まさるのビジネス雑記帳

勉強ノート代わりに書いています。

監査役と監査委員の任期

2008-08-26 11:46:38 | 商事法務

     公開会社の監査役と委員会設置会社の監査委員の任期についてです。監査役の任期については2001年の商法改正で3年から4年に延長され、20055月から施行されましたね(336)。取締役の任期については2年ですが、定款・総会決議で短縮できますが(3321項)、監査役についてはできませんね。これは独立性を保障するためであるとされています(神田 会社法 7 P167等)一方、委員会設置会社の取締役で監査委員会の監査委員の任期は1年ですね(3323)委員会設置会社の取締役の任期1年の説明は、機動的な業務執行のため執行役が広い権限を持つことに対応し、執行役を監督すべき取締役(特に監査委員会の監査委員)の腕が鈍らないようにするとともに、執行役を直接コントロールできない株主からの信任を確かなものにしておこうとする為である等と説明されています。

     まったく考え方が整理されていないというか、どういうことなんですかね。監査委員は1年、監査役は4年というのは?

 監査委員は、腕を鈍らないようにする為1年という説明ですが、監査役の4年だと、もう惰性で役立たずということになる場合もあるでしょう?まあ、実態はそれに近い企業も多いと思いますが。新任で張り切って監査役に就任した人が、老獪な経営者に丸め込まれて癒着するとか、前年どおり行えばよいと考える場合もありますね。任期が長くなることによって独立性が保障されるということはありません。4年の長さと独立性の関係について、何の説得力ある説明も根拠も示されていません。法務省の立案担当者や学者は、どのように考えているのでしょう? 納得できる説明をしてほしいですね。

 監査委員に独立性は要求されないのでしょうか?そんなことないですよね。監査委員の独立性確保の為に資格要件が強化されています。即ち、監査委員は、その会社の執行役・従業員を兼務出来ませんし、また子会社の執行役・代表取締役・業務担当取締役・会計参与・従業員を兼務とすることもできません。また、監査委員会は(&他の2つの委員会も同じ)取締役会の内部組織ですが、委員会の決定を取締役会が覆すこともできません。独立性を確保しようとしていますね。

 委員会設置会社を日本に導入する場合、望ましい導入の思想と考え方、現行の制度との整合性も取って検討の上導入すべきでしたね。しかし現実は考え方も確立せず、形だけ米国の制度を猿真似したものです。考え・理屈がちぐはぐで監査役制度との矛盾もでていますね。

     監査役制度は、試行錯誤の繰り返しでしたね。当初はドイツの制度を導入しました。そのなごりですが、ドイツのように取締役会の上部機関として監査役会を置くというふうには発展しませんでした。経理の専門家でもない監査役に会計監査権限を与えていましたが、1974年の商法改正で、会計監査権限に加えて業務監査権限を与えて、1年の任期を2年に延長しました。また、会計監査人監査を導入しました。その後大会社については、1981年に監査役を2人以上に増員しましたね。1993年の商法改正では、社外監査役制度を導入して、併せて監査役会を設置して3人以上として任期を3年にしました。2001年には、社外監査役の資格要件を強化するとともに、監査役会に他の監査役選任の同意権を与え、社外監査役を半数以上(過半数ではない)とし任期を4年としました。任期については、1年、2年、3年、4年と延ばしてきたわけですね。これで機能強化はされたのでしょうか?なかなか理解できない改正ですね。小手先遊びの感じです。

     監査役4年の任期というのは長いですね。社外監査役重視もおかしな話です。社外監査役にとっては、取締役・従業員が、どのように悪さをするかなど4年勤めても分かりません。業務に精通していないと、どこでどういう操作をして誤魔化すかもわかりません。また、大企業では、子会社の監査役は、親会社の従業員が就任するケースも多いですね。4年間に人事異動で、任期途中で監査役が辞任というケースも多発していると思います。

     機能しない現状を踏まえどうすればいいかですが、以下ぐらいのことは行ってもよいのではないでしょうか。

     最低4年ではなく、やはり定款・総会決議で期間の短縮できるようにすべきでしょうね。

     株主へのアカウンタビリティーという視点で言えば、事業報告書の最後に1枚だけ添付する監査報告書ではなく、もっと詳細な監査報告書を株主へ開示・提供する必要があると思います。詳細な監査報告書作成を義務づければ、もう少しきちんと働くのではないでしょうか。(株主総会の冒頭で、問題ありませんと言うだけでは、働いている姿を株主に見せた事にはなりません)

