まさるのビジネス雑記帳

勉強ノート代わりに書いています。

買収契約(株式取得)の概要

2013-09-28 20:53:30 | M&A

 

 企業を買収するときには買収契約書を作成しますね。前回は、その中の重要な規定であるRep. & Warranty (事実の表明と保証)について述べましたが、今回は、買収契約書の全体像の一例を挙げてみましょう。

1 Definitions:定義=Closing等の定義を記載。

2 Interpretation:解釈=Headingや単数形・複数形の解釈を記載。 

3 Assignment of Share:株式譲渡=株式譲渡内容を記載

4 Consideration for Assignment:譲渡価格

5 Conditions to Payment of the Consideration for Assignment:譲渡対価支払の条件 =許認可の手続き完了、Material Adverse Effect等が無い事等。あるいは、closingまでに対象会社で実行しておくべきこと等を記載。<o:p></o:p>

 

6 Representations and Warranties:事実の表明と保証

  Seller’s Representation and Warranties:売主の表明・保証

Buyer’s Representation and Warranties:買主の表明・保証

The Company’s Representations & Warranties 対象会社の表明・保証―株主から発行済株式を譲り受けるだけでなく、対象会社が買収者へ第三者割当を行う場合には、対象会社の表明・保証を入れます。この場合の契約当事者には、対象会社を入れます。また、中国等の有限公司の持分譲渡の申請は当該有限公司であり、有限公司の董事会決議書等も必要ですから、その意味からも当該公司を当事者にする場合があります。

7 Compensation:補償=表明・保証違反の場合の対応

8 Obligations of the Parties until the Closing Dateclosingまでの義務=配当決議等行わない、通常の業務だけ行う等。また許認可取得義務等も規定

9  Obligations of the Parties after the Closing Date:クロージング後の当事者の義務

10 Effectiveness of this Agreement:本契約の効力発生=中国の場合は、契約を締結しても契約そのものの効力が発生しません。許認可が下りた日(=批准証書の発効日)を、本契約の発効日とします。理屈上はおかしいけど、中国の法律でそうなっています。<o:p></o:p>

 

11 Termination of Agreement:本契約終了時の処置=契約違反による契約終了のときの対応を規定

12 Tax:税金=後から税務債務が出てきたときの対応等を規定

13 Force Majeure:不可抗力(一般条項)

14 Publication Confidentiality:公表と守秘義務(一般条項)

15 Prohibitions on Assignment:譲渡禁止(一般条項)<o:p></o:p>

 

16 Amendment of this Agreement:本契約の修正(一般条項)

17 Notice and Communication:通知と通信(一般条項)

18 Severability:分離可能性(一般条項)

19 Governing Law:準拠法(一般条項)対象会社の所在地の法律

20 Other Matters for Agreement:その他(一般条項。完全合意等)<o:p></o:p>

 

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DD(法務だけでなく財務DD等も含む)の結果を踏まえて作成することが重要ですね。新興国の場合は、法令違反等結構出てきますね。現地の企業家保有のときは、見過ごされていた事項でも、外資が株式を購入すると、まあいろいろありますので、そういったことをきちんとやったらclosing=(一般的には)代金支払を行うということにしないとね。

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Dsc00432

 


M&AのRep.& Warranty条項

2013-09-15 12:00:49 | M&A

 

M&Aの株式買収契約では、定義から始まって、取得株式の譲渡・価格、クロージングの条件やクロージングに向けた当事者の行為・協力、誓約事項(Covenants)、補償(Indemnification)条項、税務債務の処理等、いろいろな条項を記載しますが、今回は、その中でも重要な事実の表明と保証(Representations & Warranties)をまとめて見ましょう。売主・買主・対象会社の3社(売主が対象会社について行うのが普通)とも表明・保証を行いますが、買主の表明の一番重要なことは、買収資金がある(これに不安がある場合はEscrow Accountを開設したりしますが、日本の信託銀行は、Cross Boarder案件のEscrowのノウハウはほぼゼロなので、アジアの案件なら香港上海銀行香港等でアレンジできますが、結構手数料が取られます)ということですので、今回はM&Aの買主が売主に、非買収企業(acquired entity)に求める事実の表明と保証をみてみましょう。勿論以下は一例ですので、これ以外の規定もいろいろありますが、典型例と考えていただければと思います。<o:p></o:p>

 

○ REPRESENTATIONS AND WARRANTIES CONCERNING THE ACQUIRED ENTITIES-普通は、30-40ぐらい書きますが、争点になるところ、あるいは重要なのは5-6ぐらいでしょうか。<o:p></o:p>

  ・Seller represents and warrants to Buyer as at the date of this Agreement except as set forth in the Disclosure Letter.というような書き出しですね。<o:p></o:p>

DDで発見したリスク事項は、価格に反映し、当事者が既に認識しているものとして、Disclosure Letter (Disclosure Schedule)として、買収契約の別紙として明記)<o:p></o:p>

短時間の限られたDDでは、リスクが容易にまた全て把握できないので、その部分を表明保証で規定するという位置づけ。<o:p></o:p>

 

  1  Corporate Status ? 適正に設立され、正当に存続している会社である旨記載。

 2 No Violation; Governmental Consents ?買収契約は、他の契約違反にならず、法令を遵守、必要な許認可も不要等と書く。中国やベトナムは、買収契約の効力発生は、当局の許認可なので、少し書き方が違う。  

 3 Brokers' Fees ? 米国ではよく見る条項。Broker, finder等への支払いは無い旨記載。

 4 Capitalization-発行済株式の種類・数等を記載。 

 5 Subsidiaries ? 開示した子会社とその内容は真実正確であるとか、それ以外の子会社等は持っていない等。

 6 Records ?開示された資料は、accurate and complete in all material respects等と記載。 

 7 Financial Statements ?当該国のGAAPに沿って真実・正確等と記載。 

 8 Subsequent Events ? 上記7の基準日以降は、have conducted their business only in the Ordinary Course of Business,であり、 there has not been any Material Adverse Change with respect to any Acquired Entity.等と記載。 

