「ベース」の景色が少し変わっていた。
マリコとサンちゃん、キーちゃんがミサキの農場で働いていた。土手と母屋の間に、ヒカルとヒデオと、仁が中心になって、六畳くらいの部屋を三つ増築した。不動産屋さんを通して、大屋さんに問い合わせるとほとんど興味がないらしく、勝手にどうぞ、ということだった。
その頃の「ベース」は不思議な共同体だった。家賃はマサルが、光熱費、水道代は、ヒデオとヒカルとアキコが不動産屋にはらった。仁も働きに出た。食費は、ミサキの農園で取れたものを世田谷の団地や、マンションに売りにいって肉や魚を買った。その他のものはほとんどが自家製だった。山羊や鶏も飼った。時々、マサルとマーはつりに行った。期待はできなかったのだが。平井さんも顔を出すようになった。ジミーさんの店でのライブは定例になった。あの時のことでジミーさんは非常に恐縮しており、店の中へのクスリや葉っぱの持込を禁止した。まあ、いちようという感じだった。
そんな中。その日が近づいた。
キヨミが産気づいた。アキコは、その頃医療関係の講習会で知り合った千葉市内に助産院をオープンしたばかりの女性を連れてきた。事情を説明しても理解してもらえないと思い、自宅出産をしたいということで、口説いたのだが、その後の手続きの関係で事情を説明しなければならなくなった。普通では考えられないことだが、女性は納得してくれた。激しい陣痛や生まれ落ちるまでのこと、生まれてからの処理を考えると、自分らがしようとしていたことがどんなにか無謀なことかが理解できた。だが、男の子は無事に産声を上げた。
生まれてくる力を皆が感じた。
その女性は戸籍のないことの不利益を説明した。もし病気になったら、学校へはいけない、おとなになったときにどう説明するのかなどなど。キヨミと皆の意思を確認した。皆の子として、皆が守るということを確認しあった。女性はまじめな人だった。そして、皆もまじめだった。リツコさんは「ベース」にかようようになった。
ヒカルとミサキは復学を望んだ。農業系の大学の夜間部を受験する準備を始めた。その矢先、ミサキの父親が倒れたという知らせが届いた。
ヒカルとミサキは一度、ミサキの実家に二人で挨拶に行っていた。現状を細かく説明したわけではなかったが、某団体からの脱出や「ベース」のこと、農業生産などを説明し、二人が誠実に付き合っているということで、それなりの理解を得た。というよりも、ミサキの親にしてみると彼女を止める、あるいは、連れ戻す方法を見つけられなかった。
二人はミサキの実家がある名古屋に向かった。
マリコとサンちゃん、キーちゃんがミサキの農場で働いていた。土手と母屋の間に、ヒカルとヒデオと、仁が中心になって、六畳くらいの部屋を三つ増築した。不動産屋さんを通して、大屋さんに問い合わせるとほとんど興味がないらしく、勝手にどうぞ、ということだった。
その頃の「ベース」は不思議な共同体だった。家賃はマサルが、光熱費、水道代は、ヒデオとヒカルとアキコが不動産屋にはらった。仁も働きに出た。食費は、ミサキの農園で取れたものを世田谷の団地や、マンションに売りにいって肉や魚を買った。その他のものはほとんどが自家製だった。山羊や鶏も飼った。時々、マサルとマーはつりに行った。期待はできなかったのだが。平井さんも顔を出すようになった。ジミーさんの店でのライブは定例になった。あの時のことでジミーさんは非常に恐縮しており、店の中へのクスリや葉っぱの持込を禁止した。まあ、いちようという感じだった。
そんな中。その日が近づいた。
キヨミが産気づいた。アキコは、その頃医療関係の講習会で知り合った千葉市内に助産院をオープンしたばかりの女性を連れてきた。事情を説明しても理解してもらえないと思い、自宅出産をしたいということで、口説いたのだが、その後の手続きの関係で事情を説明しなければならなくなった。普通では考えられないことだが、女性は納得してくれた。激しい陣痛や生まれ落ちるまでのこと、生まれてからの処理を考えると、自分らがしようとしていたことがどんなにか無謀なことかが理解できた。だが、男の子は無事に産声を上げた。
生まれてくる力を皆が感じた。
その女性は戸籍のないことの不利益を説明した。もし病気になったら、学校へはいけない、おとなになったときにどう説明するのかなどなど。キヨミと皆の意思を確認した。皆の子として、皆が守るということを確認しあった。女性はまじめな人だった。そして、皆もまじめだった。リツコさんは「ベース」にかようようになった。
ヒカルとミサキは復学を望んだ。農業系の大学の夜間部を受験する準備を始めた。その矢先、ミサキの父親が倒れたという知らせが届いた。
ヒカルとミサキは一度、ミサキの実家に二人で挨拶に行っていた。現状を細かく説明したわけではなかったが、某団体からの脱出や「ベース」のこと、農業生産などを説明し、二人が誠実に付き合っているということで、それなりの理解を得た。というよりも、ミサキの親にしてみると彼女を止める、あるいは、連れ戻す方法を見つけられなかった。
二人はミサキの実家がある名古屋に向かった。