     後継の監査役の指名権は、監査役が保持する(今のような同意権ではなく)とか、取締役の指名権は、監査役の半数に限るとかする。残り半分は、その会社の従業員OB等の立候補制にして総会で選任するとか、株主が直接指名するとか、大胆に指名・選出を変更しては如何でしょうか。

○ 私は、法務省・学者(法制審議会委員)等が、機能しないことを承知しながら監査役制度を何十年も放置して、目くらましの小手先改革に終始してきたと思っています。怠慢です。大胆な改革をする発想・意欲と実行力を発揮する事を官僚機構に期待するのは難しいのかもしれませんが、もう少し思い切った制度改革をしてほしいですね。

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企業価値と株主共同の利益の一致と対立

2008-08-20 09:55:41 | 企業一般

     企業価値研究会の報告書では、「企業価値=株主共同の利益の確保又は向上」を同じ意味として捉えています。研究会での議論の中身、議事要旨等は知りませんし、また読んでいません。多くの企業が買収防衛策を導入する際に、守り向上を計るべき自社の企業価値とは何か、また守るべき株主共同の利益とは何かを十分検討することもなく、報告書の言葉を安易・単純に引用して防衛策を導入しているのではないでしょうか。

研究会は、報告書での重要な概念であるこれらの言葉をどれだけ吟味・考察・検討したのかはなはだ疑問であり、また、ろくに定義もされていない言葉を使う方も使う方だと思いますね。一応、企業価値とは「企業が生み出すキャッシュフローの割引現在価値」を想定とは言っていますが、「株主共同の利益」の定義はありません。

     日本の企業の場合は、従業員出身の会長・社長等が人事権を握り、役員の指名を行います。株主が指名しているわけではありません。勿論株主総会で選任されていますが、これは物言わぬ株主が形式的に選任しているだけの場合が多いですから、企業が買収の脅威にさらされたときには、取締役が保身に走る事が考えられます。日本の場合は、辞めるときにがっぽりお金を貰えるGolden Parachuteも一般的ではありません。従い、企業価値研究会が打ち出した8つの取締役(会)の行動規範は、多少の意味もあるとは思います。しかし、企業価値とは何か、守るべき価値とは何か、その企業価値と株主共同の利益は一致するのかそれとも対立する事があるのかが相変わらずはっきりしませんね。

     企業価値を考える場合に、非常に参考となる企業があります。ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)ですね。同社のコアバリューは、「我が信条(Our Credo)」↓です。

http://www.jnj.co.jp/group/community/credo/index.html

我が信条では、4つの事を言っています。①お客さんがあって始めて企業が成り立つ、②そのお客さんに役立つ製品・サービスの提供は、尊厳と価値が認められ、公正・適切に処遇された従業員が業務を適正に推進することにより成り立つ、③そしてこれが企業の社会への貢献であり、この貢献を継続出来るように企業が経営されて始めて、④株主は報酬を受けることが出来るとしています。④については、以下のように述べています。「事業は健全な利益を生まなければならない。我々は新しい考えを試みなければならない。研究開発は継続され、革新的な企画は開発され、失敗は償わなければならない。新しい設備を購入し、新しい施設を整備し、新しい製品を市場に導入しなければならない。逆境の時に備えて蓄積を行なわなければならない。これらすべての原則が実行されてはじめて、株主は正当な報酬を享受することができるものと確信する。

     J&Jのような企業にとっては、我が信条を脅かす脅威に対して当然企業防衛策の発動が正当化されますし、これが株主の利益になると思われます。J&Jの株主総会ではいつも「我が信条」を説明しているようです。株主もそれを十分理解しています。企業価値と株主共同の利益が一致している企業だと思います。従い、役員も、自らの保身という低レベルの話は出せません。取締役会は、買収の脅威にどう対処すべきか、こういった企業にとっては、企業価値研究会の報告書など参照する必要もないでしょう。しかし、残念ながらJ&Jのような哲学を確立している企業は、あまり多くないのではないでしょうか。

     企業価値とは、その会社の価値です。株主共同の利益とは株主の利益です。対象が違います。企業価値とは、キャッシュフローの割引現在価値等といっていますが、どれだけの期間のキャッシュフローなのでしょうか?5年間、10年間?あるいは、DCFTV(Terminal Value)計算では、Perpetual Baseなどという、あり得ない前提を置いたりします。510年後のキャッシュフロー等数字遊びの世界です。10年も先の事業計画など策定している企業がどれだけありますか?またそんな事業計画が、その通り実現する企業がどれだけありますか?こんな空理空論の世界はありません。企業価値とは、現在のその企業の生み出す付加価値だと思いますね。その通りになりもしない将来キャッシュフローの割引現在価値がどうして現在のその企業の企業価値なのでしょうか?

