まさるのビジネス雑記帳

勉強ノート代わりに書いています。

日米の株式買取請求権(Appraisal Rights)

2011-06-26 00:06:35 | 商事法務

 合併などに反対の株主には株式買取請求権があります。会社は請求があった株式を公正な価格で買い取らないといけませんが、「公正な価格」は売主・買主間では簡単に合意ができませんので、裁判所に価格の決定を求めることになりますね。今回は、日本の会社法に規定する株式買取請求権と米国の会社法(Delaware)に定めるAppraisal Rights=株式買取請求権の話です。

   日本の会社法の場合、合併、会社分割、株式交換・移転、事業譲渡等のとき、反対株主には株式買取請求権が与えられます。手続きは以下ですね。尚、財源規制=分配可能剰余金がなくても会社は自己株を取得できますね。

     総会招集通知を受領したら、決議される総会に先立ち反対する旨会社に通知

     総会の決議のときに反対の議決権行使を行う

     合併などの効力発生日の20日前から前日までの間に、株式数等を示して会社 に買取請求する。簡易合併(消滅会社の株主への合併対価が存続会社の純資産の1/5以下等)の場合には、存続会社では取締役会決議だけでOKで、総会決議は不要ですね。会社は、効力発生日の20日前までに株主全員に、その行為をする旨の通知がなされますので、総会決議の無い場合には、上記の③のみとなります。

○ Delaware会社法では、262(d)等にAppraisal Rightsが規定されています。手続きとしては日本とよく似ていますね。日本と異なる点は、(a)合併期日後に行使する。(b)マーケットアウトができる場合、簡易合併の場合などは、株式買取請求権が認められないということです。

① 総会の20日以上前に会社から株式買取請求権が行使可能であるとの通知。

② 決議される総会に先立ち反対する旨会社に通知、

③ 総会で賛成票を投じない。

④ 合併の効力発生日後10日以内に存続会社から合併が有効になった旨の通知を受け、当該通知の発送日より20日以内に買取請求権を行使。但し、例外条項があります。262(b)(2)bでは、上場株は除く、又は2000人超の保有者がいる場合は買取請求権が与えられないとしています。

  米国の例外規定は面白いですね。楽天みたいに大量の株式ではマーケットで売ろうとするとすぐに暴落ですね。大量保有の場合はブロックディールで行えるように株主を見つけないと行けませんが、簡単に見つかるものでもありません。一方日本の場合は、当事会社への株式買取ですから価格さえ覚悟をすれば売れますね。といっても大量の株式の場合には、会社は買取資金をスムーズに手当できるかと言う点もきになります。

  問題は、「公正な価格」(fair value)ですね。会社側と売却株主側で折り合えるとは思えないですね。ということで日本でも米国でも裁判所に公正価格の決定をお願いすることになります。

商法時代は、「承認ノ決議ナカリセバ其ノ有スベカリシ公正ナル価格ヲ以テ買取ルベキ旨ヲ請求スルコトヲ得 」でしたが、会社法で決議との因果関係を問わないこと、即ち単に「公正な価格」にしたのは、合併のシナージー効果を適正に評価すれば、決議前に株価を上回ることもあるので請求した株主の利益になると考えた為ですね。しかし、Delaware会社法ではfair valueの決定に際して、全ての関連する要素(=all relevant factors)を考慮して決定すると定めています。しかし、合併遂行により生じ る価値を除くとしていますthe Court shall determine the fair value of the shares exclusive of any element of value arising from the accomplishment or expectation of the merger or consolidation)。ですから商法時代の規定の発想でしょうか。

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善管注意義務とBusiness Judgment Rule

2011-06-19 01:36:17 | 商事法務

   日本の会社法には取締役の会社に対する責任として善管注意義務を定めています。会社法330条(委任の規定に従う)→民法644条に規定されていますね。また会社法355条には、「会社のために忠実にその職務を行わなければならない」として忠実義務を定めています。判例・通説は善管注意義務と忠実義務は同じだとみていますので、ここでは「善管注意義務」として話を進めましょう。この義務の違反の場合には、取締役は会社に対して損害賠償義務を負います(423)。一方、これに類似・相当する義務として米国では判例法を基に発展したBusiness Judgment Rule(経営判断の原則)がありますね。経営判断の原則とは、取締役が会社の利益の為に最善を尽くして意思決定をしたにも拘わらず、例えば想定外の事(リーマンショック等)が発生し、会社が損失を被ったとしても、裁判官は経営者のした決定に判断を加えることは控えるべきだという考え方ですね。

   善管注意義務とかBusiness Judgment Ruleとか言っても、具体的に何なの?ですね。具体的にどういったケースで問題になったのか、裁判になった例を見てみましょう。結構M&Aや株式がらみで争われた例があるようです。

