秘境という名の山村から(東祖谷)

にちにちこれこうにち 秘境奥祖谷(東祖谷山)

祖谷の山々に想う

2009年06月21日 | Weblog
「坊主、早う寝んか、明日は早いんだろう」7歳の息子に栗栖は声をかけた
が、とうちゃん何か話をしてよとせがまれて、そうだな、坊主には難しいかもな
と云いながら話し出した。

むかしむかし、そう遠くない昔だがな山のなかには綺麗な花々が仰山咲いて
仲良く生活して楽しく暮らしていたもんだ、花粉を運んで子孫を増やしてくれる
蝶や虫たちも花と仲良くしていた良い時代だったな。

それがあるとき、街からハイテクに包まれた蝶が来てな、群生している花々に
カメラでパチパチ写してインターネットに載せはじめたのよ、そしたらどうだ
我も、われもとどっと押しかけて来たのさ、中にか新聞でツアーを募集して
やってくる始末でな、あっというまに踏み荒らされて花の仲間が半分になって
しまったな、その場所から消えてしまった花たちが彼方此方で出始めたわけさ。

なにしろ、ハイテク蝶たちには花も太刀打ちできないよな、花たちはお願いする
しかなかった、どうかわたし達を表に引っ張り出さないでください、わたし達は
静かにそっと暮らしたいのですから、スポットライトを浴びて華やかになりたい
とは思いません。どうか見つけないでください、知れることなく静かな生を
送らせてくださいとお願いするしかなかったわけだな。

でもな坊主、そうは問屋は許さないな、貪欲なハイテク蝶は喰らいついたら
放す訳もないね、そんなわけで山の中から花々が消えてしまう時代がくるかも
しれんな。

栗栖は半分眠りこけながら「どうだ坊主眠くなったか、」
「とうちゃん、落ちがないよ、落ちがないと面白くない」
「そうだな、落語、漫才のような落ちは無いけどな、まあすべてのものには
死が待っているということだな。
坊主、間違うたらあかんぞ!生があるから死があるんじゃあないぞ
死があるから生があるんだぞ!」

7歳の息子はいつの間にか寝息を立てていた、たわいもない寝顔をながめながら
栗栖も眠りにおちた。