○ 会社法363条には、取締役会設置会社の業務執行機関としては、①代表取締役=業務執行取締役、及び②代表取締役以外の取締役であって、取締役会決議によって業務を執行する取締役として選定されたもの=選定業務執行取締役、としています。また、これらの取締役は、3ヶ月に一回以上、自己の職務の執行の状況を取締役会に報告しなければならない、としています。
○ 一方362条で、取締役会は、①業務執行の決定 及び②取締役の職務の執行の監督を行う事になっています。即ち、取締役会は業務執行決定権と執行権&職務執行監督権があります。代表取締役は、取締役会の業務執行の決定を受けて、業務執行を行う権限を固有に専属すると考えられています(多数説=並列機関説)
・しかし、会社の日常業務の決定まで何でも取締役会決議では、会社の業務は実際行えませんので、日常業務の決定・執行は、取締役会の承認を得た権限規定などで代表取締役に委ねることが一般的ですね。一般の(代表権を有しない)取締役=選定業務執行取締役に業務執行を委ねることができますし、委ねられた範囲で業務執行することになります。しかし、商法学者は、選定業務執行(or担当)取締役の権限はあくまで対内的な関係で付与されるに過ぎず、対外的に会社を代表する機関はあくまで代表取締役(一切の行為を行う権限有り)であるとされています。
○ 一方、354条には、表見代表取締役の規定があり、会社は、代表取締役以外の取締役に社長、副社長その他株式会社を代表する権限を有するものと認められる名称を付した場合には、当該取締役がした行為について、善意(無過失は不要)の第三者に対してその責任を負う=会社の行為となるとしています。
○ 業務執行とは、会社の事業を遂行するために生じる事務処理であり、営業取引・契約締結・従業員採用等の法律行為、履行の催告・債権譲渡通知等の準法律行為、製品製造・帳簿作成等の事実行為等、会社の業務の遂行の殆どが該当します。
○ 業務執行取締役(ここでは代表取締役以外。以下同じ)の制度がH14に出来ましたが、その発足の背景・理由・役割等について、私は何も知りません。しかし、「なんやこれ?」「何の意味があんの?」と思います。
○ 商法学者の先生が、これは会社の内部的規律であると言われています。確かに代表取締役は、会社の業務に関する一切の(裁判上and/or裁判外の)の行為をする権限有しており、業務執行取締役は代表権がありませんので、言われる趣旨は理解しますが、やはりこれは会社の実態を軽んじて、形式的というか理屈を押し通すこじつけの考え方ではないのかと思いますね。
・ 簡単な例を言いましょう、人事担当役員が、採用計画を決めて取締役会の承認をもらいます、それに従って対外的に募集・採用試験を実施して採用を決定します。人事担当役員の名前で、採用通知など出すでしょう。同じ事は営業行為について営業担当役員でも言えます。
・ 調達契約で、仮に代表者の名前の契約書を作成しても、代表取締役がいちいち見ている訳ではありません。大企業では代表取締役の名義の契約書では無く、取締役調達本部長等の名義で契約書は作成されます。即ち、対外的に業務執行を行っているのです。どうしてこの実態が対内的だと言えるのですか。対内的な業務と対外的な業務は、コインの裏表です。同じ取締役が行います。取締役が、私は裏(内)担当、代表取締役(社長)は表(外)担当とは決めません。
・ 役員の担当業務は、公表されます。役員の担当業務が正式に取締役会で決まると、各社はニュースリリースで発表しますし、新聞報道にも掲載されます。有価証券報告書にも記載されます。担当業務の決定が業務執行取締役の選定だと思います。登記簿には記載されませんが。
・ 代表権など無くても、例えば専務取締役 取締役、とか調達本部長という名前が契約書に出てくれば、相手方は、当然その権限があると思います。表見代表取締役(354条)等という規定を持ち出すまでもなくてですね。
○ また、3ヶ月に一度は、その業務内容を報告とか言っています。こんなことやってる会社ありますかね。自分の担当案件が出てくれば、必要に応じて都度報告している筈ですし、会社によっては、取締役会ではなく、経営会議に四半期報告ぐらいあげているでしょう。わざわざ、業務執行取締役等という変な事言わなくても、従来から担当が決められ、その範囲の事は、対内的にも・対外的にも当該業務執行取締役が行っているのです。
○ 何のために、こんな規定が出来たのか、私には意味が有るのかよくわかりません。非常勤取締役、代表権の無い取締役会長とか取締役相談役、本社の取締役でも米国法人社長で現地駐在取締役とか、社外取締役等は、業務執行取締役ではないですね。363条1項二号の意味は、私には、既に一般的に行われているのと同様に、「取締役会決議で、担当業務を決めなさい」ぐらいの意味しかないのではないか。それ以外にどんな意味があるのかよくわかりません。