祖谷の山里に
今年も師走が、やってきました。
おじいさんと、おばあさんも、今年もつつがなく、暮らしておりました。
庭先には、いつもの老犬ゴンタが、繋がれないで、自由に歩いておりました。
おじいさんは、屋根から落ちた雪を、スコップで、取り除いておりました。
おばあさんは、一人で蕎麦を打っておりました。
『ばあさんよ、まだ飯にはならんのかえ~』
「まてろよ、わたしゃあ、蕎麦打ちしだしたら、他のことは出来んけんの~
蕎麦風邪ひかしたら、おおごとよ~」
『蕎麦もええけんど、腹減ってたまらんわ~ひんがら1日雪かきばっかりしよったら
腰は痛いわ、手は痛いわ、まっこと、今年びゃあ、寒いことは、ないぞ~』
「じいさんよ~あのの、昔はもっと、寒かったんぞよ~家の中でフキン、凍りよったんぞよ~
ほんでも火鉢しか、なかったわの、囲炉裏と火鉢だけだったわ~今みたいに、すぐにぬくうなる
ストーブやこし、なかったわの、じいさんが、忘れただけじゃわの~」
『忘れちゃあないわ、そんがなこと、偉そげえに言われんでも、知っとるわ
ビチビチ言よる暇あったら、はよ、蕎麦打って、飯にせえよ、ふだるい、たまらんわ~』
「オトコシは、辛抱ないのうろ、わたしゃあ、ひいとい、二日食わんでも、どうっちゃあないわ~
蕎麦打って置いとかな、明日にゃあ、日出夫も城二も、もんてくるわの~」
『それがの、今年は孫も戻るけん、二台でもどるんじゃと』
「孫つかっ!?まことあの、高校でて運転習いよるっていよる、孫かえ!!祖谷は寒いけん
スカンっていよった孫がなんで?戻るんだろぅ、じいさん、なんぞ聞いとんだろ?」
『おなごしは、そんがな話は、すぐに勘づくのうや!?あれよの、ばあさんには際まで黙っとくんだったきに
言わんかったけんど、孫がの、車欲しいんじゃと、ほんで、買うてやってくれえって
城二が言うんじゃわー』
「じいさんが、ええ顔するのは、直らんのうや~どしたばちに、孫の車の銭やこし、ださないかんのぞえ?そんがな事しよったら、孫あとへまだおるのに、銭おうとっても足らんわ~
じいさんは、そんがに銭持っとんかえ~そんがに銭あるんなら、在所のしらに
配って歩いたらええんじゃわ!」
……
……
その夜 おじいさんと、おばあさんは、口をきかないまま、寝床に就きました。
明くる朝
大晦日。シンシンと降る雪…
千葉ナンバーと、愛媛ナンバーの車が、二台。
おじいさんと、おばあさん、庭先に出てみる。
孫ギャルが 後部座席から一番先に 出てきて、
おばあさんに 駆け寄り、抱きついてあいさつした。
『ばあちゃ~ん、会いたかったよぉ~!』
日出夫と城二、ニコニコと微笑っていた。
おじいさん、鼻水を手で拭きながら、涙顔で迎えている。
孫、おばあさんに抱きついて 挨拶を済ませると、すぐに家の中に入り、コタツに入って 寝転がる。
忙しく 夕飯の支度をするおばあさん。孫ギャル、コタツに寝そべり
ポテチを食べながら、おばあさんに声をかける。
『ばあちゃん、無理したらイカンよぉ~無理せんと、長生きしてよ~』
コタツの上には 数冊の自動車カタログ。
おばあさん、カタログを鍋敷きかわりにして、熱いヤカンを乗せる。
… … … …
めんめの(※別々の)時間が、
撫でて行くように、祖谷山の 師走に 流れていた。
アーメン 〆