○ 有価証券報告書に記載される上位10社の大株主の状況が、この十数年の間に一変 しましたね。例えば、「日本トラスティ・サービス信託銀行株式会社(信託口)、ステートストリートバンクアンドトラストカンパニー(常任代理人 香港上海銀行東京支店)、モックスレイ・アンド・カンパニー・エルエルシー(常任代理人 株式会社三井住友銀行)」などと表示されて、ファンドなのか、LLCならそのLLCの保有者(あるいはGP)等誰が保有しているのか、意思決定は誰が行っているのかわかりません。日本の5%ルールに基づく大量保有報告書では「提出者(大量保有者)」の記載を要求していますが、究極の保有者等の記載は要求されていませんね。やはりこれは欠陥ではないでしょうか?
○ 5%ルールも歴史が浅いですね。これの制定のきっかけは1987年に起きた「タテホ化学工業事件」ですね。同社が債券先物取引で約300億円の損失を被った事件ですが、当時同社に融資していた阪神相互銀行(当時)が、タテホの巨額損失発生が公表される前日に保有株のほとんどを売却してしまったことが発端です。<o:p></o:p>
. 当時の証券取引法第58条第1号にも不正取引行為禁止の規定があったのですが、(現在の金融商品取引法第157条第1号)、それまでこの条文により起訴された事例はなかったと思います。つまり日本ではインサイダー取引はやり放題だったのですね。馬鹿を見るのは、情報を入手できない個人投資家等でした。しかし外国人投資家も増えてきており、海外からの批判もあり、海外から批判されるとすぐに行動を起こす政策当局により、翌年1988年には証券取引法改正を行い内部者取引規制が導入されました。そして、1990年には市場の公平性・透明性を高め、投資家保護を計る観点から、株券等の大量の取得、保有、譲渡に関する情報を迅速に投資家に開示する事を目的として、株券等の大量保有の状況に関する開示(いわゆる5%ルール)ができたわけですね。制度制定当時は、取得日から5日以内というのは必ずしも守られていない様な事例もあったように思いますが、その後の改正も踏まえ、最近ではきちんと定着しているようです。しかし、問題は誰が取得者なのか、今の大量保有報告では分からないのです。<o:p></o:p>
○ では米国ではどのようになっているのでしょう。5%ルールは、いわゆるWilliams Actにより5%ルールが制定されました。これは、1934年制定の証券取引所法(Securities Exchange Act of 1934)の1968年の改正の事ですね。従い1934年証券取引所法の13条(d)項を見ればわかります。証券取引所法は米国証券取引委員会(Securities and Exchange Commission :SEC)のWEBに行けばダウンロード出来ますが、膨大すぎて読んでられませんし、よく分かりませんし、読み始めたらすぐに寝ることができますね。学者等が日本語で本を出版されているので、それを読んだ方が良いですね。<o:p></o:p>
○ 買収者(グループの場合はそのグループ)が、発行者の特定種類の証券(any equity security of a class)を直接・間接を問わず取得したときは、取得日から10日以内(日本は5日以内)にSchedule 13Dを、発行会社、SEC、当該証券の上場取引所に届け出なければいけません。ここまでは日本と変わらないのですが、13Dを見ると、日本の報告書と違って、買収者の役員・取締役に加えて、その買収者の親会社の役員・取締役等(any person controlling, controlled by)も記載しないといけません。つまり、背後に誰が居るのかがわかるのですね。具体例として、例えばGE Capital Equity Investments, Inc.(“GE Capital”) が証券を取得したら、GE Capitalの役員・取締役のみならず、GENERAL ELECTRIC COMPANYの役員・取締役まで記載しないといけないのですね。だから、普通は背後に誰が居るのか分かるのです。日本でも、ともかく背後に誰が居るのか分かるようにして欲しいですね。
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