2001年になり、日の丸ダイヤ石油はブランドマークを統一した。
正志たちが考案した、エネルギーをイメージさせるデザインになっている。
販売店の防火壁のカラーリングも順次塗り替え工事が進んでいるはずだ。
石崎は中藤がシガレットケースを忘れた、あの元キラキラダイヤ石油の販売店を訪ねることにした。
石崎の現在の愛車は日産セドリックだ。
初めて買ったスカイラインから、自分が乗るのは日産車と決めている。
息子の正志の車も日産のラシーンだ。
あの元キラキラダイヤ石油のスタンドに着き、計量機の横に停車する。
若い店員が出てきて注文を聞いてくれる。
窓を拭いている彼に名刺を渡して店主を呼んでもらう。
あの時店先から見ていた婦人が出てきて
「まあ!まあ!こんな所へお越しいただいて」と腰が折れんばかりに頭を下げた。
「昔は元売りの社員さんもたまには来てくださったけど、ここ数年は一切音沙汰もありませんでしたのに、どうしていきなり、それも専務さんが?」
兎に角中へと勧められて、セールスルームに入った。
確かに経年により汚れてはいるが、花を飾るなどちょっとした心遣いはしてある。
主人も出てきて挨拶を交わした。大人しい感じの主人だ。
手土産を渡しながら簡単に事情を話すと
「まあ、そんな失礼なことを申し上げたんですか?あの子は!・・・申し訳ございません」と婦人が謝るので、「いやいや、彼の言うことはもっともな事です。それに明るくて感じの良い青年でしたよ」
「ところで、あの時の青年は?」と訊くと、今は工場で働いているのだという。
子供が出来たので結婚して定時制の高校は辞めて、社会保険に加入できるように正社員として工場に勤めたのだと言う。
「そうですか、学校を辞めることになったのは惜しいですが、あの彼ならしっかりやっていくでしょう」
「はい・・・ありがとうございます。・・・そうなんですよ。確かに定時制に通っている子供たちは敬語もきちんと使えない子が多いですし、ちょっとつっぱったような所もありますけど、根は優しくて素直な良い子が多いんですよ。私らがきちんと教育出来れば良いんですけど、そんな力はありませんし・・・」「それに本当ならうちで雇ってあげられれば良いのですが、なにぶん経営が苦しくてこれ以上の人数を社員として雇うことは無理なんです」
外に居る青年は?と訊くと、彼も定時制の学生だと答える。
ひとり居る社員の男性は配達に出ているそうだ。
憮然とした表情で話を聞いていた主人がおもむろに口を開いた。
「石崎専務さん、・・・いきなり不躾ですが、この業界はどうなっているんです?市況に合わせていたら殆どマージンが無い。・・・どうして余所の店はあんな値段で商売が出来るんです?」
「おっしゃる通りです。皆さん、そうおっしゃっています・・・」
「元売さんだけが儲けすぎなんじゃないんですか?販売店への仕入値をもっと安くしてくださいよ」
「いや、元売りも厳しいものですよ。やはり特石法廃止が効いてきたんでしょう・・・しかし、あと1年か2年辛抱してください。そうすればきっと状況は好転するはずです」
1996年に特石法が廃止されてから2000年までに、全国では5000件以上のスタンドが廃業となった。
店舗は営業を続けていたとしても消費者の知らない所で経営者(運営者)が変わっていることも多い。
今、営業を続けている販売店も苛立ちを募らせていることは想像に難くない。
石崎は根拠のない慰めで答えるほか無かった。
そうこうしているうちに配達に出ていた社員男性が帰ってきたが覇気がなく、石崎はこの販売店の将来を案じながら店を後にした。
つづく
※この物語はmasumiさんの被害妄想に基づくフィクションです(^^;
実在の人物及び団体とは一切関係ございません。
尚、加筆修正及びキャラの変更等もあるやも知れませぬことをお断り申しておきまする(^^;
正志たちが考案した、エネルギーをイメージさせるデザインになっている。
販売店の防火壁のカラーリングも順次塗り替え工事が進んでいるはずだ。
石崎は中藤がシガレットケースを忘れた、あの元キラキラダイヤ石油の販売店を訪ねることにした。
石崎の現在の愛車は日産セドリックだ。
初めて買ったスカイラインから、自分が乗るのは日産車と決めている。
息子の正志の車も日産のラシーンだ。
あの元キラキラダイヤ石油のスタンドに着き、計量機の横に停車する。
若い店員が出てきて注文を聞いてくれる。
窓を拭いている彼に名刺を渡して店主を呼んでもらう。
あの時店先から見ていた婦人が出てきて
「まあ!まあ!こんな所へお越しいただいて」と腰が折れんばかりに頭を下げた。
「昔は元売りの社員さんもたまには来てくださったけど、ここ数年は一切音沙汰もありませんでしたのに、どうしていきなり、それも専務さんが?」
兎に角中へと勧められて、セールスルームに入った。
確かに経年により汚れてはいるが、花を飾るなどちょっとした心遣いはしてある。
主人も出てきて挨拶を交わした。大人しい感じの主人だ。
手土産を渡しながら簡単に事情を話すと
「まあ、そんな失礼なことを申し上げたんですか?あの子は!・・・申し訳ございません」と婦人が謝るので、「いやいや、彼の言うことはもっともな事です。それに明るくて感じの良い青年でしたよ」
「ところで、あの時の青年は?」と訊くと、今は工場で働いているのだという。
子供が出来たので結婚して定時制の高校は辞めて、社会保険に加入できるように正社員として工場に勤めたのだと言う。
「そうですか、学校を辞めることになったのは惜しいですが、あの彼ならしっかりやっていくでしょう」
「はい・・・ありがとうございます。・・・そうなんですよ。確かに定時制に通っている子供たちは敬語もきちんと使えない子が多いですし、ちょっとつっぱったような所もありますけど、根は優しくて素直な良い子が多いんですよ。私らがきちんと教育出来れば良いんですけど、そんな力はありませんし・・・」「それに本当ならうちで雇ってあげられれば良いのですが、なにぶん経営が苦しくてこれ以上の人数を社員として雇うことは無理なんです」
外に居る青年は?と訊くと、彼も定時制の学生だと答える。
ひとり居る社員の男性は配達に出ているそうだ。
憮然とした表情で話を聞いていた主人がおもむろに口を開いた。
「石崎専務さん、・・・いきなり不躾ですが、この業界はどうなっているんです?市況に合わせていたら殆どマージンが無い。・・・どうして余所の店はあんな値段で商売が出来るんです?」
「おっしゃる通りです。皆さん、そうおっしゃっています・・・」
「元売さんだけが儲けすぎなんじゃないんですか?販売店への仕入値をもっと安くしてくださいよ」
「いや、元売りも厳しいものですよ。やはり特石法廃止が効いてきたんでしょう・・・しかし、あと1年か2年辛抱してください。そうすればきっと状況は好転するはずです」
1996年に特石法が廃止されてから2000年までに、全国では5000件以上のスタンドが廃業となった。
店舗は営業を続けていたとしても消費者の知らない所で経営者(運営者)が変わっていることも多い。
今、営業を続けている販売店も苛立ちを募らせていることは想像に難くない。
石崎は根拠のない慰めで答えるほか無かった。
そうこうしているうちに配達に出ていた社員男性が帰ってきたが覇気がなく、石崎はこの販売店の将来を案じながら店を後にした。
つづく
※この物語はmasumiさんの被害妄想に基づくフィクションです(^^;
実在の人物及び団体とは一切関係ございません。
尚、加筆修正及びキャラの変更等もあるやも知れませぬことをお断り申しておきまする(^^;