2006年12月31日(日)
#342 ムーンライダーズ「アマチュア・アカデミー」(RVC/dear heart RAT-8817)
今年、レコードデビュー30周年を迎えたムーンライダーズの、9枚目のアルバム。84年リリース。ライダーズおよび宮田茂樹によるプロデュース。
筆者は、彼らがあがた森魚のバックで「はちみつぱい」として演奏していた頃から、その独自のサウンドには注目していた。
多くの日本のロックバンドが、本場のロックの「なぞり」に明け暮れていた頃、早くから「なぞり」を脱却して、この国ならではのロックを創り出していた彼らは、まことに異彩を放っていた。
たいていのバンドが「ライブで乗れる」ことを第一義にして曲作りをしていたのに対し、そのことにこだわらず、「作品」としてのアルバム作りを行い、ほぼ一作ごとに新しい作風を掲げたのも、彼らならではのことだった。
これは彼らが一度も「売れた」ことがなかった(もちろんプロとして活動を維持していける最低限の実績はあったが)ことが、プラスの方にはたらいたといえる。
下手にスマッシュ・ヒットを出し、「売れて」しまうと、そのヒット曲のイメージにひきずられることになる。そうなると、次に出す曲もそのヒットの縮小再生産的なものになり、自己模倣を繰り返したあげく、リスナーに飽きられ、見捨てられ、解散せざるをえなくなる。あのYMOでさえ、その憂き目はまぬがれなかった。「売れる」ということは、諸刃の剣なのである。
そういう意味で、ライダーズほど、見事なまでに、セミプロというかセミアマ状態を30年以上、ずっと維持出来たバンドは他にない。
さて、このアルバムはレーベル遍歴のめまぐるしさでは他バンドの追随を許さない(笑)ライダーズが、四番目のRVC=dear heartレーベルにて出した一枚。
話題作「青空百景」「マニア・マニエラ」を経て、ライダーズ中期のサウンドを確立した一作といえそうな本盤は、まず曲名と歌詞カードに異様な特色がある。
タイトルはすべて欧文の略語。歌詞はまるで、コンピュータのプログラム・ソースのような文字の羅列。もちろんひとつひとつの言葉には意味はあるのだが、字間なしのベタ打ち状態ゆえ、ものすごくシュールな印象を見る者に与える。
歌における「意味性」の脱構築。いってみれば、幻想としての「伝統的ポップ・ミュージック」の解体。
22年前、パソコンの影も形もなかった当時、こういう究極のディジタル思考で一枚のコンセプト・アルバムを作ってしまったのだから、彼らがいかに先進的であったか、わかるだろう。
時代より一歩どころか、十歩くらい進んでいたのだから、こりゃ売れるわけないよなあ(笑)。
個人的には「ガッチャ!」とソウル・ミュージックをおちょくりパロった、白井良明作の「NO.OH」が好み。(そういやJBも死んじゃったよなあ)
「軽み」が身上の鈴木慶一のボーカルも、全曲で冴えわたってるし、ホ-ンを大胆に導入したアレンジ、打ち込みの多用も、実にグッド。もちろん、各メンバーの小技の聴いた演奏も、文句なしにいい。
「のせる」ことより「聴かせる」ことにポイントを置いたサウンド、まさにワン・アンド・オンリー。
日本にも、いやいや日本だからこそ、こういう英米ロックの汗臭さとは無縁の、独自のインテリジェンスに満ちたロックが生み出されたのだと思う。
ロックとは「テクニック」よりむしろ「発想」で勝負する音楽だと考えている筆者にとって、「わが意を得たり」という感じ。
彼らの音楽には一貫して、リスナーとの一定の「距離」があって、それが筆者には好ましく感じられる。「オレはキミたちの最大の理解者であり、代弁者なのだよ」と語りかけることでリスナーを取り込もうとするような、聴き手への「おためごかし」で成立している、多くのロック/ポップ・ミュージシャンのような「偽善」がそこにはない。
だから筆者は、ずっとムーンライダーズを信用していられるのである。
<独断評価>★★★★