まさるのビジネス雑記帳

勉強ノート代わりに書いています。

日米のM&A契約書の比較

2015-10-22 21:56:49 | M&A
○ 昔は、日本の合併契約、株式取得契約、事業譲渡契約は、せいぜい3-4ページぐらいでしたね。それでも、お互いの信頼関係のもと、それ程の支障もなく実行できていました。しかし、最近は米国などの影響を受けた詳細なM&A契約を見ることが多くなりました。投資契約でも10-20ページ、事業譲渡契約では多くの別紙を添付して50-100ページになるものまであります。これは、大手の法律事務所などで若手の弁護士を米国などのLaw School等に研修に出し、New York州弁護士などの資格を取得して帰国した人が、米国の契約を真似るからですね。そういう弁護士さんの得意分野を見るとM&Aなどと書いています。ということで、今回は、そういった弁護士さんがドラフトした契約の一部の条項を抜粋してみましょう。

○ 事業譲渡契約で、事業譲渡に伴い、お客様との契約の承継について、クロージングの前までに、一定割合のお客さんから契約上の地位の承継の承諾等をとることにしている契約がありました。これは当然ですね、しかしその他の前提条件を見てみると、以下のような米国の株式取得や事業譲渡契約では一般的に記載されますが、日本では不要と思われるものもいろいろ記載されていました。
① クロージング日に譲渡企業の登記簿謄本(資格証明)・印鑑証明の提出。(これって日本で意味あることだと思いますか?既にM&A契約には代表者が記名捺印して、それに従って、クロージングの準備をしているのにですね。ですからDefinitive Agreementの締結の時に取得しておけばいいんじゃないでしょうか?)
② 表明・保証事項として、日本法に準拠して有効に設立され、適法に存続して、事業を行うために必要な権限・権能を有していること。(当然の前提ですね
③ 取締役会の授権をされていること。(日本では代表者が記名・捺印していますから、ここまで書かなくても無効になることはあまりないですね。別にこれぐらいは記載してもいいですけどね。合併契約では総会承認が必要ですから、その旨は記載するのは当然だと思いますが。)
④ 契約は強制執行可能であること。(当たり前でしょ。これは書かなくてもいいでしょう)
⑤ 事業を行うに必要な許認可を得ていること。(事業譲渡契約で、承継されない許認可まで記載していました。なぜ書くのでしょうか)
(事業譲渡なのに)偶発債務・簿外債務のないこと。
⑦ 承継対象契約は、有効で拘束力のあること。(契約がきちんと締結されておれば当たり前ですね)
⑧ アドバイザーへの支払い義務のないこと。(米国のM&A契約にはよく記載ある条項ですね。日本のM&A契約で記載する必要あるでしょうか?ないでしょ。)
⑨ 法的倒産手続きの不存在。(会社見ればわかるでしょ。事業やっているのに。)
  
○ 米国のM&A契約では、定義をきちんと書きますね。本文中の定義についても、それを引用する形で定義の条文に書くことも多いですね。ある契約を見たら、「クロージング」とは、第xx条に定義される意味を有する。(その契約書では、こういった定義が3ページにわたって記載がありました。米国式M&Aに慣れた人は、契約書を読みにくくする術にたけていますね)。不要なことが多く記載されていることも多いですね。

○ ある株式譲渡契約では、こんな規定がありました。「本契約の条項がいずれも無効又は違法とされていないこと。」これを書いた弁護士は、この契約の条項が無効になるか違法であるか分からないのですかね。そういえば、公取の事業譲受届出書について、事業譲渡人の義務にしていた契約書もありました。独禁法は市場集中のチェックのための届出ですので、両社の協力で届出書の準備をしますが、譲受人側の義務ですね。M&A専門とか書いてあった弁護士さんでも羊頭狗肉の人もいますね。

○ その他、M&Aの承認をした総会・取締役の原本証明付き議事録の写しを提出しろとか、昔の日本のM&A契約では考えられない条項をふんだんに入れた契約を見るようになりました。

○ 日本の弁護士さんも、米国で勉強されて米国で一般的な書き方で日本のM&A契約を書かれるようになりました。ご苦労さんな話というか、どうでもよい条項を山ほど書いて、弁護士同士で重箱の隅のやり取りを一杯して、ちゃりんちゃりんとお金を取っている感じですね。

