2006年11月26日(日)
#337 ブライアン・アダムス「カッツ・ライク・ア・ナイフ」(アルファ AMP-28069)
カナダ出身のロックシンガー、ブライアン・アダムスのサード・アルバム、1983年リリース。ブライアンとボブ・クリアマウンテンによるプロデュース。
ある世代にとって「スペシャル」なアーティストというのが、いつの時代にも存在する。
僕ら50年代生まれの人間にとっては、ビートルズ、ストーンズ、ZEP、パープルあたりがそうなのだが、僕らよりもう少し(5~10年)若い連中にとっては、それがエアロ、ボンジョビ、そしてこのブライアン・アダムスだったりする。
ブライアンの存在を知ったのは、筆者が社会人になってから。会社の仕事でレコード・レビューに書くため聴いたのが、このアルバムやデビュー・アルバム「ブライアン・アダムス」だった。
以来23年来、たまに引っぱり出して聴くし、その後リリースされたアルバムも何枚か購入して聴いている。仕事ではなく、個人的趣味として。
ということで、たしかに嫌いなアーティストではないのだが、かといって自分の青春のカリスマというほどの重要性はない。
これはやはり、十代でなく、大人になってから彼に出会った、ということが大きいんだろうな。
エルヴィスに熱狂していた筆者の前の世代の感覚を、筆者が理解しづらいように、ブライアンをカリスマ、アイドル視する筆者より若い世代の感覚は、どうにもピンとこない。一プロミュージシャンとしてしか、見ることが出来ないのである。
とはいえ、やっぱり彼はカッコいいことに違いない。
いわゆる「白人ロックンローラー」なのだが、先輩格のブルース・スプリングスティーンあたりと比較してみると、全然違うよね。
まず見てくれ。ブロンド、青い眼、ヒゲなし、そしてスリムで長身。黒髪、ヒゲもじゃでいかにもオッサン臭く、わりと小柄なブルースと違い、女性にも受けそう。
それからサウンド。同じロックンロールとはいっても、ブルースは60年代のR&Bをずっと引きずっているのに対し、ブライアンのそれは、もう70年代ハードロック期以降の音でしかない。
たとえばA面2曲目の「テイク・ミー・バック」とか聴くと、明らかにエアロやZEPの影響を感じますな。
ギターのハードなリフ中心の音作り、歯切れよく抜けのいいパワフルなサウンド。これは共同プロデューサーにして名エンジニアとしても知られた、ボブ・クリアマウンテンの手腕によるところが大きいんじゃないかと思う。
とにかく、一曲一曲、ソツなく丁寧に作られていて、安心して聴けるのである。
ことにA面。ハスキーな声でロッド・スチュアートばりの熱唱を聴かせる「ディス・タイム」、メロディアスなバラード「ストレート・フロム・ザ・ハート」(ホンマに名曲です)、そして「カツラがない!」の空耳でおなじみの「カッツ・ライク・ア・ナイフ」の流れは、もうパーフェクト!としかいいようがない。この奥行きのあるサウンド、当時の日本のポップスにも、どれだけ影響を与えたことか。
B面も負けてはいない。ギターリフで始まる「アイム・レディ」。ジャーニーやボストンあたりのプログレ・ハードにも通じるものがあり、実にカッコいい。
ミディアム・テンポの「ホワット・イッツ・ゴナ・ビー」、これはちょっと曲調がブルース・スプリングスティーンぽいかな。サウンドは80年代風だけど。
TOTO、フォーリナーを連想してしまうのは「ドント・リーヴ・ミー・ロンリー」。コーラスはデュランデュラン風とちょっとヒネってありますが。
プチ・モータウンな曲調ながら、バックは明らかにハード・ロック、コーラスはフォークロック・バンド系という面白い取り合わせは「レット・ヒム・ノウ」。
ラストはしっとりとしたバラード「ザ・ベスト・イズ・イェット・トゥ・カム」で締めくくり。ブライアンの、説得力ある歌いぶりが光ってます。
こうして聴いてくると、なんていうか、やっぱりホンモノは違うなあと感じる。日本のポップス&ロックシンガーたちが、彼からパクろうとして、しきれなかったもの。それは「うた」なんだなと痛感。
欧米と日本のポップスは、演奏においては相当差が縮まってきたが、「うた」に関してはまだまだ差が開いたまま。
ハンパな和ものを聴くよりは、やっぱり本場ものを聴くにしくはない。
47才になったいまも、バリバリの現役ロックンローラーなブライアン。その若き日のエネルギー全開な一作、いまだに新鮮な感動をもたらしてくれます。おすすめ。
<独断評価>★★★★☆