ホウジョウキ  ++ 小さな引籠り部屋から ~ ゆく川の流れは絶えないね

考えつつ振り返り、走りながらうずくまる日々。刻々と変わる自分と今の時代と大好きなこの国

思い出のおやつ

2008-02-04 21:51:05 | WORKS
「ママ、イチゴかって!」
まだ苺が出回り始めたばかりの5月、私は母にねだった。
母は高いイチゴを、不思議なくらいすんなりと買い物かごに入れてくれた。

もともと絵を描いたり工作したり、何かを作るのが好きだった私は
小学校も中学年になると「お菓子作り」の本を読むのが大好きになっていた。
本に出てくるパンやケーキが焼けるあまい香りを想像しては、つくってみたい、
といつも思っていた。しかし、我が家にはオーブンが無かった。

母の日に、私は本でとても魅力的だった「苺のババロア」を作ろうと考えた。
ババロアなら、冷やして固めるだけだから、オーブンが無くても出来るお菓子だ。
それに母はババロアが好きだと言っていたのだし。

家に帰って母を誘っていっしょに作り始めた。
ゼラチンを熱くした牛乳で溶かすとき、牛乳を手にかけてやけどをしてしまった。
母が
「もうやめる?あとはママがやってあげようか?」
と言ったが、私は、
「痛いくないから続きを作ろう」
と意地を張った。ほんとうは、ひりひりと痛かったのに。
はじめて泡立てる生クリームはなかなか手強かった。かき回してもかき回しても、「つの」が立たない。
苺はひとパック全部をつぶして裏ごしした。ジューサーなど無かったから、大変な手間だ。

それでも、なんとか冷蔵庫に入れて冷やし固めた。
父が帰るのも待ち遠しく、ババロアを取り出しひっくり返してお皿に開けると、
鮮やかなピンク色がぷるぷると震えた。
「母の日ありがとう」
と母に差し出した。
母は美味しそうにパクパクと食べてくれた。

私はなぜか夜遅くまで食べずにいたのだけれど、寝る前にとうとう食べてみた。
ドキドキしながら、一口スプーンですくって口に入れた。
「あれ?」
レモンを入れすぎて、すごく酸っぱかった。
お菓子作りは思っていたより、難しかった。
あのはじめてのババロアは、やはり失敗だったのだろうかと今でも考える。

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またもや六花亭のエッセイ募集に応募しようと考えた。
今回のお題は「思い出のおやつ」
リベンジ!