○ 7月20日の日経新聞には、27日に発足する官民ファンド「産業革新機構」の記事が掲載されています。パナソニックや東京電力など20社あまりの大手企業が総額100億円程度出資する見通しとなったと報じています。成長力の高い企業支援や先端技術開発を後押しする狙いで、純投資として将来のリターンも見込むとの事。
政府の出資規模は820億円であり、発足当初の資本金は1000億円規模。政府は、海外機関投資家の出資も呼びかけ資本金を2000億円規模に積み上げる方針。投資先の企業価値向上で剰余金が増えれば出資比率に応じて利益が配分される。投資先には業種制限はないが、半導体・環境・生命科学など比較的リスクの大きい事業分野を想定しているとの事。
○ 投資の意思決定は、他の投資ファンドの協力姿勢や経営統治といったガイドラインを踏まえ、中立機関である産業革新委員会(委員長:吉川弘之前産業技術総合研究所理事長)が是非を決める。同委員会には、三村新日鐵会長や、企業再生に詳しい学者・弁護士を起用することが固まった。融資については8000億円に上る政府保証がつく(レバレッジ1:4で従来のファンドの考え方)との事。新規事業への投資など、委員会等作って集団無責任の意思決定をするものでも無いですし、重要な事はお金以外にも汗をかく、実際の投資先の事業の育成をするということだと思いますがね。
○ 政府が関与した国家プロジェクト等で、まともに成功したのは、1976年に当事の通産省主導で始まった「超LSI技術研究組合」(リーダー:東京農工大学名誉教授 垂井康夫氏)だけだったというのが私の理解です。この成果で80年代日本の半導体業界は大躍進をとげました。だが残念ながら、その後90年代に韓国・台湾に追い越されました。
○ 政府が民間に補助金などを出して支援している事業は山ほどあります。しかし、研究所の自己満足の成果は少し出ていると思いますが、世の中の人に役立つ、即ち世の中の人がお金を出して購入して満足する技術がどれだけ出ているのか全く疑問です。
そういった、支援機関の大本が、産業技術総合研究所(産総研)、科学技術振興機構(JST)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、情報処理推進機構(IPA)等ですね。これら独立行政法人には、民間企業に出向者を要請し受け入れています。即ち既に多くの官民プロジェクトが実行されてきているのですが、成果はあまり聞きません。
○ 例えば、IPAを取り上げてみましょう。前身は「特別認可法人 情報処理振興事業協会」であり、出資金の大半は経済産業省が出していました。これが、H16.1.5に組織変更され現在のIPA=独立行政法人情報処理推進機構になっています。現在の理事長は、元NEC社長の西垣浩司氏ですね、その前は、通産省出身(民間企業の経験もありますが)の藤原 武平太氏でした。
IPAのH20.3の連結BSの純資産は、資本金359億円、資本剰余金△2億円、連結剰余金△9億円、少数株主持分3億円、評価差額4億円で、純資産356億円となっています。これだけ見るとそれ程悪い数字ではありませんね。
http://www.ipa.go.jp/about/ipajoho/pdf/2007_cost.pdf
しかし、こんなのは大きな嘘です。情報処理振興事業協会をIPAに組織変更するときに、2416億円の赤字を消しています。そのときの政府出資は3226億円、IPA発足時の政府出資は810億円です。この810億円もIPAを作るために増やした筈です。確かその前は、政府出資約2500億円で赤字が2400億円ぐらいだった筈です。IPAのH15事業年度の財務諸表がWEBに掲載されていますので、ご覧下さい。
http://www.ipa.go.jp/about/ipajoho/pdf/H15-financial_statements.pdf
これによれば、H16.1.4現在の資本金は3328億円、欠損金は2845億円(純資産479億円)となっています。
○ 独立行政法人の補助金は、個人に近い企業(なかには個人にも)、ベンチャー企業も利用しますが、大企業又はそのグループ企業も利用しています。申請書には、革新性・先端技術である旨唄っています。それの成果がこれです。
○ 学者や一部の(研究所で閉じこもって研究している現場に居ない)技術者は、実際に世の中に役立つ技術は何かなどわかりません。技術評論で生活している人です。また、事業再生に詳しい弁護士は、再生屋であって事業家ではありません。
○ 政府は、またIPAみたいな補助金交付機関を作る気ですか?形態は出資というだけで何も変わりません。過去の政府主導プロジェクトの反省・問題点・あるべき姿、お金の使い方を再検討しましたか?何かの不祥事があれば、政府等は再発防止策の提示を求めます。こんな組織を立ち上げる前に、政府は、プロジェクト失敗防止策を公表すべきではないでしょうか!!