2006年11月19日(日)
#336 織田哲郎「ヴォイス」(CBSソニー XDKH 93023)
1958年3月11日生まれというから、筆者と同世代にあたるシンガー・ソングライター、織田哲郎のソロデビュー・アルバム。83年6月リリース。
筆者は仕事の関係で、織田に一度だけ会ったことがある。このアルバムをリリースしたばかりのころだ。
同じ25才なのに、彼はひどく落ち着いた雰囲気があり、大人びていて、とても筆者とタメ年には見えなかった。それもそのはず、彼はそのとき初めてメジャーデビューしたわけでなく、79年に「WHY」というユニットですでに世に出ており、すでに4年のメジャーキャリアがあったのだ。落ち着き払っていたのも、当然といえば当然か。
作詞、作曲はいうにおよばず、全曲のアレンジまで手がけている。こんな新人、フツーはおらんよな。
というわけで、このアルバムは、ソロ一作目にしてかなりのクォリティを持っている。
ほぼ同時期にデビューした大江千里のアルバムの、まだどこか拙い、アマチュアっぽい感じと比べれば、一目瞭然であるな。
で、ひさしぶり(たぶん10年ぶりくらい)に聴いてみての感想は、「すげー、何で売れなかったの、これ(笑)」というものだ。
メロディ・ラインは非常にキャッチーで覚えやすいし、歌も若干線が細いけど下手じゃないし、バックもビーイング系の巧者でかためているんで、ソツがない。
彼ならではの強烈な個性とか、唯一無二のオリジナリティみたいなものは感じられないんだけど、常に平均点以上のスコアをクリアしている、そんな印象だ。
彼には何人かのロック・ヒーローがいて、それへのトリビュートという感じでサウンドを生み出している。それは、あるときはB・スプリングスティ-ンだったり、あるときはジョン・レノンだったり、ビリー・ジョエルだったりする。これらの人たちに共通しているのは、フィル・スペクター・サウンドへの指向だから、「スペクター指向」とひとつにまとめてもいいかもしれない。
万事に器用で「これぞオダテツ!」という決め技、「これっきゃない!」みたいな一つ覚え芸は特にないのだが、それが逆に災いしてしまったのか、しばらく彼は冷や飯を食うことになる。
で、一躍彼の名前を世間に知らしめたのは、皮肉なことだが、他人への楽曲提供、すなわちコンポーザーとしての活動であった。
ごぞんじ、TUBEのサード・シングルにして大ヒットとなった「シーズン・イン・ザ・サン」(1986)を皮切りに、ZARD、DEEN、相川七瀬などの楽曲で大いに名を上げ、その余録というか、彼自身もいくつかのヒット曲を出すようになる。もちろん、あくまでも「中程度」のヒットで、TUBEらには遠く及ばなかったが。
結局、彼はミュージシャンとしては高い実力をもちながら、スター性、つまり「華」がなかったということなんだろうな。
彼の弟子格、ZARDの坂井泉水と比較してみれば、それはよくわかる。坂井の歌って、けっして巧くはないんだけど、あの声の魅力、そしてルックスに、スターの資質があるってことなんよ。織田にはそういう華は、残念ながらない。
裏方役はけっして本人が望んでやっていることではないんだろうけど、やっぱり彼は良質のポップスを製造し続ける「職人」なんだと思う。
プロ活動もはや27年を越えた。サザンオールスターズもすごいけど、オダテツも別の意味ですごい人だと思っている。
いまも変わらず、ソロデビューのころと同じように自然体で飄々とやっているのが、彼らしくていい。ヒットしなくてもいいから、たまには、自身の新作を出してほしいものです。
<独断評価>★★★★