○ 開業準備行為・設立に関する費用等に関連する規定が会社法28条にあります。定款に記載・記録しないと効力を生じないとして、①現物出資、②財産引受(*)、③発起人の報酬等、④会社の負担する設立に関する費用の四つを規定しています。但し、④では例外を設けています。即ち定款に記載・記録しなくても、定款の認証手数料と施行令5条記載の費用(定款の印紙税・銀行手数料・検査役報酬・登録免許税)は、新会社の費用とすることができます。即ち発起人が負担しても新会社が成立したときに新会社に請求できますね。発起人は、一時的に立替金勘定として処理しますね。
○ まあ、施行令に記載の無い費用でも、実際は新会社に負担させている例がいろいろあるようですね。今回は、そういった点、即ち開業準備行為について述べて見たいと思います。開業準備行為について、会社法では財産引受しか規定がありません。「財産引受以外の開業準備行為」について、会社法は規定していないのですね。開業準備行為は、いろいろあって規定の仕方が難しいからでしょうか?あるいは、新会社成立前のことですから、会社法としてあまり関係がないと考えているのでしょうか。私に言わせれば資本維持の原則にも関連する事項を含んでいると思うのですが。
* 財産引受とは、発起人が新会社の為に、会社成立を条件として特定の財産を譲り受ける旨の契約を言いますね。例えば、「○○株式会社発起人代表XX株式会社」が、新会社が使用するサーバをコンピュータ会社へ発注・売買契約を締結して、その効果を直接新会社に帰属させる場合等ですね。仮に、発起人がお金を支払っても立替金ですね。
○ 開業準備行為と言っても、「費用の発生(費用が主ですね。収益も発生することも例外的にはありますが。法人税基本通達2-6-2(**)の規定では損益を念頭に置いていますね)」と「資産(発起人が製作して新会社に譲渡する場合を含む)の取得」がありますね。資本維持の原則から言えば、発起人からの費用請求について過大・水増し請求をさせない規制が必要だと思いますね。資産取得に関しては法467条1項5号に、「成立後二年以内におけるその成立前から存在する財産であってその事業のために継続して使用するものの取得。」については「事後設立」として、特別決議を求めています。発起人等が新会社に資産を譲渡する場合、水増し・過大請求して、他の株主等の利益を害することを防ぐ為に事後設立の規制(H2=1990~現在の会社法が施行されるまでは、原則検査役の調査が必要でしたね)がありますが、費用の過大請求についての規制はありませんからね。
○ 発起人の行為の効果が成立後の会社に直接帰属するのは、その行為が「設立中の会社の機関」として、「権限の範囲内」でなされた場合に限られますね。「権限の範囲」について、学説の多数と判例(最判S42.9.26民集21巻7号1870頁)では、開業準備行為については、法定の要件を満たした財産引受だけが例外的に発起人の権限に含まれるとしていますね(最判S28.12.3民集7巻12号1299頁)。ですから、その他の行為は「設立中の会社の機関」として行うわけではないですね。
○ 費用の発生と請求:例えばオフィス=本店所在地探しでもいろいろ経費がかかります。不動産屋さんへの媒介手数料、交通費、あるいはその人件費もコストですね。不動産屋さんの媒介手数料を発起人が立て替えて(***)、後から新会社にもたせている例もありますね。印鑑調製費などもそうですね。
→会社成立前に発生している費用を、発起人がいったん支払って、設立後の新会社に請求するわけですね。発起人が立替金勘定を計上して、立替金として新会社に請求するわけではないのですね。自分の会社の費用として処理して、その費用を新会社に請求するわけですね。新会社での帳簿上の負債の発生の認識は、発起人からの請求書の記載日(又は請求書受領日)ですね。実際に費用が発生したときではないですね。
→発起人等はやろうと思えば自分の利益分をたんまり乗せて新会社に請求できますね。それについて、上記の通り会社法ではどのように考えるかですね。
○ 資産の取得:よく起こる例としては、新会社が使用するシステムを、親会社=発起人が事前に開発することがあります。ソフトウェアの会計基準も整備されました。開発要員の労務費等も含めて取得価額として無形固定資産となります。これを事後設立で新会社に譲渡すればいいですね。
** 法人税基本通達2-6-2(法人の設立期間中の損益の帰属):法人の設立期間中に当該設立中の法人について生じた損益は、当該法人のその設立後最初の事業年度の所得の金額の計算に含めて申告することができるものとする。ただし、設立期間がその設立に通常要する期間を超えて長期にわたる場合における当該設立期間中の損益又は当該法人が個人事業を引き継いで設立されたものである場合における当該事業から生じた損益については、この限りでない。
*** オフィス賃貸借契約:発起人が賃貸借契約を締結し、その契約上の地位を譲渡し、併せて保証金等を、新会社が発起人に保証金を返す等を行う場合もありますね。