車窓から見える山や川や野原は、どこまでも果てなく広がるワンダーランドだった。
当時旭川に住んでいた小学生の私は、よく函館本線に乗って札幌へ行った。4時間ばかりの間、汽車の窓からゆっくりと移り変わる風景を、心躍らせて飽きずに眺めていた。この小川は、どんな山の中から流れてきたのだろう?あの草原の茂みは秘密基地がつくれるかなあ。ああ、この大地でずっと遊べたら、どんなに楽しいだろう?
その日も私はいつもと同じように、車窓に顔を近づけて外を眺めていた。しかし何度も見た光景のはずなのに、どんなに目を凝らしてもただ黒いばかりで何も見えない。漆黒の原野は、永遠に漆黒が続くように思えた。
祖父が倒れたとの知らせで、夜中に急ぎ札幌行きの汽車に乗ったのだった。隣の席の父も母も黙ったまま目をつぶっている。私はいつものように窓際に座り外の風景を眺めているが、いつもワクワク見る山や野原は、今日は真っ黒く塗りつぶされている。その時私はまだ肉親の死というものを経験したことがなかった。漆黒の原野には、ぽっかりと死の世界への入口が口を開けているかのようだった。
やがて点々と灯りが増えてきた。汽車は市街地に入ったようだ。札幌に着いたのだ。街のあかりが煌煌とまばゆい駅に、汽車はガタガタと揺れながら入って行った。ざわざわとした人ごみが私を迎えた。冬山から救出された遭難者のようなほっとした気持が込上げた。
その後何年も北海道に住み、旭川札幌間を幾度往復しただろう。いつも同じ風景を車窓から眺め続けた。
やがて東京へ出ると故郷は遠くなった。
久しぶりに踏む北海道の大地。札幌駅が近づいた車窓に、ワクワクした高揚感と未知の原野から生還したかのような安堵感が、ふわりと鮮明に蘇ったのだった。
当時旭川に住んでいた小学生の私は、よく函館本線に乗って札幌へ行った。4時間ばかりの間、汽車の窓からゆっくりと移り変わる風景を、心躍らせて飽きずに眺めていた。この小川は、どんな山の中から流れてきたのだろう?あの草原の茂みは秘密基地がつくれるかなあ。ああ、この大地でずっと遊べたら、どんなに楽しいだろう?
その日も私はいつもと同じように、車窓に顔を近づけて外を眺めていた。しかし何度も見た光景のはずなのに、どんなに目を凝らしてもただ黒いばかりで何も見えない。漆黒の原野は、永遠に漆黒が続くように思えた。
祖父が倒れたとの知らせで、夜中に急ぎ札幌行きの汽車に乗ったのだった。隣の席の父も母も黙ったまま目をつぶっている。私はいつものように窓際に座り外の風景を眺めているが、いつもワクワク見る山や野原は、今日は真っ黒く塗りつぶされている。その時私はまだ肉親の死というものを経験したことがなかった。漆黒の原野には、ぽっかりと死の世界への入口が口を開けているかのようだった。
やがて点々と灯りが増えてきた。汽車は市街地に入ったようだ。札幌に着いたのだ。街のあかりが煌煌とまばゆい駅に、汽車はガタガタと揺れながら入って行った。ざわざわとした人ごみが私を迎えた。冬山から救出された遭難者のようなほっとした気持が込上げた。
その後何年も北海道に住み、旭川札幌間を幾度往復しただろう。いつも同じ風景を車窓から眺め続けた。
やがて東京へ出ると故郷は遠くなった。
久しぶりに踏む北海道の大地。札幌駅が近づいた車窓に、ワクワクした高揚感と未知の原野から生還したかのような安堵感が、ふわりと鮮明に蘇ったのだった。