日本では、一部土地取引などを除きあまりポピュラーではありませんが、信託の発達した英米では結構見られる取引にEscrow Agreementがありますので、今回は、そのEscrow Agreementについてです。では、どんなケースで見られるでしょうか。
M&Aの例えばAsset Purchaseでは、当然closing date(譲渡実行日)にはPurchase Priceは確定しません。Closing dateに、Asset & Liabilitiesを譲渡しますが、流動資産・負債はいつも動いていますので、事後的にClosing dateの譲渡資産・負債を確定し事後にAdjustment行います。しかし売主は、やはりClosing dateに譲渡代金を要求しますね。一方買主は、払いすぎるわけにも行きません。お金が一旦売主に払い込めば簡単には戻してもらえない可能性があります。従い、予定譲渡金額が約1億ドルなら5%の5百万ドルをEscrow Agentである銀行に口座を開設して、その口座を通じて事後調整を行う場合があります。このときには、売主・買主間のM&A契約で、Escrow Agreement(買収契約本文で明記して、Exhibitとして添付)規定する場合が多いです。
例が多いのが不動産取引ですね。日本でも、更地にしてから購入するという条件がある場合には、譲渡の実行が先になります。売主としては更地にしたけど、買主がもうやめたでは「どういうことか!」となりますので、大きな取引には時々利用されます。大きな取引に限られているのはEscrow Agent(信託銀行)の手数料・費用が結構高いからです。50億円の取引なら、下手をすると1000万円ぐらいはかかります。これには銀行の手数料に加えて、土地取引の内容を弁護士がチェックする、そういった費用もかかるからですね。英米では、売主は不動産権利証(title deed)を、買主側は購入代金+諸経費をEscrow Agent(銀行)に預託して、条件が成就したときに、銀行が権利証と代金・諸経費の引渡しを同時履行する内容のEscrow契約を結びます。
3.その他の例としては、穀物の売主が買主に穀物を収穫時期が来たら引き渡すと いう契約で、買主が売主に、穀物栽培・成育代金を融資する場合などにもEscrowが使われます。
Escrow Agreementの内容
Escrow契約の内容を見てみましょう。契約の構成は、①銀行のEscrowの標準約款(Escrow Agreementの内容)、と② 当該案件用のEscrow Agreementです。売買当事者と銀行間の3社契約で、Agreementだけの場合と、覚書+取引保全信託契約証書の2つの内容の契約を結ぶ場合があるようです。①の標準約款の内容はカットして、②の主な内容です。
契約の内容:
・買主は、委託者&収益受益者であり、売主が元本受益者、銀行が受託者ですね。元本が引渡予定金額ですね。預金ですから利息が生じますが、利息まで相手に渡しては払いすぎになるので、その部分は委託者が収益の受益者になります。
・銀行で口座を開設する(既にその銀行に口座を持っている場合が多いので、その口座から、新規に開設するEscrow口座に代金を振り替えする場合が多い)
・銀行に信託報酬を払いますので、その信託報酬の計算方法の規定。
・条件が成就したとき等の銀行のレポートの送付先・通知先を規定。
・その他の内容は、基本的に全て約款通りとなります。
これぐらいでしょうか。