     企業価値と株主の利益は一致しないこともあります。経営陣が新規事業に乗り出したり、新規設備の大規模投資をする場合、株主としてはそういった事業が成功するかわかりません。また、株主は絶えず変わります。現在の株主が、経営陣の経営をサポートしても、株主が変われば、自己株式取得&消却、あるいは増配を要求する声が大きくなるかもしれません。即ち、株主の中には企業の長期的発展を支持する者もいると思いますが、それよりも目先の増配を要求する人もいます。株主共同の利益等と言っていますが、共同の利益とは何ですか?実態は多数派株主が少数派株主の意見・利益を無視して、自分たちの判断を多数決で可決できれば、これで決まります。少数株主は、お金をやるから出て行けということです。これは株主共同の利益ではなく、多数派株主の利益ということですね。

     企業価値とか株主共同の利益とは何か、本来個々の企業の役職員がきちんと考えるべきものだと思います。

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社外取締役の忠実義務・利益相反取引

2008-08-13 15:24:40 | 商事法務

     会社と取締役との法律関係は委任の規定が適用されますね(会社法330)。従い、取締役が取締役会の構成員として職務を行う場合は、民法644条の善管注意義務を負います。また、取締役には忠実義務があります(355)。これは自己または第三者の利益を会社の利益よりも上位においてはならないとする義務であると解されています。最高裁の判例では(最大判S.45.6.24 民集24-6-625)、「忠実義務は、民法644条に定める善管義務を敷衍し、かつ一層明確にしたにとどまり、通常の委任関係に伴う善管義務とは別個の高度な義務を規定したものではない」としています。

     善管注意義務・忠実義務は取締役の一般的な義務であり、この一般的な義務から具体的な義務が生まれ、それには(1)監視義務と(大会社の場合はMUST)内部統制構築義務(36246)(2)特別の規制として取締役会の事前承認を求める①競業取引②利益相反取引や、定款・総会決議で少なくとも総額を決める③取締役の報酬の規制がありますね(356/361/365条)。競業取引・利益相反取承認の取締役会決議には、利害関係を有する取締役は決議に加わることが出来ませんね。

     利益相反取引の規制の趣旨からいって、取締役会承認の必要な取引は、裁量によって会社の利益を害する恐れのある行為に限られるべきである。従い、普通取引約款による契約など、性質上利益相反の恐れがない行為は含まれないと解されています。まあ取引約款による契約で、取締役会承認を要する取引というのはあまりないですけれどもね。日本ではMUSTではありませんが、海外では銀行取引を取締役会承認が必要としている国もありますので、あえて言いますと銀行取引約定書を銀行と締結する場合ぐらいでしょうか。

     ここでの問題です。例えば、社外取締役の本業は商社の代表取締役で、取引関係を構築・円満に拡大するために、メーカの非常勤社外取締役に就任しているケースがあります。商社が、輸入食料を食品メーカに売ったり、メーカの機器を商社が輸出したりする場合ですね。売主と買主ですから当然利益は相反します。しかし、定常的な業務は取締役会の決議事項ではありません。つまり利益相反取引は、社外取締役の派遣元企業と当該企業で結構行われているということですね。

     社外取締役は、当然本業の企業の利益を優先します。派遣元企業の利益を派遣先企業の利益よりも上位において考えます。忙しければ当然本業の業務を優先しますし、派遣先企業の取締役会に出ても、事前配布資料もきちんと読まない・読む時間もない、せいぜい適当なコメントでお茶を濁し、しばしば欠席する場合も多いです。これで忠実義務を果たしているのですか? 社外取締役の忠実義務・利益相反取引についてどのように考えれば良いのでしょう。

