早朝の栗枝渡集落は、いままさに眠りから覚めようとしている、だが、物音一つせず
しずかな朝である、明け方降っていた雨も小降りとなり、ぽつり、ぽつりと
降る雨となり、霧が立ち込め始めた
集落最上部に近いあまり広くない茅場ではテラオの兄さんが徳島大の先生と神戸大の
研究生の人たちを案内して植物の植生と昆虫の種類の採取に余念なく没頭していた
そうした集落の暮らしを知ってか、知らぬか、祖谷川を挟んだ向いの山々にドラマは展開する
まるで生き物のように何十秒もじっとしていない霧のドラマを集落の人たちは何十年も
眺めていたに違いない、そればかりか、あらゆる自然現象を眺め、体験したであろう
土地の人たち、なかでも、お年寄りの人たちは身近な自分の足下を掘り起こして
智慧を見つけ、育てて、自然の助けを借り、繋がりを大切にして生きてきた
この土地に展開するあらゆる自然のドラマと繋がりながら生きているお年寄りは
ここでしか、得られない人生のドラマがあり、生きかたがあるのであろうと思う
ここには生き生きとした息遣いの新鮮な人の原型があるように思える
六月や里青きこと畏敬なる



