ウロコのつぶやき

昭和生まれの深海魚が海の底からお送りします。

「それ以上」の道化師

2013-01-04 21:07:00 | 日記

おくればせながら明けましておめでとうございます。
今年もこんな感じでマイペースにやって参りますので、気が向いた方はよしなにお付き合い下さい。

さて、書こう書こうと思いながら、中々書けなかった全日本選手権。
年の瀬の押し迫る忙しい中、襲い来る寒さをものともせず現地北海道へ足を運んだ皆様、おめでとうございます。
あの道化師を生で観られた方が羨ましい限りでございます。

私が大ちゃんのファンになったのは2006年のトリノシーズン。もうじき7年になりますが、飽きずにファンを続けているのは、問答無用で会場全体を彼自身が生み出すうねりに巻き込んで行く、こういう演技ができる人だからだろうなと改めて思いました。

多分ここに来る方は皆さんご存知だと思いますが、昨年年末、大阪のローカル紙に長光コーチのインタビューが載っていました。

勝利の方程式 高橋大輔(3)
http://www.nnn.co.jp/dainichi/rensai/skate/121220/20121220038.html

このインタビューで言及されている「ただ完璧に滑りこなすだけではない、もっと奥深いもの」。
全日本の『道化師』をあの会場で見た人には、その「もっと奥深いもの」が見えたんだろうなと思います。羨ましい。テレビの画面越しでももちろん見えましたけど、きっと生ではもっと凄かったんだろうなと思います。

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フィギュアスケートをたまに「スポーツと芸術の融合」と呼んでいるのを目にしますが、実際の所どれだけ「芸術」の領域に踏み込んでいるのか、常々疑問を感じています。

どれほど表現で魅せられてもジャンプが跳べなきゃ話にならないし、氷上でバランスを取りながらターンやスピンをこなすのも身体能力の賜物ですし。
如何に芸術的才能にあふれていようとも、それを氷上で技をこなしながら見せる身体能力がなければ勝ち上がれないし、逆に「センスゼロ、むしろマイナス」な選手でもジャンプその他技術が優れていれば上に行ける。アーティスティックな感性はあるに越した事はないけど、なければないでどうにかなるという、あくまで「スポーツ」のベースの上に乗っかったものだと思います。

で、そういう「スポーツ」のベースに乗っかった「芸術性」の評価ってなんなんだろう、と思う訳です。
曲と動きが合っている(所謂「音ハメ」)こと、振付師の考えた動きを忠実に再現していること、姿勢が良いこと、タメやメリハリを効かせた曲調に合った動きや、ストーリー・キャラクターに合った表情ができていること。

それが全部できれば満点なんでしょうか。
傍目には、「それ以上」を審査する事は、システム的にも審判の認識的にも想定されてないんじゃないかという気がするんですが。
(それ以前に、実際の試合で出て来るINやCHの数字が上の基準と全然合ってない気もしますが)

一方で、ガチなアートの世界に目を向ければ、ただキレイな絵を描くだけではアートではないし、譜面通りに演奏するだけで感動させられるって訳でもない、と思います。
技術的な条件をクリアするのはほんの入り口に過ぎず、それ以上の「何か」を見せる事で初めてアートとして認められるんじゃないかと。

長光先生が大ちゃんに求める「ただ完璧に滑りこなすだけではない、もっと奥深いもの」って結局それじゃないかと思うんですよね。
フィギュアの基準では点数にならない、審判が点数を出せない領域。
だけど見る者の心を惹き付け、ゆさぶるもの。

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私が大ちゃんのファンを長く続けている理由の一つに、彼がメディアに変な持ち上げられ方をしていない事もあるのかな、と最近思っています。