【日本の例】

日本サンライズ事件:建物賃貸業者が投資顧問業者と投資一任契約を締結し株式投資を行い多額の損失を被り、借入金の返済も出来なくなった事例。

判例趣旨:「専門家である投資顧問業者に任せれば株式取引によって利益が上げられるものと軽信」「取締役は、会社に対し、会社の資力及び規模に応じて会社を存亡の危機に陥れないように経営を行うべき善管注意義務を負っているのであり、新規事業については、会社の規模、事業の性質、営業利益の額等に照らし、その新規事業によって回復が困難ないし不可能なほどの損失を出す危険性があり、かつ、その危険性を予見することが可能である場合には、その新規事業をあえておこなうことを避止すべき善管注意義務を負うべきものと言うべきである」

【米国の例】

Trans Union Corp.事件(Smith v.Van Gorkom,488 A.2d 858(Del.1985):Trans Union=消滅会社側・租税削減目的)が、Marmon Group Inc.の完全子会社であるNew T Companyとの締め出し合併(freeze out merger=現金を対価として少数株主を追い出す合併)したことに対して、Trans Unionの株主が、合併取消、取締役等に損害賠償をもとめたもの。

Trans Unionの会長兼CEOVan GorkomMarmon社オーナーのPritzkerと合併合意、PritzkerTrans Union取締役会が3日以内に合併承認決議をすることを条件としたため、急遽開催したが、議題の事前詳細説明・資料無くVan Gorkom口頭説明のみで承認可決したもの。その後総会で可決。

取締役は、1株当たりの売却価格に関する根拠等について十分は情報も無しに承認したことは重過失(gross negligence)が認められ適切な経営判断ではなかったとされたもの。

     善管注意義務と経営判断原則の関係、あるいはこの原則を日本にどのような形で導入すべきか学者の中に様々な意見があるようです。ちょっと変な議論ですね。会社法で条文のある善管注意義務は忠実義務と同じあるとか言っている人が、条文の規定の無い経営判断原則を日本でどうしようとしているのでしょうか?日本は、善管注意義務、米国は経営判断の原則と整理してしまえばそれで済むと思うのですが。まあ、私に取ってはあまり意味のある議論とは思いませんね。

 Business Judgment Ruleは米国の判例法理で発展したものですが、模範事業会社法の§ 8.31 STANDARDS OF LIABILITY FOR DIRECTORSでは以下のように規定されています。

(a) A director shall not be liable to the corporation or its shareholders for any decision to take or not to take action, or any failure to take any action, as a director, unless the party asserting liability in a proceeding establishes that: (1) 省略

(2) the challenged conduct consisted or was the result of:

(i) action not in good faith; or

(ii) a decision (A) which the director did not reasonably believe to be in the best interests of the corporation, or (B) as to which the director was not informed to an extent the director reasonably believed appropriate in the circumstances; or

(iii) a lack of objectivity due to the director’s familial, financial or business relationship with, or a lack of independence due to the director’s domination or control by, another person having a material interest in the challenged conduct (A) which relationship or which domination or control could reasonably be expected to have affected the director’s judgment respecting the challenged conduct in a manner adverse to the corporation, and (B) after a reasonable expectation to such effect has been established, the director shall not have established that the challenged conduct was reasonably believed by the director to be in the best interests of the corporation; or

(iv) a sustained failure of the director to devote attention to ongoing oversight of the business and affairs of the corporation, or a failure to devote timely attention, by making (or causing to be made) appropriate inquiry, when particular facts and circumstances of significant concern materialize that would alert a reasonably attentive director to the need therefore; or

(v) receipt of a financial benefit to which the director was not entitled or any other breach of the director’s duties to deal fairly with the corporation and its shareholders that is actionable under applicable law.

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Share・Stockと種類株

2011-06-11 14:39:44 | 商事法務

  株式の英語はShareあるいはStockですね。両者の違いはあるのでしょうか?結論を先に言いますと、米国では殆ど差はありませんかつてはStockとは、株式会社の株主全体が所有する株式の全体のことであり、個々の株式を意味するShareの集合概念がStockと言われたようです。Delaware会社法では、この用法に従って書いている節もありますが、模範事業会社法では、shareとしているようです。

  英国の会社法ではStockというのは、英米法辞典を見ると、「不定額面株式」と日本語に訳されていました。Shareは、110ポンドとかの額面で発行して、全額払込後100ポンド額面等のstockに転換しうるものであるという説明がされています。

  では、日本の会社法の英訳を政府がプロジェクトとしてやりましたが、これによれば、株式会社は、Stock Companyとして株式はshareとしています。Stockというのはshareの集合概念として扱っている感じです。

  では、普通株式はcommon stockとかcommon shareですね。しかし、普通株式という言葉は会社法には定義もありません。Common shareという言葉は米国でも一般的ですが、実は模範事業会社法には出てきません。

  では種類株式はどのように言っているのでしょうか。日本の会社法では、従来の言い方からは違和感を覚える、一見すると良く意味の分からない言葉が登場していますが、種類株式については、以下の様に英訳がされています。

種類株式 = Class Shares

取得請求権付株式 = Shares with Put Option

取得条項付株式 = Shares subject to Call

全部取得条項付種類株式  Class Shares subject to Wholly Call

  また利益配当等に関する種類株式としては、例えば利益配当優先株式としては、未払配当分を後年度の利益で優先的に填補する累積的優先株式と、填補しないものが非累積的優先株式、また利益の多い年度に、規定された優先配当を受けた後に普通株式と並んで利益配当を受けるものとして参加的優先株式、受けないもの非参加的優先株式がありますが、こういった規定は日本の会社法にはありません。定款で各会社が決めるべきものとしています。

