夜もふけて庵に吹きつるこがらしに微かに聞こゆ鹿の音かなし
うき身こそ祖谷の山べにしづめむと思へどうき世のしがらみ絶てづ
こがらしにうき身晒して野に立てば高きすすきの叱咤の鞭飛び
変らねばならぬわが身はさびしけれしぐるる今宵ようき事ながせ
森閑と木立冬めき廃家かな
冬耕の休めば山の白き見ゆ
集落の端に残りし冬紅葉
ひとり寝の落葉からりと夢枕
歩く山孤独の身にもしぐるるか
初冬の装いが濃くなり、初雪もちらほら聞こえてきた奥祖谷のある集落で
Tばあばの話を聞き入り、なるほどと頷いたものである。
「のう、あんたもよう写真を写しているがのう、写真というのは
ココロまでは写るものじゃあないのう」
「ばあちゃん、どうしてそう思うん」
「それがの、前にも蕎麦の花や芋の花なんかを時たま写しに来る下の人が
春先に来ての、わたしの写真を撮らせてくれと云うじゃわ、わたしゃ、嫌じゃと
云うたんじゃが、聞かんでのう、仕方無しに写すことになったんじゃがの
それが、ああじゃ、こうじゃ云うて注文が多いわ、うるさいやらで堪えた」
「あんがな人というのはわがままで、横着なひとなんじゃのう、
雪が残っとる寒い日じゃったが、外の石垣に出て鍬を持って立ってくれ云うて
そんで一枚撮って、終わりかと思うたら、隣のばあさんを呼んできて二人のを
撮りたいけん、呼んで来いと云うのじゃわ、そんで嫌がるばあさんを連れてきて
写したんじゃがの、その時のわたしのこころはの、煮えくり返るほど腹は立つし
ちょうど昼時でお腹は空いて堪らんかったけん、よけー腹立つわな」
「ばあさん、笑って、笑ってと云うがの、腹が立っている時に笑えんわいのう
そんがなで、がいに怒った顔をして写っとろことじゃろうと思っていたんじゃ
それが、こないだ写真を送ってくれたんじゃが、わたしゃ、おぶけた(びっくり)
写真には笑っているわたしが写っていたんじゃわ、まっことおぶけたでのう
写真はココロが写らんのじゃのうと思うた」
80歳のTばあばのニコニコ顔の写真を見せてもらいながら、この体験からの
結論にわれながら納得したわけである。
うき身こそ祖谷の山べにしづめむと思へどうき世のしがらみ絶てづ
こがらしにうき身晒して野に立てば高きすすきの叱咤の鞭飛び
変らねばならぬわが身はさびしけれしぐるる今宵ようき事ながせ
森閑と木立冬めき廃家かな
冬耕の休めば山の白き見ゆ
集落の端に残りし冬紅葉
ひとり寝の落葉からりと夢枕
歩く山孤独の身にもしぐるるか
初冬の装いが濃くなり、初雪もちらほら聞こえてきた奥祖谷のある集落で
Tばあばの話を聞き入り、なるほどと頷いたものである。
「のう、あんたもよう写真を写しているがのう、写真というのは
ココロまでは写るものじゃあないのう」
「ばあちゃん、どうしてそう思うん」
「それがの、前にも蕎麦の花や芋の花なんかを時たま写しに来る下の人が
春先に来ての、わたしの写真を撮らせてくれと云うじゃわ、わたしゃ、嫌じゃと
云うたんじゃが、聞かんでのう、仕方無しに写すことになったんじゃがの
それが、ああじゃ、こうじゃ云うて注文が多いわ、うるさいやらで堪えた」
「あんがな人というのはわがままで、横着なひとなんじゃのう、
雪が残っとる寒い日じゃったが、外の石垣に出て鍬を持って立ってくれ云うて
そんで一枚撮って、終わりかと思うたら、隣のばあさんを呼んできて二人のを
撮りたいけん、呼んで来いと云うのじゃわ、そんで嫌がるばあさんを連れてきて
写したんじゃがの、その時のわたしのこころはの、煮えくり返るほど腹は立つし
ちょうど昼時でお腹は空いて堪らんかったけん、よけー腹立つわな」
「ばあさん、笑って、笑ってと云うがの、腹が立っている時に笑えんわいのう
そんがなで、がいに怒った顔をして写っとろことじゃろうと思っていたんじゃ
それが、こないだ写真を送ってくれたんじゃが、わたしゃ、おぶけた(びっくり)
写真には笑っているわたしが写っていたんじゃわ、まっことおぶけたでのう
写真はココロが写らんのじゃのうと思うた」
80歳のTばあばのニコニコ顔の写真を見せてもらいながら、この体験からの
結論にわれながら納得したわけである。