実に良い映画だった。これぞ、インディーズ系監督が作る作品の真骨頂と言えよう。「タイタニック」(要クリック)もスケールこそは大きかったが、スケールの奥行きと質感が違った。
キャメロンの旦那、映画ってもんはこうなくちゃイケませんぜ。
アポロ計画を題材とした映画は沢山製作されてはいるが、そのどれもがSFの域を出てなかった様に思う。勿論、この「ファースト•マン」もSF作品だが、従来のSFの領域を超える壮絶と驚異というものを感じた。
当時のNASAのコンピュータは、電子レンジよりも貧弱だったと言われてる。つまり、電卓レベルの人工知能と大人の知恵で月面着陸した様なものだ。
その宇宙船アポロ11号に乗った3人のパイロットは、相当な勇気が要った事だろうね。まさに、人類の叡智と勇気とクソ度胸(笑)が成し得た偉業だったのだ。
アームストロングの妻が言い放つ言葉がとても印象的に映る。
”帰還できる確率は0%なんでしょ?さあ、子どもたちにそう言って頂戴!”
因みに、アポロ計画はジェミニ計画の上に成り立ってる。そのジェミニ計画では4人の犠牲者を出し、人類初の月面着陸計画は白紙に戻ろうとしていた。しかし、船長のニール•アームストロングは諦めなかった。だてに”ファーストマン”になった訳ではなかったのだ。
アポロ11号で世界初の月面着陸に成功した、ニール•アームストロングの生涯を描いたこの作品は、過去に何度も映像化された決定的瞬間を、”ひとりの人間”を中心に描き直す事で、感動的な人間ドラマに仕上げながら、壮大なスケールの美しい映像で我々をグイグイと引き込んでいく。
以下、WIRED.JPから抜粋&編集です。
孤独でストイックな作品
宇宙に向けてロケットを打ち上げるという、従来のハラハラドキドキの極限状態だけを強調する作品ではない。レンズが追うのは、常に目の前の仕事に真摯に取り組むアームストロングという、孤独でストイックな男の姿だ。
彼は銀河を駆ける”スペースカウボーイ”のイメージとは、ほど遠い男だ。映画では宇宙飛行士に課せられた運命の、ぞっとする様な側面を容赦なく見せつける。
”轟音と静寂との完璧なバランス”、つまり1本の線できっぱりと分けられた静けさと大迫力との均衡こそが、デイミアン•チャゼル監督が最も強く訴えたい事なのだ。
今ではインディーズ系の映画監督たちに、ありとあらゆるジャンルのSF作品の映画化権が与えられる様になってきたが、作品の出来は実に様々だ。
そんな中で、個性派監督としての視線を失う事なく、スペクタクル作品を世に出し続ける彼の能力は、神業としか言いようがない。というのもチャゼルの作品には、轟音と静寂が完璧なバランスで同居しているからだ。
映画の冒頭でアームストロングは、幼い娘を病との闘いの末に亡くす。一度は宇宙飛行士を挫折するが、時が彼を月に向かわせた。
彼はアポロ計画の前身プロジェクトであるジェミニ計画に動員されるが、パイロット仲間の4人が任務遂行中に次々と命を落としていく。家族が大きく悲運に暮れ動揺する中、彼は1人、月への闘志を掻き立てるのだが。
NASAが米ソの”宇宙開発競争”にのめり込んでいた時代、大気圏からの脱出はもとより、月へ行くなど身の毛もよだつ危険な行為と考えられていた。
チャゼルは、こうした不安感を鮮明に映し出し、登場人物たちに単なるヒーローではない生身の人間を演じさせている。とはいえ、ネット上の前評判とは逆に、米国人の愛国心を大いにかき立てている事も確かではある。
作中には”俺たちが貧困に苦しんでいるのに、白人は莫大な金を使って月へ行く”とアフリカ系詩人のギル•スコットが語る「月に降りた白人」も挿入されている。つまり監督の狙いは、偉大な功績ではなく、反感が渦巻く中での出来事を描く事だったのだ。
星条旗が月面に立てられるシーンを敢えて挿入しなかったのも、そういった拘りが見え隠れする。勿論、アメリカの保守層の反感を買う事になるが、逆に作品の評価を上げる結果となった。
つまりこの作品は、チンケな英雄伝ではなく、一人の男の深い物語なのだ。
目も眩むほどの壮大な表現も、序盤の多くのシーンが薄暗く埃っぽい設立当時のNASAを舞台としているのに対し、アポロ11号の打ち上げとなると、画面は圧倒的な輝きで満たされる。
IMAXフォーマットと16ミリフィルムの映像との対比を、圧倒的な迫力で際立たせ、狭苦しい宇宙船内から無限の広がりをもつ宇宙空間へのドラマチックな場面転換も圧巻だ。
実際この作品は大コケしてもおかしくなかった。ニールアームストロングに限らず、宇宙開発競争時代の宇宙飛行士を題材にする作品では、ある難題が立ちはだかる。つまり、決定的感動の瞬間が過去に何度も映像化されているのだ。
1969年のアポロ11号の打ち上げは、20世紀最大級の誰もが知るイヴェントとして描き尽くされてきた。同じものをまた見せても、斬新さや新鮮味はそう多くはない筈だ。
主人公を一人の人間としてストーリーの中心に置き、これ程までに深く分け入った作品でなければ、凡作に終わってただろう。しかし、「ファースト•マン」は見事に着陸を果たしたのだ。
以上、US版レビューからでした。
最後に・・・気付いた事?
初歩的な事だが、着陸船と司令船が宇宙空間で一度切り離され、向きを変えドッキングするシーンに、少し驚きと意外さを覚えた。
子供の時の記憶では、司令船の頭に着陸船の頭が引っ付く形で飛び立った様に覚えてる。故に、パイロットは着陸船が邪魔になり、前が見えないのでは?とずっと不思議に思ってた。
勿論実際には、司令船のお尻に着陸船が引っ付く形でロケットは発射されるのだが。大気圏を飛び出した後に、司令船は着陸船を一旦切り離し、そこで司令船は向きを180度変え、司令船の頭と着陸船の頭をドッキングさせる。そこで2人の飛行士(アームストロングとオルドリン)は着陸船に乗り移り、司令船にはコリンズだけが残る事になる。
このシーンは何度も繰り返し再生して見た。何度見ても飽きないシーンの一つだ。
でも今から思うと当り前の事だが、子供の頃は、人類が月へ行ったという事実に興奮し、こんな初歩的な事すら理解できなかったのだ。当時のNASAのコンピュータもガキのレヴェルだったかもですが、私の脳も赤ちゃんレヴェルだったんですね(笑)。
ブルーレイでは特典映像も凄く充実してますから、それを見るだけでも十分価値のある作品だと思います。
70ミリフィルムの奴で、結構解像度高いです。
こちらも少し気になります。