2006年8月13日(日)
#325 マイケル・シェンカー・グループ「神(帰ってきたフライング・アロウ)」(東芝EMI CP21-6052)
日頃、ブルースばかり聴いていると、たまにまったく違うノリの音楽を聴きたくなる。ひたすらハードで、脳髄にガツン!と来るようなパワフルなヤツを。
ってことで、今日の一枚はこれ。
マイケル・シェンカー・グループのデビュー盤。80年リリース。ロジャー・グローヴァーによるプロデュース。
ドイツのハードロックバンド、スコーピオンズに、えらく若いのに凄腕のギタリストがいるらしいという情報が、ロック少年だった僕たちに伝わってきたのが72年ころ。それがマイケルだった。
兄ルドルフ率いるスコーピオンズを離れ、73年に英国のバンドUFOに加入。デビューヒットの「カモン・エヴリバディ」以降、パッとしなかったUFOを、その神業ともいえる鮮やかなギター・プレイで見事再生させる。まさに「救世主」であったのだ、マイケルは。
しかしながら、バンドでひとり異邦人だったマイケルは孤立しがちで、いろいろな精神的葛藤を抱えてしまい、5年ほどの在籍後、UFOを脱退。
しばらくの休養期間を経て、ついに本格活動再開!となったのが、このMSGなるグループというわけだ。
このアルバム発表時、マイケルは弱冠25才。だが、71年にプロデビューしてからすでに9年がたっており、そのプレイはもはや「王者の貫禄」さえ感じさせた。
コアなファンからは現人神のごとく崇められていたが、それも無理からぬことだったわな~。
事実、聴いてみればいい。たとえば「アームド・アンド・レディ」を。
このイントロ、リフ、そしてソロ。もう、ハードロック/へヴィーメタルの必修教科書とさえいえる、実に整然たるプレイ。一糸の乱れもない。
現在、第一線で活躍しているHR/HM系のギタリストで、彼の演奏に影響を受けなかった人間などひとりもいない。そう断言して間違いなかろう。
その太く、官能的で、しなやかなディストーション・トーンが、どれだけの数のロック少年たちを虜にしてきたことか。
あるいは「クライ・フォー・ザ・ネーションズ」「ヴィクティム・オブ・イリュージョン」「イントゥ・ジ・アリーナ」でもいい。
その正確無比なリズム感、そして頭に浮かんだフレーズをそのまま完璧に表現する高度のテクニック。ギタリストとして必要なすべてをもった男。神とよばれるゆえんである。
もちろん、マイケル個人だけでなく、それを支えるバックのメンバーのプレイも素晴らしい。
ヴォーカルのゲイリー・バーデン。MSGはマイケルが主役のバンドとはいえ、もちろん歌もののバンドである以上、シンガーは重要だ。彼の歌いぶりは、格別の個性は感じられないものの、声域、声量等、マイケルのプレイと比べてけっして聴き劣りはしない。及第点はクリアしている。
べースのモ・フォスター、キーボードのドン・エイリー、ドラムスのサイモン・フィリップス。彼らリズム隊も、表に派手に出てはこないが、正確で堅実なプレイぶりで◎。
リスナーの予想を絶対裏切らない「黄金分割」的な展開を見せる「イントゥ・ジ・アリーナ」とかを聴くと、「よっ!名人芸!」と大向こうから声を掛けてしまいたくなる。
現在、HR/HMは、いい意味でも悪い意味でも、歴史的な成長段階を終え、「伝統芸能」化しているような気がするが、そういうニュアンスでいえば、マイケルは、最初の「家元」なんだよなあ。
それまでは一種の実験音楽で、混沌とした状態だったHR/HMの世界を再構築し、造物主よろしく秩序を与え、音楽としてのかたちを整えたのが、マイケル。こうくれば、こう受ける、みたいな「型」が、彼のおかげで80年代以降、きちんと定着していくのだ。
やっぱり、彼は神だった、ということか(笑)。
それはともかく、このアルバム、歌とギターのそれぞれ占める割合が非常にバランスよい状態で、何度聴いてもあきるということがない。
そのへんは、バンド外の第三者であるロジャー・グローヴァーにプロデュースをまかせたことが功を奏したということかな。
マイケルのギターだけが浮き上がらず、ちゃんと「バンド」のサウンドとして成立しているのだ。
その後マイケルは、一時休止時期もあったものの、四半世紀以上にわたり着実に活動を続け、いまでは帝王の座をゆるぎないものとしている。
近年では、HR/HMだけでなく、ルーツ・ミュージック、ブルース・ロック的な方向性にも大いに興味を示して、「シェンカー=パティスン・サミット」なるユニットでも活動している。ブルース・ファンとしてはうれしい限りである。
25才にして、これだけのものを打ち立てた男である。今後も、つねに第一線でその才能ぶりを発揮していくに違いない。
<独断評価>★★★★☆