16才で日本男子初のジュニアチャンピオンになった頃は、フィギュア自体が日陰の時代だったし(少なくとも私は、一般のニュース等でこの件を見た記憶がないです)。
一般に知られるようになった(&私が存在を知った)のはトリノシーズンの2005-6ですが、この当時メディアは、「有名戦国武将の子孫(私は信じていませんが)」をヒーローとして扱っていて、大ちゃんは引き立て役みたいな雰囲気が漂ってました。
当時私はフィギュアに興味なかったし大ちゃんの事も全然知らなかったけど、例の採点ミス騒動を伝える報道からは、「どうにかして戦国武将の子孫(私は以下略)をトリノに行かせたい」というメディアの願望がにじみ出ていると感じました。
高い放映権料がかかるオリンピック放送、普段フィギュアを見ない一般層を取り込むために、信長ネタで盛り上げたかった気持ちはよく分かります。ゲームやアニメでも大人気ですものね織田信長。私は子孫だと言うのは信じてませんけど(しつこい)。
大ちゃんの事は、「こんなアイドルみたいな華やかな風貌でかつ実力もある(よく分からないけどオリンピックに出るくらいだから)のに、何で今まで全然騒がれてなかったんだろう」と不思議に思いましたけど、同時にメディアの報道からは「イケメン(笑)なので見た目に騙されたアホでミーハーな女からはキャーキャー言われてるけど中身はなくて、本当に実力があるのは戦国武将の子孫(略)の方だよ!」みたいな空気感をうっすらと感じたので、「この人のファンって人に言いづらいなあ…」とも思ったものでした(この段階ではまだファンじゃなかったし)。
後で地元倉敷のリンク出身と知って大義名分ができたので、大っぴらに応援する事にしましたが(笑)。

その後も世界選手権銀メダル(当時は日本男子初)、世界最高得点(当時)、日本男子初の五輪メダルと世界選手権優勝…と、実績に応じて段階的に人気と知名度は上がって来たけど、メディアの報道より先にファンが盛り上がってる感じで、メディアが先導したという印象はなかったです。
メディアの扱い的には寧ろ、何かというと女子の陰に隠れがちだったり、隙あらば年下の選手をメディアが持ち上げる際の当て馬にされたり。あと、女子選手を持ち上げたい時にダシにされてるなあと感じたこともありました。
「怪我からの復活」という分かりやすいネタのあったバンクーバー前後は流石に扱いは良かったかな。

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横道が長くなりました。
結局何が言いたいのかっていうと、大ちゃんのファンがファンになったのって、色んな入り口があるとは思うけど、結局最後は彼の演技そのものに魅力を感じたからなんじゃないかなって事なんです。

大ちゃんだからこそできる「それ以上」の表現。
それは直接点数には反映されないのかも知れないけど、見る者の心を惹き付ける。
「フィギュアよく分からないけどこの演技をもう一度見たい、この人の演技をもっと見たい、こんな演技ができる人を応援したい」と思わせられる。

フィギュアの試合やショーの放送をこまめにチェックする人よりも、ニュースやワイドショーで結果を見る人の方が多いから、それらの報道で扱いの良い選手に好意を持つ人は少なくないと思います。
でもそうやって外野の報道に惹かれてファンになった人は、メディアが別の「スター」を生み出せば容易にそちらへ流れて行くんじゃないかなとも思うんですよね。
でも、実際に演技を見て、演技に惹かれてファンになった人はそう簡単には離れない。

正直私自身、同じ大ちゃんファンでありながら、試合やショーの会場での彼の人気にびっくりする事がありますが、皆彼の演技そのものに惹かれているからこそ、生の演技を少しでも見ようと集まって来るのかなーと思ってます。
(人柄の良さももちろんあるけど、まず演技を見て興味を持たないと中々そこまで興味を持って調べないと思うので)

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試合というとどうしても得点、順位、ジャンプ(中でも4回転ジャンプ)の成否で語られますが、それだけではないもの、心をゆさぶる「それ以上」を見せる事ができる高橋大輔の力、それを存分に見せつけられた、そんな全日本でした。

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全日本について、もうひとつエントリーを書こうかなと思っています。
大ちゃんが負けたから、負け惜しみで書いていると思われてしまうかも知れません。
でもこういう視点で語る記事が意外となさそうなので、一つくらいはこういう記事もあっても良いかなと思いましたので、思い切って上げてみようかなと思ってます。

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拍手コメントのお返事

□2012/12/23 11:47
なおさんこんにちは。
全日本、結果はともかく堂々たる王者の滑りを見せてくれたと思います。
結果については色々思う所があるので別に記事を上げるつもりです。今迄何一つ無駄にして来なかった大ちゃんが、これも一つの糧としてくれることを祈るしかないですね。
衣装はまたちょっとマイナーチェンジして、完成形が見えて来ましたね♪最後に羽が落ちる所もドラマティックでしたが、点数引かれるのは勿体ないので、次はしっかり固定して貰いたいです(笑)。