○ 信託法では「信託」とは、信託契約等を締結して、特定の者が一定の目的(専らその者の利益を図る目的を除く。)に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることをいうと定義されています。一方、民法の組合とは「組合契約は、各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約することによって、その効力を生ずる。」とされています。では従業員持株制度は、信託契約なのでしょうか、組合契約なのでしょうか?よく分かりませんね。この辺は、持株制度の管理事務を受託している証券会社の専門家にお聞きしたいです。<o:p></o:p>
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○ 従業員持株制度は、上場企業では9割以上の会社が導入しているようですが、管理事務はかなりのケース幹事証券会社に委託していますね。また、未上場企業でも導入されていますね。この場合、自社で管理事務を行っている場合も、かなりあるようです。では、従業員持株制度とは、従業員が、月ごとなど定期的に、通常は給与の一定額を天引きして拠出し、自社株を購入する制度ですね。5-10%の奨励金を限度額を定めて会社が出す場合が多いですね。管理事務を外部に出す場合は、その費用は会社負担ですね。<o:p></o:p>
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○ ○ 持株会は、法人では無いので、通常は持株会理事長に財産(出資)を拠出しま す。信託法の定義では、財産の管理などの為に必要な行為というのが拠出の事でしょう。民法の組合では出資と言っています。この場合は、自益権、即ち剰余金配当請求権、残余財産分配請求権は従業員が有しますね。しかし共益権はどうでしょうか?即ち、共益権の中心である議決権はどうでしょうか?理事長が決めるのか、それとも個別の株主である従業員が決めるのでしょうか?またその他の共益権、即ち総会決議取消訴権や取締役の違法行為差止請求権はどうでしょうか?持株会は、奨励金を会社が出しますから、まあ総会決議取消訴権とか違法行為差止請求権などは現実的には、殆ど考えられませんが。一方、自益権でも、持株会という団体の規制がありますので、株式買取請求権を従業員が行使できるのでしょうか?結局は、持株会規則・約款あるいは従業員と理事長の信託契約にも依るでしょうが、あらゆる事を規定するのも不可能ですし、どうも厳密に規定していないケースが多いようです。ただ、現実に問題になるのは、議決権を理事長に任せるかということだけでしょう。剰余金配当請求権は、当然拠出者たる従業員ですね。残余財産分配請求権も従業員ですが、利益剰余金を一杯持って解散ということは、通常はありません。会社がつぶれるときですね。折角拠出して持株会に加入して持株を持っても、価値がなくなり、損しますね。<o:p></o:p>
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○ 信託の発達した米国では、会社法で議決権信託という制度があります。それについては、2011.8.1の私のブログ「米国会社法の議決権信託等について」をご参照下さい。模範事業会社法7.30 Voting Trustsのところに「Conferring on a trustee the right to vote or otherwise act for them」と書いています。基本的にはVoting Rightだけなんでしょうね。しかし、米国では受託者は委託者・受益者の持株の種類・数・氏名・住所をリストとして会社提出しますので、委託者は議決権行使の指図ができる筈ですね。<o:p></o:p>
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○ 日本ではどうでしょうか?株式信託の場合、株式の名義は受託者たる持株会理事長に書き換え、議決権行使も理事長がするものと約定されるのが通例ですね。ですから、基本的には、議決権はOne voiceで不統一行使はしないですね。ですから、従業員は、奨励金と配当が主目的です。また未上場企業でIPOを目指す企業の場合は、将来の上場も期待できます。しかし、一般的には一種の利殖ですね。未上場企業の場合は、退職するときは持株会も退会と規定(この規定は、最判H7.4.25民集175号91頁で有効とされている)するのが一般的ですから、拠出金が帰って来ます。<o:p></o:p>
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○ 会社が出す奨励金について、地裁レベルの判例では、「従業員に対する福利厚生の一環等の目的をもってしたものと認めるのが相当」と判断されています。この判決に賛成の学者も多いですが、会社法120条(株主の権利の行使に関する利益の供与)に該当するとする学者(田中誠二氏等)もいます。頭が固いですね。利殖だし、社内預金に利子補給しているみたいなもので福利厚生の一環だと考えれば良いと思うのですが。<o:p></o:p>
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○ いずれにせよ、従業員持株制度というのは、まだまだ論点があり、会社業績に貢献する従業員への配慮という視点から進化が望まれます。<o:p></o:p>