2006年6月17日(土)
#321 ビョーク「ポスト」(ポリドール POCP-7040)
ビョーク、95年のセカンド・アルバムを聴く。ネリー・フーパー、グレアム・マッセイ、ビョークによるプロデュース。
東洋人のような不思議な顔をしたこのアイスランド女は、顔立ちだけでなく、その作り出す音楽もまた、過去に登場したどのようなスタイルのポピュラー・ミュージックと似ていない。たぶんこれからも。
まさに、空前絶後な存在。
その個性的なボーカル・スタイルは、歌う(Sing)というよりは、叫ぶ(Scream)というほうが近いといえるだろう。
これこそが歌うという行為の、本来的なありかた、原初的な形態ではないかとも思う。
彼女の気まぐれで、お茶目で、直情径行なキャラクターそのままな声。
前衛的なサウンドをバックに配しながらも、彼女の存在はあくまでも「ポップ」なのである。
多くの人々の理解を拒むアヴァンギャルドな音楽は、この世界にゴマンと存在するが、その手の音楽とは完全に一線を画し、なおかつ英米のマンネリズムに陥ったポピュラー・ミュージックともまったく違うユニークネス。
ふだん、アメリカ的というか、ブルース的なイディオムを多少なりとも含む音楽ばかり好んで聴いている筆者にとって、これはとてつもなく心地よい衝撃体験である。
かつてブラジル音楽が、アメリカ音楽への強烈なカウンター・パンチとして機能したように、ビョークの生み出すポップが、停滞している英米音楽へのカンフル剤となりうるのではないかと思う。
いまのポップ・ミュージックが置き去りにしてしまったこと、「歌う」という行為の重要性を、もう一度思い知らせてくれる一枚。
10年以上前の作品ながら、新鮮な衝撃をいまだにもたらしてくれる。
ビョーク。恐ろしいばかりの才能の女(ひと)である。脱帽。
<独断評価>★★★★