ウロコのつぶやき

昭和生まれの深海魚が海の底からお送りします。

ルビンの壺が割れた

2021-02-07 16:17:00 | 読書感想文

ちょっと大分前に話題になっていたのを今頃になって読みました。
一応ネタバレはしない方向で書いてます。

本の表紙(と見せかけてあれは帯らしい)等でさんざん「衝撃の結末!」と煽られていたのが却って緩衝材となり、結果それほど衝撃を受けずに軟着陸したというか、衝撃を受ける代わりにげんなりして読了しました。

面白いか面白くないかで言えば面白いのですが、同時に「こんなの読んで面白いと思ってる自分ってどうよ」というモヤモヤ感が残りまして。
端的に言うと、下世話な話です。

あとがき解説には「分類しようのない作品」とありましたが、個人的にこれに一番近いなと思ったのはなつかしの「電車男」です。
あっちは2ちゃんねる(当時)に書き込まれた内容で、こっちはフェイスブックを通してのやりとり。地の文がなく、Web上のやりとりをそのまんま転載しましたという体裁を取っているという点も共通。

その上でこの作品、「SNS」などとぼかさずに、そのものずばり「フェイスブック」と名指し指定してある所がポイントです。
ネットの匿名性が何かと話題になる今日この頃ですが、フェイスブックは原則実名なんですよね。そうすると、ネットの世界が外の現実に直結してしまう。ネットを宣伝に使って現実の商売に結びつけたい人には役に立つツールかも知れませんが、個人の趣味で使うにはうっとおしくて、一度アカウント作りかけてすぐやめました。

何が悲しくて、現実世界でお義理で仕方なく付き合っている相手に、ネットの中でまでお追従を言わなきゃならないのか。
ていうか、どういうアルゴリズムになってるのか分かりませんが、昔関わった事のある、もう何年も連絡を取ってない人のアカウントを「もしかしてお友達ですか?」と拾って来るのが大きなお世話過ぎました。
何年も連絡を取っていないのは、取る必要がないからです。
理由があって切れた縁を、わざわざ結び直しても良い事なんてありません。

「偶然あなたのアカウントを見つけて、懐かしくなって連絡しました…」なんて調子で送られてくるメッセージには、悪い予感しかしない。
そんなろくでもないメッセージからこの物語は始まります。

フェイスブックのメッセージ機能でやりとりをしている2人と、読者の間には情報の格差が存在します。
2人は30年前の学生時代を、お互い相手が知っている前提でやりとりしているので、読者の知らない情報が説明なしに飛び出して来る。そしてその中に、気になるワードをさりげに散りばめてくるので、「何?どういうこと?」と気になってついつい読み進めてしまうのです。

思い出を語る2人のやりとりから、過去の出来事が次第に明らかになり、そこから徐々に相手が知らない情報を告白し合い…という感じ。
自分が当事者なら絶対深入りしたくない所ですが、他人事になった途端に野次馬根性でどんどん読み進んでしまう自分に軽く自己嫌悪に陥ります。

電車男に似てるなあと思ったのは、その辺の引きの強さです。
あれはこの話とは逆に、匿名掲示板だから成り立った話で、語り手も謎のままだし実話かどうかも分からない。
ただ個人的に、その辺の素人が書いたにしては上手過ぎると思いました。
最初の書き込みは短くて唐突でさっぱり要領を得ない。そのくせ思わせぶりな書き方で、「何なに?何があったの?」と聞きたくなる。
そうして、別の住人に「詳細キボンヌ」と書かせた上で徐に長文で語り始める。野次馬根性を刺激して、ぐいぐい読ませるあのやり方に近いような気がしました。

「ルビンの壺が割れた」も、編集部に突然原稿が送られて来た作品で、作者の正体は不明なんですよね。その正体ってまさか…ねえ。

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