○ 取締役や監査役の責任免除については、定款に規定されますね。例えばホンダの様に規定を置いていない会社もありますが、一般的には以下などの定款規定をおきます。
1.当会社は、取締役会の決議によって、会社法第423条第1項の取締役(取締役であった者を含む)の賠償責任につき、法令の定める限度内で免除することができる。
2.当会社は、社外取締役との間で、その取締役の会社法第423条第1項の賠償責任につき、会社法第425条第1項に定める額を限度とする契約を締結することができる。
今回は、上記のうち、社外役員と責任限定契約を結びかつ定款で責任限度額を定めず、法令の額と規定する場合、(親会社等からしばしば派遣される)無報酬の社外役員の責任は一体どうなるのかということです。
○ 425条1項1ハでは、社外取締役・会計参与・監査役・会計監査人につき、当該役員の享受した財産上の利益の2年分を責任限度額としていますね。では無報酬の役員は、この規定によれば責任限度額はゼロ円ですね。お金的には何の責任も負わないということですね。これで良いんですかね?勿論、この規定は善意かつ重大な過失の無い場合という限定がついていますが。
○ 取締役は社外取締役でも、善管注意義務・忠実義務・内部統制構築義務・監督義務等を負っています。一ヶ月に一回の取締役会にやってきて、雑談だけして帰る社外取締役でも、任務懈怠責任(423条)も負っています。しかし、現実は、会社ぐるみで不祥事があった場合でも、普通は常勤役員(業務担当取締役)のみが責任を負い、非常勤・社外取締役は責任を負わないケースが多いのではないでしょうか。非常勤役員・社外役員は何の責任を負わずまた「知らんふり」というケースが散見されます。
○ 大企業の役職員は、多くの子会社・関係会社の非常勤・社外役員を兼任する場合があります。不祥事でなくても、業績不振の責任は、常勤役員・特に代表取締役が負います。非常勤役員に責任は無いのでしょうか?おかしいですね。無報酬で社外取締役をやっていれば、上記規定に従えば、責任額もゼロ円です。これまたおかしいと思います。
・ やはり大企業等が事業投資先の非常勤役員に指名する役員についても、その業務量に従い、投資先が報酬を負担し支払うべきでしょうね。その分親会社からの給与は減額するということですね。その会社のための忠実義務・監督義務等ではなく、現在は親会社のための監督義務しか果たしていない現状もありますので、改善を計るべきだと思います。
○ ついでに、取締役等の責任免除を整理しておきましょう。
・ 取締役等がその活動により、会社・第三者に損害を与えた場合は、民法・会社法等の規定基づき賠償責任を負います。即ち、損害を受けた会社・第三者は、損害賠償請求権を有しますが、この権利の放棄・免除は、請求権者の勝手・自由が原則です。しかし、例えば代表取締役が会社に任務懈怠で損害を与えても、会社として免除する等とやられては、株主等利害関係者はたまったものではないので、そこは免除の条件・限度等を会社法では定めているのですね。
・ 役員等の会社に対する任務懈怠責任は、総株主の同意が必要ですね(424条)。善意等の条件の記載がないので、故意・重過失の場合でも免責OKです。その他免除に総株主の同意が必要な場合は、総会屋への利益供与責任(120④⑤直接の利益供与行為は免除不可)、違法配当を行った取締役等の責任、期末の填補責任等ですね。
・ 役員等が善意&軽過失の場合には、上記1の定款の規定+取締役会の決議で、最低責任限度額を超える部分を免除できますね(監査役設置会社・委員会設置会社の場合のみ)。但し、免除について株主に1ヶ月を下回らない期間の異議申述催告通知・公告(非公開会社は通知のみ)をしないといけませんし、3%以上の議決権を有する株主がその期間内に異議を述べたときは、定款の定めに基づく免除をしてはならない(426⑤)としていますね。
・ 社外取締役等(社外取締役、会計参与、社外監査役又は会計監査人)については、定款規定+責任限定契約で、責任限度額をこえる部分の額を免除できますね。責任限定契約では、定款であらかじめ規定した範囲内の額又は法令の最低責任限度額とのいずれか高い額を限度とする旨を契約に記載しますが、定款で額を法令の責任限度額と定める例も多いですから、結局2年分の財産上の利益とする例が多いように思います。
○ 上記の通り大企業等では取締役や執行役員が子会社の社外取締役を無報酬で兼任する例が多いですね。大企業本体の賠償責任保険のみならず、自分の就任している事業投資先の役員賠償責任保険にも高い保険料を払って加入している例もあるようですね。無報酬社外役員の責任限度額はゼロとも解釈出来るのにですね。サラリーマン役員でも、普段責任は負うと偉そうな事言う人がいますが、こういった人が責任をきちっととったのはあまり見たこと無いですね。