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甘粕の廣野で乱心

図書館に予約していた佐野真一による甘粕の評伝がようやく廻ってきた。

甘粕正彦 乱心の曠野甘粕正彦 乱心の曠野
佐野 眞一

新潮社 2008-05
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分厚い本だが、一日で読了。
関係者、というよりはその親類縁者を執拗に探し出しての聞き取りが本書の白眉か。
ただ、内容的にはデジャヴ感を拭いきれないし、
最初に設定した枠から対象を語っているだけのようにも感じる。
佐野氏のファンにはお勧めだが、そうでなければ甘粕については他に読むべき本がある。
手元にあるのは中公文庫版だが、ちくまから増補改訂版が出ている。
甘粕大尉 (ちくま文庫)甘粕大尉 (ちくま文庫)
角田 房子

筑摩書房 2005-02-09
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同書が最初に中央公論社から出たのは1975年、同書でも満映については触れられていたが、
その当時は満映については調べようもなかったのではないか。
出版以降、李香蘭=山口淑子の「李香蘭 私の半生 (新潮文庫)」(新潮社・1987)、
山口猛の「幻のキネマ満映」(平凡社・1989)などを始め、
満映のみならず、「満州国」全体に関して調査・研究はかなり深まったように思う。
それらを挟んでの増補改定版にどのような変化があったのか、改めて気になってきた。

幻のキネマ満映―甘粕正彦と活動屋群像幻のキネマ満映―甘粕正彦と活動屋群像
山口 猛

平凡社 1989-08
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言うまでもないことだが、(ブラックとホワイトの違いはあるにせよ)
映画とてプロパガンダの手段であり、謀略の一環であることには変わりはない。
甘粕が国策会社である満映の理事長になったことはむしろ順当な人事ともみなせる。
文化/政治を異なった位相にあるものと捉えては、見えるものも見えてこないだろう。
佐野氏がハルビン事件をことさら取りあげ、満映が作った映画の意味や配給戦略、
あるいは川喜多との関係に注意を向けない理由はあるいはその辺りにあるのかもしれない。

因みに佐野氏は角田氏、山口氏の著作に対して「労作の名に恥じない」としつつも
「前者が軍人としての甘粕の記述に偏り、
 後者の記述が満映のフィルモグラフィーに偏ったきらいがあるのは否めない。」
「両者に最も欠けているのは、満州における甘粕の豊富な資金源と、
 地下茎のようにからみあった複雑な人脈である。」
(16P)との評価を記している。

余談だが、山口氏の本は平凡社ライブラリーとして文庫になっているが、
いかにも80年代な装丁が素敵な単行本に惹かれていて未だ購入していない。
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