  一方米国では、慣れ親しんだ、また多分外国で一般的な言葉が使われています。

Redeemable convertiblepreference (preferred share)cumulative, noncumulative, or partially cumulative

従い、例えば参加型残余財産優先ということなら、Participating Liquidation Preferenceと言えばいいわけですね。

  会社法1081項では、「異なる種類の株式」ということで種類株式を規定しています。剰余金の配当、残余財産の分配、株主総会において議決権を行使することができる事項、譲渡制限、取得請求権、取得条項、全部取得条項、拒否権、⑨種類株主総会での取締役・監査役選任権について内容の異なる二以上の種類の株式を発行することができることしています。

⑤⑥⑦については、定め方がおかしいですね。そのほかの種類株式は株式の内容・性質を基準にしています。ところがこれらは、株式を対象にしているのではなく、その株式の株主と会社の関係を言っています。つまり同じ次元で規定しているのでは無いのです。海外の会社法の定め方と異なりますし、定め方もおかしいと思います。

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日本と米国の会社法に定める種類株式

2011-06-05 22:14:17 | 商事法務

  日本で種類株式発行会社といえば、業績の良くない会社が配当優先株式を発行したり、ベンチャーキャピタル(VC)が出資するときに配当優先・残余財産優先・取締役等の選任権を付した株式を発行させたりする場合などで、例外的に、伊藤園が優先株式を発行してその株券を上場していますが、一般的には、それほどポピュラーではないですね。一方、米国では、VC投資等も一般的ですから種々の種類株式が発行されています。残余財産分配でも、普通株主への残余財産分配への参加は当然として、「3x Participating Liquidation Preferenceというような、がめつい残余財産分配請求権をつけるVCも居るようです。ベンチャー投資は当然零になるリスクがありますから、ルーレットの様に儲けようとするのかもしれません。 

 日本の会社法では、種類株式の定義はどうなっているのでしょう。その前に、2条の定義からですね。「種類株式発行会社=剰余金の配当その他の第1081項各号に掲げる事項について内容の異なる2以上の種類の株式を発行する株式会社をいう」としています。また「種類株主総会=種類株主(種類株式発行会社におけるある種類の株式の株主をいう。以下同じ。)の総会をいう」としています。従い、普通株式しか発行していない会社が、定款変更して定款に新たに規定する配当優先株式を発行すると種類株式発行会社になります。今までの普通株式も、変身?して種類株式になりますが、従来の経緯からこの株主を「普通株主」と呼ぶと、普通株主の株主総会も「普通株主による種類株主総会」と呼ぶということで、ややこしくなりますね。

  1081項は、剰余金の配当、残余財産の分配、株主総会において議決権を行使することができる事項、譲渡制限、取得請求権、取得条項、全部取得条項、拒否権、取締役・監査役選任権について異なる定めをした内容の異なる二以上の種類の株式を発行することができることしています。

  米国の模範事業会社法では、どのように規定しているのでしょうか。6章の株式と配当の6.01AUTHORIZED SHARES(b)(c)(e)(f)を見てみましょう。

(b) 項では、基本定款(Articles of Incorporation)で必ず規定する事項ですね。

(1) one or more classes or series of shares that together have unlimited voting rights, (全部の議事に議決権を有する株式)

(2) one or more classes or series of shares that together are entitled to receive the net assets of the corporation upon dissolution.(残余財産の分配)

(c) 項では基本定款は、以下の様な one or more classes or series of shares を規定して良いとしています。

(1) 法に別途定めの無い限り、議決権について「special, conditional, or limited voting rights, or no right to vote」の株式の発行ができる。

(2) redeemable or convertible 株式」ですが、その償還請求や転換請求を下記で行う事ができるとしています

(i) at the option of the corporation, the shareholder, or another person or upon the occurrence of a specified event;

(ii) for cash, indebtedness, securities, or other property; and

(iii) at prices and in amounts specified, or determined in accordance with a formula;

(3) entitle the holders to distributions calculated in any manner, including dividends that may be cumulative, noncumulative, or partially cumulative; or

(4) have preference over any other class or series of shares with respect to distributions, including distributions upon the dissolution of the corporation.

(e)項では「Any of the terms of shares may vary among holders of the same class or series so long as such variations are expressly set forth in the articles of incorporation」としています。日本では同一種類の株式は同じですが、米国では基本定款に明記すればVariationがあっても良いとしています。株主平等の原則が、日本よりも緩いですね。

(f) 項ではThe description of the preferences, rights and limitations of classes or series of shares in subsection (c) is not exhaustive」ということで、創意工夫次第で、又はがめついVCや弁護士がいろんな種類の株式を案出しているようですね。

米国では多種多様な種類の株式が発行されているようです。珍種、変種の株式があれば、教えて頂けるとありがたいですね。

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