#335 エルモア・ジェイムズ「THE COLLECTION」(DEJA VU DVCD 2035)
エルモア・ジェイムズのベスト盤。イタリア「DEJA VU」レーベルより88年にリリースされている。
筆者にとって「激情のブルースマン」といえば、オーティス・ラッシュとこのエルモア・ジェイムズの二人だな。ともに、歌もギターも、熱い熱い!
でも、そのニュアンスは、二人微妙に違っていて、オーティス・ラッシュはどこかオプティミスティックというか、悲しい内容の歌をうたっていても、どこか救いがあるのに対し、エルモア・ジェイムズには、悲劇の影が常につきまとっており、彼のうたうラブソングも、いまは幸せであってもいずれ破局を迎えるような、そういう雰囲気を漂わせている気がする。これは、病気からのリハビリ中とはいえいまも健在のオーティスと、早くに亡くなっているエルモアの違いといえなくもない。
そう、エルモアは、嵐のように来て、嵐のように去る、文字通り激情の人生を送った男なのだ。
51年に初録音をして、63年になくなるまでの極めて短い間に、実に精力的な活動をかさねている。他のブルースマンの何倍ものスピードで生き、そして45才であの世に直行してしまった。
ジャズにおけるチャーリー・パーカー、ジョン・コルトレーン、ロックにおけるジミ・ヘンドリックスのような生涯だったといえそうだ。
そのへんの詳しい話は、最近出版された大著「伝エルモア・ジェイムズ ~ギターに削られた命」(ブルース・インターアクションズ)にまかせることにして、本題、このコンピ盤についてである。
選曲としては、エルモアの代表曲の大半を収録してある。とはいえ、名曲名演の多いエルモアのこと、20曲ではおさまり切るわけがない。
欲をいうと、筆者の好きな「THE SUN IS SHINING」「I NEED YOU BABY」「IT HURTS ME TOO」「SOMETHING INSIDE OF ME」「GOT TO MOVE」「SHAKE YOUR MONEY MAKER」あたりも入れて欲しかった。
つーことは、やっぱり、一枚では無理。最低二枚組は必要ということかな。
三連符が印象的な、もっぱら「ブルーム調」とよばれるM1、その改作M2、そしてその流れにあるM4、M5、M11、M12、M16、ミディアム・テンポのM3、M10、M17、M18、M19、アップ・テンポのシャッフルM6、M8、M13、スローの名曲M9、ラテン調のM15などなど、 エルモアの音楽のいくつかの流れを捉えることが出来る。
スライド・バーでなく指を使って弾く曲では、ふだんとひと味違ったジャズっぽい、たとえばT・ボーンにも通じるところのあるエルモアを聴くことが出来て、興味深い。彼のキャリアのスタートは30年代末~40年代。ジャズ、ジャンプな音楽にもしっかりなじんで来たっちゅーことやね。
そういった土壌の上に、エルモアならではのオリジナルなサウンドが次第に築きあげられ、50年代に一気に開花した、そういうことだな。
たとえばラストM20などは、典型的なエルモア・スタイルといえよう。アグレッシヴな歌と闊達なスライド・ギターが織りなす、刺激的なアーバン・ブルース。
クラプトン、ベック、ジェレミー・スペンサー、ストーンズ‥。彼のサウンドに、どれだけ多くのミュージシャンが魅せられて来たことだろう。
曲よし、歌よし、ギターよし。まさに不世出の才能を堪能していただきたい。
<独断評価>★★★★