仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
そして 今

その暗闇の臭いと住人8

2010年01月18日 16時32分27秒 | Weblog
 リムショットを連発した。
そこから、うねりのようなロールをスネアからタムに、また、スネアへとまわした。
ギリギリのところでアクションを繰り返した。
そこに入れるのは、マサルだけだった。
 感じた。
マサルはディストーションを踏み込み、ヴォリュームをめいっぱい、上げた。
掌で弦を押さえ、アンプに近づいた。
ヒィードバックの気配。
  キュグイーン。
  フアハウキー。
  グゴゴゴ
  キュイーン
唸るようなマーのドラム。
恐竜の雄叫びのようなマサルのギター。
 ハルも感じた。
  シー ハー シー ハー シー ハー
  ウイ アッ アッ アッ アッ 
  アッ アッ アッ アッ イー
マイクをかじるようにして、声を絞り出した。
少しづつ三人の色が見えてきた。
マーのドラムにテンポが見え始めた。
 じっとしているミサキにハルの手が伸びた。
ハルの指先が触るか触らないかのポジションでミサキを誘った。
ミサキも身体の中で感じた始めた。
 それは同時だった。
ヒカルとマサミの音が落雷のように間を割った。
そして。
 マサルのフレーズが始まった。
マーのドラムはなめるようなねちっこさで回り始めた。
フィルインは攻撃的だった。
ヒカルの淡々としたフレーズ。
不協和音に近いマサミのピアノ。
ヒデオとアキコは座ったままだった。
ハルとミサキの声はエロチックに絡んだ。
  ダイテエ ネエ ダイテエ
  ウッ アアー アアー アッ アッ アッ
 マサルのギターが、再び、吠えた。
全員でその状況に向かった。
エロスが理性を壊す場所に向かった。
 アキコの手を取り、立ち上がるとヒデオは後ろからアキコに重なった。
ヒデオが服の上から、アキコをまさぐり始めた。
アキコの腕は頭の上で組まれ、身体は大きくウェーブした。
膝をすり合わせるようにして歩き出すアキコ、追いかけるヒデオ。
マーを中心にして、ヒデオとアキコは円を描いた。

 演奏スペースから漏れる音がカウンターに座っていた客を動かした。
ドアが開き、ヒデオとアキコが造る円の周りに膝を抱えて座った
 壁際の住人たちも壁を離れ、その円の一番外側に腰を下ろした。
マサル、ヒカル、マサミの邪魔にならないように扇形を作るように客が座った。

 リフレインが、マサルのリフレインが戻ってきた。

 一番外側に座っていた壁の住人の一人が立ち上がった。客の円から少し離れるとアキコのウェーブとシンクロするように揺れ始めた。黒いコートのボタンをはずした。スッという感じで床に落ちた。ピンクの長袖のティーシャツ。中央に牡丹のような模様が入っていた。紺のボアボアのミニスカート、ボーダーのソックス、底の厚いスニーカー。
 長い髪が揺れた。
アキコをまさぐるヒデオの手の動きに同調するように彼女は自分のティーシャツの裾に手をかけ、ズリズリっという感じで持ち上げるとポンと首から抜いた。それは左手に絡まった。次に、ボアボアのミニスカートをクルッと回すとジッパーを下げ、腰を振りながら、踵まで下げた。
 この状況を誰も知らなかった。
佐藤さんはビーエスエイトのセッティングの間に明りの位置を変え、マサル、ヒカル、マサミには個別に、中央には大きな円を作った。
 その外側は闇だった。
だから、彼女の行為は誰の目にもとまらず、進んだ。足を抜き、右の踝に引っ掛かったボアボアのミニスカートをサッカーのキックのようにけりだした。中央の明りの円をそれは通過した。マーの顔の横をスッという感じですり抜け、ヒカルの前に落ちた。
 が、皆は気にとめなかった。
彼女はブラジャーもはずした。今度は手に持ち、中央の明りの円にむかって投げた。ブラジャーは円まで届かず、膝を抱えていた客の頭の上に落ちた。その演奏と突然の飛来物に驚き、客は、恐る恐る飛来物を手にした。驚きとともに振り向くと光のハレーションの中にショーツに手を掛けている彼女がぼんやりと見えた。彼女はショーツも投げた。今度は、ショーツが、マーのベードラに引っ掛かった。

演奏はさらに、続いた。

 彼女は左手のティーシャツと頭の上でグルグル回しながら、客の踏みつけるようにして、中央の光の円のほうに近づいた。