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持株比率に応じた取締役の指名―累積投票の復活

2008-08-06 11:08:08 | 商事法務

     会社法342条では、累積投票による取締役選任の規定があります。即ち、「株主総会の目的である事項が二人以上の取締役の選任である場合には、株主は、定款に別段の定めがあるときを除き、株式会社に対し、第3項から第5項までに規定するところにより取締役を選任すべきことを請求することができる。」と規定しています。しかし、大半の会社は、定款で累積投票を排除しています。累積投票の制度は、S.25年に米国の例にならい導入されましたが、経済界の圧力等に屈して、S.49年の商法改正で排除を認めることになりましたね。

     持株比率に応じて役員を指名出来また選任できるというのが常識だと思うのですが、日本では人事権を握っている、会長や社長がこの原則を無視しています。日本の経営者は器量がいまいちの人が多い(?)のかも知れませんし、あるいはよく言えば自分の経営戦略に忠実に従う人を好むと言いますか、素直というかイエスマンというか、そういった人を取締役として指名して、総会で選任してもらっている例がありますね。

     取締役会というのは、取締役会で議論を尽くして相互牽制を働かして業務を決定するというのが本旨ですね。儀式、形式的決議の場ではないですね。取締役会にて相互監督(監督権能)等の監督体制を整備することを狙っているとか学者は言っていますが、現実はそうはなっていませんね。しかし、昨今ガバナンスとか外部の客観的で公正な意見を表明する社外取締役が必要ということで、社外取締役の選任が多くなっています。しかし、これまた取引先の役員を選任して、独立取締役からはほど遠い人を選んでいる例が多いと思います。712日の日経新聞では、「低出席率」の社外取締役と題して記事が掲載されています。ヤクルトのエマニュエル・ファベール取締役は、出席率0%と記載されていますね。これで取締役なんですかね?ひどいですね。

     社外取締役を選任して取締役会を活性化しようということが言われていますが、活性化のポーズが多いのではないでしょうか。真剣・本気で活性化を目指すのなら、経団連等が圧力をかけても、累積投票の排除を禁止すべきでしょうね。今の法務省や学者は、経済界よりですから、(まあ学者の中には企業の顧問などしてお金を貰っている人もいるようですので)そんな改正を行うことは考えられないですけどね。

     例えば楽天(楽天ストラテジックパートナーズの3.35%を含む)は東京放送(TBS)19.84%の株主ですが、楽天が指名した取締役はTBSにはいません。いくら投資したのでしょうかね。1500億円ぐらいでしょうか? 社外取締役としては、毎日放送山本会長(取締役会出席率46%)・電通俣木会長(62%)・毎日新聞北村社長(77%)・三井物産槍田社長(70%)が就任しています。「それぞれ豊富な経験・知見を有する企業経営者としての観点等から、当社の業務執行者から独立した立場で適宜発言しています」と事業報告書に記載されていますが、どんな発言をしているのでしょうね。こんな記載では、どうでもよいコメントをたまにしたぐらいしかイメージできませんね。712日の日経新聞では、低出席率の社外役員も、「取締役会以外でも助言をいただいており、問題はない」(日清食品)とか書いていますが、こんな見え透いた事など信用出来ませんね。

     東京放送の取締役は15名います。15x19.84%=2.98ですから、累積投票で取締役を選任すれば、3名は楽天の指名する取締役が就任するわけですね。3名では議決に影響を与えませんが、取締役会は当然緊張しますし、真剣な議論の場になります。活性化します。ろくに出席しない、あるいは事務当局が事前に配布した資料などまるで読まない、役立たない、居眠りをしてても影響の無い社外取締役がいてもしょうがないのではないでしょうか?

     342条から「定款に別段の定めがあるときを除き、」を削除できないなら、せめて最後に、「定款に別段の定めがあるときといえども、議決権の1/6以上を有する株主より請求されたときは、3項から第5項までに規定するところにより(累積投票により)取締役を選任すべきことを請求することができる。」ぐらいに変更してほしいですね。16.7%も保有していては、当然ある程度経営に影響を与える立場を確保したいですよね。

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企業価値研究会の「買収防衛の在り方」について

2008-08-01 17:44:12 | 企業一般

     2008630日に、経済産業省の企業価値研究会が、「近時の諸環境の変化を踏まえた買収防衛策の在り方」という報告書を公表しました。経済産業省・法務省が2005527日に公表した「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」(以下「指針」)を踏まえて、500社を超える企業が買収防衛策を導入した実態とこれまでの裁判例を踏まえて、合理的な買収防衛策の在り方を探ろうとしたものですね。