・米国の契約書を勉強した弁護士は、狩猟民族(獲物を食べつくしたら次の獲物を探す)の米国の敵対的で自己だけが非常に有利な条項を一杯記載したドラフトを出発点として、相手に提示して交渉を開始することもあります。最近のファンドの投資契約などにも当てはまりますね。日本は、田んぼの水は隣の田んぼに流す。収穫の時は一緒に手伝う農耕民族です。これが1億3千万人の人が、助け合って食っていく日本の基本原理です。

相手の事情を35%、自分に有利な部分は65%ぐらいの力関係の契約書ドラフトを相手に提示するのが、日本のビジネスの健全な常識ではないでしょうか。



契約書の限界

2015-10-13 23:19:44 | 商事法務
○ 今回は、契約書の限界について書いてみましょう。具体的には、①関係者は契約書をまともに読まない。②契約を詳細に規定しても、重箱の隅の規定が多すぎて、ポイントがわからない。特に、英文の買収契約などは、50-100pagesも記載しても意味ある条項は、せいぜい1/5ぐらい。③契約書を、実務に落とすには、現場の人がわかる手順書等を記載しないと、地に足のついた契約の実行に繋がらない。契約書にきちんと記載すれば、それがスムーズに実行されると考えているお目出たい人も結構いますね。④契約書の内容は忘れてしまう。-ぐらいでしょうか。

 関係者は契約書をまともに読まない:例えば合弁契約書で、取締役会や株主総会で、法定の決議要件を超える条件を入れるときがあります。担当者なり責任者なりが、一度読んでも実際合弁会社に派遣される経営執行者は別の人だったりします。まじめな人なら読むかもしれませんが、一般的には、経営者はそんな余裕がありません。従い、重要事項を記載した契約書のサマリーを誰かが作成して、経営者はそれを読めば、合弁会社を運用できるようにしないといけません。
・英国法系の会社法ではSecretaryという、有資格者の機関を置くことが一般的ですから、Secretaryが、きちんと読んで会社法等所定の事項(Registrar of companiesへの届出事項)を行います。
・合弁契約などの重要契約を、きちんと読んで、その通り実行・推進する経営者を補佐する人が必要です。取締役会の開催(3月に1回以上とか、国によっては、まだ現実に開催する必要がある等) 等も、経営者にremindしてやらせることが必要ですね。

② 契約を詳細に規定しても、重箱の隅の規定が多すぎて、ポイントがわからない。:米国の買収契約、特にAsset Transferの契約では、日本と異なり譲渡しない資産・負債を詳細に規定します。日本の場合は、譲渡する資産・負債を簡単に記載します。真水の部分はのれんの分ですから、それ以外は行ってこいのぶんですね。
・ところが、最近は米国で勉強して帰国した若い弁護士さんは、米国の買収契約の和訳的な契約を作成します。逆の立場なら絶対受けられない条項を入れてきます。米国は騎馬民族ですから、相手を食べつくして餌がなくなったら、餌を求めて次に行きます。日本は、農耕民族ですから、自分の田んぼに水を引き込んでも、次の田んぼに水を行くようにしないといけません。農作業も助け合いです。これが、日本で1億3千万人が生きていく基本原理です。相手の立場を3-4割は考えて契約書をドラフトするのが当然と、私は思っていたのですが、そういう美風を忘れた弁護士が増えており、しかもなかなか譲歩もせず膨大な労力と交渉時間が必要な契約が増えているのは嘆かわしいですね。

③ 契約書を実務に落とすには、現場の人がわかる手順書等を記載:OEMとか製造委託とかの契約書で詳細を決めても、実際作業を行う人が契約書を読みますか?そんなことありえないですよね。契約書に記載していることを実際の作業に組み入れるには、作業手順書・マニュアルなどにして、現場に落とし、日常作業に組み入れることが重要です。

④ 契約書の内容は忘れてしまう:上記③のように、現場の作業に組み入れられればいいのですが、契約書に何が書いてあるか等覚えていますか?きちんと覚えている人などいません。私は、結構契約書を作ることが多いのですが、過去に作成した契約のデータベースを持っていますから、契約書は、「copy & paste」で作成しています。従って、昨日作成した契約書の内容もあまり覚えていません。契約書を書いている人で、それぐらいですから、読んで理解して、きちんと覚えている人は、殆どいないのではないでしょうか。

まあ、これぐらいが契約書の限界でしょうか・