2007年3月11日(日)
#350 ジョージ・ベンスン・カルテット「クックブック」(CBSソニー 15AP 544)
ジョージ・ベンスン、66年のリーダー・アルバム。CBSでの二枚目にあたる。ジョン・ハモンドによるプロデュース。
ベテラン・オルガニスト、ジャック・マクダフのバンドで頭角をあらわしたベンスンが、マクダフのもとを離れ、自らのバンドを率いるようになる。
バンドは4人編成だったが、本作ではベンスンのギター、ロニー・キューバのバリトン・サックス、ロニー・スミスのオルガン、ベニー・グリーンのトロンボーン、ジミー・ラブレスあるいはマリオン・ブッカーのドラムスという5人編成となっている。
ベースレス(オルガンがベースラインを担当)で、サックス&トロンボーンの二管編成というのが特徴的だな。
ベンスンというと、「ブリージン」で大ブレイクしてからは、「ギター"も"上手いシンガー」みたいなポジションにおさまってしまったが、本業はやはりジャズ・ギタリスト。本作では、彼のギターの真骨頂が聴ける。
まずは、速いパッセージの連続に圧倒されるブルース進行のナンバー、「ザ・クッカー」でスタート。ベンスンの作品。
キューバのバリトン・サックスも、ベンスンのギターに負けず劣らず、ゴリゴリのノリでカッコいい。
続くはパーカー・ライクなアップテンポのブルース・ナンバー、「ベニーズ・バック」。同じくベンスンの作品。ロニー・スミスのオルガン・ソロがまことにグルーヴィ。このひとは、完璧なベースラインといい、ツボをおさえたソロといい、実にミュージシャンの鑑ともいうべき仕事をするねぇ。
もちろん、グリーンのトロンボーン・ソロも、ベンスンのソロも、申し分ない出来ばえ。
「ボサ・ロッカ」は、当時流行のボサ・ノバを取り入れたベンスンのオリジナル。
ここでのベンスンはテクニックよりも、フィーリングで勝負。きめ細かいフレージングで、ムードある音世界を作り出している。
「オール・オブ・ミー」は、ジャズファンなら知らぬ者もない、超スタンダード。アルバムで唯一、ベンスンがご自慢の歌を披露している。まあ、余技なのだが、当時から堂に入った歌いぶりだ。ジャズィというよりは、ソウルフルで、適当にポップでもある。
のちの人気シンガー、ベンスンの片鱗を感じさせる一曲であります。
「ファーム・ボーイ」はR&Bテイスト、ミディアム・テンポのオリジナル。ファンキー・ジャズなノリが◎であるな。
B面トップの「ベンスンズ・ライダー」はブルース・ナンバー。ベンスンが単弦弾きでソロとるが、まだスタイルが完成されてはいないものの、そのブルーズィなプレイは実にみずみずしい。ウェス・モンゴメリーの後を継ぎうる、もっとも有力な候補と当時いわれていたのも、納得である。
ジミー・スミスの作品、「バイヨー」は、リフにパーカーの影響が色濃い、アップテンポのナンバー。キューバ、ベンスンと続くソロのノリのよさには、格別のものがある。ものすごいスピードで演奏しているのだが、スリリングというよりは、安定感のあるプレイ。まさに職人の仕事だ。
「ザ・ボルジア・スティック」は、ベンスンの作品。テレビドラマの主題曲として書かれたとのこと。スローなテンポで、重厚感のある演奏だ。ベンスンのオクターブ奏法も聴ける。これを聴くに、ウェスの影響は明らかだ。
「リターン・オブ・ザ・プロディガル・サン」は、エイト・ビートのロック調ナンバー。ファンキー&ソウルフルなサウンドが、当時の流行をもろに反映しとります。
ラストのブルース・ナンバー、「ジャンピン・ウィズ・シンフォニー・シッド」はレスター・ヤングの作品。同じようなブルースでも、プレスが作れば、クールな味わいになるのが、面白い。
ここでのグリーンのトロンボーンのプレイは、まことにスムース&スウィンギー。名人の芸とよぶにふさわしい。
続くベンスン、キューバ、スミスのソロも、クールな中にもパッションを感じさせる演奏。特に歴史に残る名演、というわけではないが、プロの手練とはこういうものという見事なサンプルだ。
アメリカ各地をツアーして回るプロのジャズ・コンボは、こういう音楽メニューを毎日演奏していておったのだなと思わせる一枚。
さまざまなビートを、ソツなく料理してみせる、ベンスンの腕前。まさに名シェフの"技"であります。
<独断評価>★★★