仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
そして 今

夜の海の星の下でⅡ

2009年05月22日 17時39分27秒 | Weblog
 車は湘南道路に無造作に止められた。夕暮れなどすでに終わっていた。夜半に近い時間になっていた。道路のまばらな街灯が砂浜を照らしていた。その明りの先はすでに、夜の闇に溶け込んでいた。ハルは車から飛び出した。追いかけるようにマーが飛び出した。
「ついたよ。」
マサルが言うとマサミが目を覚ました。
「どこ。」
「海。」
「凄い。」
仁の手を取ってマサミは叫んだ。
「仁ちゃん、海だよ。海。」
仁は眠そうに答えた。
「ああ。」
マサミに手を引っ張られるようにして仁も砂浜に降りた。
 マサルは車を止めれそうなところを探した。防波堤の横の歩道の切れ間に車を止めなおした。車から降りて防波堤に登った。マサルは砂浜で子供のように遊ぶ四人を見た。街灯の明りが長い影を作っていた。影は波の音と共にその先の闇に吸い込まれていきそうだった。不安の気配がマサルに忍び寄った。それを振り払うようにマサルは大声で叫びながら砂浜に飛び降りた。ひとしきり汗を掻き、皆は砂浜に腰を下ろした。
 マサルは仁の顔を見た。闇に支配された砂浜でその表情を見て取ることはできなかった。全てを飲み込む闇。その闇と同じように、思考も、感情も、感覚も、直感さえも飲み込んでしまう仁の力。先ほど感じて不安の種が仁から来ていることにマサルは気付いた。波の音が心地良かった。ハルがマサルの顔をのぞきこんでいった。
「何考えてるの。」
「何も。」
「何か、感じるよ。」
「何を。」
「うーん。」
会話は終わった。見上げると東京では見ることのできない数の星が頭の上にあった。
「きれいだね。」
「うん。」