 9 Liabilities-簿外負債の無いこと、開示された以外に担保等に供されているものが無いこと等。

 10 Legal Compliance-法令定款を遵守していること。 

 11 Tax Matters-適正に申告し、BS表示外の税務資産・負債が無いこと。将来追徴されたりしたときにどうするかなどは補償のところに書く場合があります。

  12 Title to Assets ?資産に対する権利は正当に保有していること。

 13 Real Property-適正な登記なり、賃借契約がなされていること。

 14  Intellectual Property ? 自分の知的財産は、きちんとした手続きを経て保有している(申請中も含めて)、あるいは契約をもとに使用権を得ていること。

 15 Tangible Assets ?有形固定資産についても上記と同様。

 16 Inventory-通常業務過程で販売できる在庫を有していること。 

 17 Contracts-開示されたもの以外の重要な契約は無い。 

 18 Receivables-売掛金は回収請求可能であること等。 

 19 Insurance-適正に付保され保険証券も保有していること。 

 20 Litigation-開示されたもの以外の係争案件はないこと。 

 21 Labor; Employees-開示された以外の労働協約は重要な雇用契約はないこと。 

 22  Employment-労働基準法等の法令に基づき行っていること。 

  23 Employee Benefits ?開示したもの以外にはなく、開示したものは適正に実行されていること。  

 24 Pensions-法令あるいは開示した通りのPension Planを実行していること。役員等へのPension Planは開示されたもの以外はないこと。

 25 Environmental Matters-環境関連法を全て遵守していること。 

 26  Customers and Suppliers-開示した重要顧客とは現在取引が継続しており、終了のnotice等を受領していないこと。 

 27 Permits-事業に必要な全ての許認可を得ていること。

28 Foreign Corrupt Practices Act Compliance(FCPA)-役職員はこれを遵守していること。  

 29 Bank Accounts-開示した銀行口座以外に口座をもっていないこと。 

 30 Insolvency ?こういった状態にないこと、また裁判所等の命令もでていないこと。 

 31  Loans to Third Parties ?開示した以外に第三者にローン等を提供していないこと。 

他にも案件によっていろいろ追加したりしますね。疲れますね。

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ノウハウライセンス契約は意味があるのか?

2013-09-01 17:43:31 | 商事法務

 

 契約のサンプルを見ていたらノウハウライセンス契約というのがありました。なんとなく違和感といいますか、そんなライセンス契約がどれだけ有効か疑問が湧きましたので、今回はノウハウライセンス契約の話です。また技術支援契約と書いて、ノウハウをライセンスしている例もあると思います。昔、知的財産のライセンス契約で、「特許権・意匠権・商標権及びノウハウ」等と自分でも言葉を並べて契約を結んだこともありますし、まああまり細かい事を言っても、どうせ大勢に関係ないですからそのまま結びました。しかし、ノウハウだけのライセンス契約は、未だ結んだことはありません。<o:p></o:p>

 

 

 ノウハウとは定義がありません。でもまあ「工業目的に役立つある種の技術を実用化するために必要な秘密の技術的知識・経験又はそれらの集積」と言われているようです。一部では、特許にすると公開されてしまうので、これを秘密にしてノウハウとして保持しようというのもありますが、これは例外でしょう。一言で言えば「匠の技」ですね。技能オリンピック等で、メダルを取るために、熟練の匠が、新入社員に特訓をして、技術者・技能者が身に着けるものです。簡単な例として、ご飯を美味しく炊く炊き方を、炊飯器に組込みソフトとして入れたり、マッサージの匠の技を、ソフトウェアにしてマッサージ器で実現出来るようにしたりということで、一部のノウハウは自動化・汎用化できるようになりましたね。<o:p></o:p>

 

 

 ノウハウライセンス契約では、こういったノウハウをライセンスするという規定をします。おかしな話です。ノウハウとは、ライセンスするものではなく、「伝授し、教えてもらった人が、それを吸収すれば、それでノウハウは承継された」と考えるのが普通だと思います。ということで、ノウハウライセンス契約等、普通は考えられないのではないでしょうか?<o:p></o:p>

 

 

 権利とか、法的保護、あるいは法的に保護される利益という視点から考えても、例えば特許とノウハウでは大きな違いがあります。特許は、出願し特許査定が行われ、新規性が認められれば、特許権の設定登録が行われます。存続期間は、出願の日から20年(医薬品等の一部で延長登録のあったものは25年)ですね。この間、権利として排他性を持ち法的保護が受けられます。即ち、無断使用者に使用差止請求をしたり、損害賠償請求もできます。一方、ノウハウでは、差止請求は認められていませんね。宮大工さんが弟子に、木の組み合わせ方を教えて、弟子がマスターしてしまえば、それで伝承されたわけですから、差止請求等考えられません。仮に、ノウハウ開示契約を締結しても、契約が終了すれば、損害賠償請求もできないでしょう。<o:p></o:p>

 

 

 ブラジルでは、ノウハウライセンス契約は認めていませんね。ノウハウを提供することについてお金を払えとはいえますが、ロイヤルティの金額上限を設けたり、期間は最長5年とされています。

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