○ 公開会社の監査役と委員会設置会社の監査委員の任期についてです。監査役の任期については2001年の商法改正で3年から4年に延長され、2005年5月から施行されましたね(336条)。取締役の任期については2年ですが、定款・総会決議で短縮できますが(332条1項)、監査役についてはできませんね。これは独立性を保障するためであるとされています(神田 会社法 第7版 P167等)。一方、委員会設置会社の取締役で監査委員会の監査委員の任期は1年ですね(332条3項)。委員会設置会社の取締役の任期1年の説明は、機動的な業務執行のため執行役が広い権限を持つことに対応し、執行役を監督すべき取締役(特に監査委員会の監査委員)の腕が鈍らないようにするとともに、執行役を直接コントロールできない株主からの信任を確かなものにしておこうとする為である等と説明されています。
○ まったく考え方が整理されていないというか、どういうことなんですかね。監査委員は1年、監査役は4年というのは?
― 監査委員は、腕を鈍らないようにする為1年という説明ですが、監査役の4年だと、もう惰性で役立たずということになる場合もあるでしょう?まあ、実態はそれに近い企業も多いと思いますが。新任で張り切って監査役に就任した人が、老獪な経営者に丸め込まれて癒着するとか、前年どおり行えばよいと考える場合もありますね。任期が長くなることによって独立性が保障されるということはありません。4年の長さと独立性の関係について、何の説得力ある説明も根拠も示されていません。法務省の立案担当者や学者は、どのように考えているのでしょう? 納得できる説明をしてほしいですね。
― 監査委員に独立性は要求されないのでしょうか?そんなことないですよね。監査委員の独立性確保の為に資格要件が強化されています。即ち、監査委員は、その会社の執行役・従業員を兼務出来ませんし、また子会社の執行役・代表取締役・業務担当取締役・会計参与・従業員を兼務とすることもできません。また、監査委員会は(&他の2つの委員会も同じ)取締役会の内部組織ですが、委員会の決定を取締役会が覆すこともできません。独立性を確保しようとしていますね。
― 委員会設置会社を日本に導入する場合、望ましい導入の思想と考え方、現行の制度との整合性も取って検討の上導入すべきでしたね。しかし現実は考え方も確立せず、形だけ米国の制度を猿真似したものです。考え・理屈がちぐはぐで監査役制度との矛盾もでていますね。
○ 監査役制度は、試行錯誤の繰り返しでしたね。当初はドイツの制度を導入しました。そのなごりですが、ドイツのように取締役会の上部機関として監査役会を置くというふうには発展しませんでした。経理の専門家でもない監査役に会計監査権限を与えていましたが、1974年の商法改正で、会計監査権限に加えて業務監査権限を与えて、1年の任期を2年に延長しました。また、会計監査人監査を導入しました。その後大会社については、1981年に監査役を2人以上に増員しましたね。1993年の商法改正では、社外監査役制度を導入して、併せて監査役会を設置して3人以上として任期を3年にしました。2001年には、社外監査役の資格要件を強化するとともに、監査役会に他の監査役選任の同意権を与え、社外監査役を半数以上(過半数ではない)とし任期を4年としました。任期については、1年、2年、3年、4年と延ばしてきたわけですね。これで機能強化はされたのでしょうか?なかなか理解できない改正ですね。小手先遊びの感じです。
○ 監査役4年の任期というのは長いですね。社外監査役重視もおかしな話です。社外監査役にとっては、取締役・従業員が、どのように悪さをするかなど4年勤めても分かりません。業務に精通していないと、どこでどういう操作をして誤魔化すかもわかりません。また、大企業では、子会社の監査役は、親会社の従業員が就任するケースも多いですね。4年間に人事異動で、任期途中で監査役が辞任というケースも多発していると思います。
○ 機能しない現状を踏まえどうすればいいかですが、以下ぐらいのことは行ってもよいのではないでしょうか。
① 最低4年ではなく、やはり定款・総会決議で期間の短縮できるようにすべきでしょうね。
② 株主へのアカウンタビリティーという視点で言えば、事業報告書の最後に1枚だけ添付する監査報告書ではなく、もっと詳細な監査報告書を株主へ開示・提供する必要があると思います。詳細な監査報告書作成を義務づければ、もう少しきちんと働くのではないでしょうか。(株主総会の冒頭で、問題ありませんと言うだけでは、働いている姿を株主に見せた事にはなりません)
③ 後継の監査役の指名権は、監査役が保持する(今のような同意権ではなく)とか、取締役の指名権は、監査役の半数に限るとかする。残り半分は、その会社の従業員OB等の立候補制にして総会で選任するとか、株主が直接指名するとか、大胆に指名・選出を変更しては如何でしょうか。
○ 私は、法務省・学者(法制審議会委員)等が、機能しないことを承知しながら監査役制度を何十年も放置して、目くらましの小手先改革に終始してきたと思っています。怠慢です。大胆な改革をする発想・意欲と実行力を発揮する事を官僚機構に期待するのは難しいのかもしれませんが、もう少し思い切った制度改革をしてほしいですね。