仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
そして 今

欲しいのならⅣ

2008年01月21日 13時02分03秒 | Weblog
集団が意図することと個人が意図することが一致する場合、その集団に所属することが個人にとって一番の満足となる。そのとき、個人は集団のために生き、その集団に奉仕する。それは自分を守るためであり、また、同時に集団を守ることになる

 仁の存在を訝しく思うものはそのときの集団の規模では誰一人としてなかった。だから、僕らは仁を攻撃しようとするやつらに対して、常に仁を守るというスタンスで挑んでいた。彼らは、僕らの沈黙の中に入り込もうとした。
 その日、新しい顔のナオンが一人、「ベース」にやってきた。ナオンは長くてしなやかな髪をたばねるでもなく風になびかせて、その挑発的な目は「ベース」のナオンとは相容れないものがあった。けれど、「ベース」はすべてを受け入れる。だから、ナオンが去らない限り、沈黙におびえない限り、居続けることはできた。
 パターンなんかないその集会は、沈黙と微笑の中からボディータッチが始まり、抱擁に進み、また、分離し、ボディータッチに戻り、見つめあい微笑んでキスをして、また、もとの場所ですわり、ゆっくりと時間が流れていった、仁が来るまで。
仁は、気配もなく現れた。誰も気づかない内にその場所に座っていた。「許し」の儀式の中で仁の登場を意識せずに感じることができたのはアキコとヒトミ、後数名の限られた人だけだった。でも、呼吸がリズムを掴むと皆その存在に気づき、同調が始まった。同調と同時に車座になり、呼吸と沈黙の中で僕らは目を瞑った。
 そのナオンは確かにリープしていた。何とか意識を留めて僕らの真似をしていた。けれど、仁が座ってからの「同調」の中で敏感になっている感覚は違和感を増長し、恐怖がナオンを押しつぶそうとした。ナオンは「あう、あう、」と声を発して、ブルブルと体を振るわせた。そして、彼女の感覚が「ベース」を受け入れられなくなったとき、ジーンズのケツからナイフを取り出して仁に向かって突進してきた。ナオンとナイフは風を切って仁に向かった。遠い街灯の明かりしか届かない「ベース」なのにそのナイフは妙に輝いて猫の目のようだった。仁の横に座っていたヒロムが仁の前に立ちはだかった。ヒロムの胸にナイフが刺さるか、と思いきや、アキコの出した右足に引っかかりナオンはコテンッとこけた。ヒロムがすかさずナイフを取り上げ、ナオンを押さえ込んだ。ナオンはヒーヒー泣きながらそこに丸まった。