     優秀な研究会メンバーの人たちが議論した割には、結局最大公約数の意見をまとめた感じで、深みの無い物足りなさを感じざるを得ない内容だと思います。主な内容としては、(1)八項目にわたる取締役(会)の行動規範(2)買収防衛策の発動が許容される場合として、濫用的買収と株主共同の利益を毀損するという実質判断に基づき、その必要性と相当性の要件を満たした場合を挙げています。また、プロセスを守らない買収者には、金員等を交付する必要はないとまで言っています。

     (1)については、取締役は保身を図ることなく、株主共同の利益のために、買収者に嫌がらせや邪魔をせずに真摯に検討すべしと言っています。同床異夢の株主、買収者という株主の利益を犠牲にするにもかかわらず、相変わらず「株主共同の利益」という言葉を使っています。「(社会に貢献する)企業の健全な成長」と言う方が正しいと思うのですか如何でしょうか。

     (2)については、プロセスを守らない買収者に金員を交付する必要は無いと言っています。これは言い過ぎで、感情論・勧善懲悪論ですね。別に買収者は違法な事をしたわけでもありません。買収者が収益を得るような金員等の交付は、確かに指摘のように買収防衛策の発動を誘発し、予定外のキャッシュアウトということで、企業の健全な成長を阻害する可能性がありますが、買収者の投下資本の回収ぐらいは何らかの方法で確保してあげないといけないですね。ブルドックの最高裁決定でも、「買収者を差別的に取り扱ったとしても、当該取扱が衡平の理念に反し、相当性を欠くものでない限り、株主平等原則の趣旨に反するものということはできない」と言っています。金員を交付されないと、買収者は多額の損失を負いますし、相当性を欠くものだと思いますね。

     その他、報告書についての疑問点をまとめて見ましょう。

1)      米国のライツプラン型(事前新株予約権交付で、買収者登場の際に買収者以外に株式を発行する)買収防衛策では、実際に発動されるというよりも、株主の判断の為に、被買収者の経営者(取締役会)が買収条件の改善・向上のため、買収者と交渉するための道具として利用されていると記載されています。これには重要な事実が開示されていません。被買収企業の経営者は、買収条件の向上、つまり買収価格の引き上げを目指しますが、株主のためという表の理由の他に、一般的には自分のストックオプション等によりがっぽり(何千万ドルになる場合もある)退職慰労金を貰えるGolden Parachuteがあるからですね。株主も儲かるけれども自分が一番儲かるわけですね。保身はいけないなどと言われていますが、米国ではしっかり退任する経営陣は私腹を肥やせる訳です。日本の経営者は保身すべきでは無いというのは「べき論」であり、やはり貢献度に応じた退職慰労金はやむを得ないでしょう。こういった点も報告書では触れてほしいですね。

2)      報告書では取締役会の行動規範として、「買収提案が株主共同の利益に資するものとなる可能性があるときは、買収条件の改善に向けて買収者との交渉を真摯に行わなければならない」としています。条件改善すなわち、TOB等の価格引き上げですね。中長期的に会社がどうなろうと、この際株式を買収者に売り飛ばして逃げるのが株主共同の利益ですというわけですね。買収者は、対象会社の資産を担保に借り入れしたり(LBO)して、対象会社の資産を毀損しますね。条件の改善は、株主に対するものであり、会社に対するものではありません。LBOのときは会社を借金漬けにする可能性があります。すなわち、企業価値を毀損する場合もあるということです。企業価値と株主共同の利益は、衝突する・相対立するときがあるということです。そういったことは報告書では分析されていないですね。

3)      「少数株主が残存しない100%現金買収の場合は、買収者が買収後の詳細な経営計画・見通しや業績予想までを開示する必要はないと考えられる」と記載されています。どうしてこんな視野の狭いことを言うのでしょうね。会社は、株主のものでもありますが、同時に従業員・取引先その他のステークホルダーのものです(法律論では無いですが)。まあ、インサイダーでもない買収者が経営計画・業績予想等公表しても、その通りに進むことなど常識的にはありえないですけどね。従い、株主はこの際株式を売却するのはいいですが、少なくともステークホルダーに大きな影響がありますね。きちんと開示する義務はあると思います。

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