、和尚は頭を振り物思いに耽りながらそっと
ひょうごいしの廃家をあとにしてとぼとぼと歩き出した。
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