とにかく書いておかないと

すぐに忘れてしまうことを、書き残しておきます。

金子夏樹著『リベラルを潰せ』を読みました。

2022-08-03 08:03:50 | 読書
 金子夏樹著『リベラルを潰せ』を読みました。最近保守主義の力が強くなっています。そしてその保守勢力の力を利用して、反リベラル的な出来事が次々に起こっています。ロシアのウクライナ侵攻、アメリカの最高裁の妊娠中絶を認めないとの判断、日本における統一教会と政治家の癒着などです。この本では今、世界で起きている様々な問題に同じ背景があるということが分かります。

 世界中が保守化しているという感覚は多くの人にあると思います。ロシアや中国は独裁化しており、民主的だと思われてきたアメリカでさえトランプが大統領になり、保守的な政策を進めていました。日本においても安倍晋三政権は保守色の強い政権でした。東南アジアやアフリカの国々も民主化の方向へは進まず、逆にロシアや中国の支援を受け、保守的な独裁的になってきているように見えます。ヨーロッパの国々でさえ、保守的な勢力が強くなってきています。これらの背景には、世界的な保守ネットワークが形成されているということがあるというのです。

 保守勢力の台頭にはキリスト教系の古い伝統を守る勢力が関わっています。日本においてはキリスト教よりも、神道が強い影響力を持っているようです。つまり「日本会議」です。

 リベラルな方向に世界が向かうと思っていたら、反動的な保守勢力が力を持ち始めた。その理由は考えなければいけないことです。ただしその保守勢力の力を味方につけることによって権力を強固にしようという政治家が目立ってきているのは確かだと思われます。

 保守とリベラル。この対立についてしっかりと考えていくことも必要なことだと思いました。
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原田ひ香作『三人屋』を読みました。

2022-01-29 08:42:00 | 読書
 原田ひ香さんの『三人屋』を読みました。原田さんの作品は『ランチ酒』シリーズ、『三千円の使い方』を読んでいます。どれもおもしろい作品です。この『三人屋』も不思議な魅力に満ちた作品でした。

 三姉妹が同じ店を朝、昼、夜と別の形態で飲食店として営業しています。朝は三女がパンとコーヒーの店、昼は次女がうどんの店、夜は長女がスナック、どれもそれなりのはやっています。最初はこの三姉妹の心温まる人情ストーリーなのかなと読み始めますが、まったく違うことに気がつきます。この三人、あまり仲が良くありません。長女と次女はほとんど口も利かないような状態です。三人にはそれぞれ影の部分があり、それが現在の三人の状況を作っています。三人の微妙な関係が、不思議なリアリティを生んでいます。

 最後のレコードのエピソードがとても面白い。亡くなった父親は小さなオーケストラでフルートを吹いていました。父親が演奏したオーケストラのレコードが発見されそのレコードを手に入れるために、長女は誰にも言わずに北海道に行きます。危険な思いをしながらそのレコードを手に入れます。長女はその演奏は父親の演奏だと確信します。しかし他の二人は本当に父親の演奏なのか疑問に思っています。この三人のずれが逆に三人をつなげる結果になります。この構造があまりに見事です。

 軽い感じの小説だと思って読むと、意外に重く、深い小説であることに気づきます。不思議な魅力のある小説です。
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米澤穂信作『黒牢城』を読みました。

2022-01-02 05:14:05 | 読書
 あけましておめでとうございます。このブログで自分の駄文を多くの人に読んでもらって励みになっています。今年もよろしくお願いします。今年までは忙しい状況が続くのでなかなか思うようにいかないことも多いと思います。何とかがんばりたいと思います。

 年末年始休み、と言っても1週間ないのですが、米澤穂信さんの『黒牢城』を一気に読みました。

 戦国時代の武将、荒木村重が織田信長に謀反を起こし、有岡城に籠城したと言う史実をもとに、その籠城中に起きた様々な事件の謎解きを絡めながら描かれた小説です。荒木村重に重要なヒントを与えるのは、有岡城の土牢に幽閉されている黒田官兵衛です。私は歴史に詳しいわけではないのですが、歴史好きにはたまらない設定かもしれません。

 この小説はミステリーといえばミステリーかもしれませんが、事件の謎解きというよりも、事件の謎の背景にある人間の心理の謎解きが主となっているので、単純なミステリーではありません。

 リーダー論、組織論、宗教論、武道論、様々な人間を突き動かす道理が絡み合い、それが現実の世界でどう動いていくのか、作者の筆の力によって、そんな絡み合う困難な状況を見事に描き切っています。感服するしかありません。

 いたるところに伏線があり、それが最後にひとつになる構成も見事です。

 直木賞も間違いないでしょう。
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安冨歩著『原発危機と東大話法』を読みました。

2021-11-21 18:28:28 | 読書
 安冨歩著『原発危機と東大話法』を読みました。世間にはびこる詭弁を解説してくれる本です。なるほどと思わせることが多くありました。

 東大話法とは具体的には以下の通りです。

東大話法規則一覧
  1. 自分の信念ではなく、自分の立場に合わせた思考を採用する。
  2. 自分の立場の都合のよいように相手の話を解釈する。
  3. 都合の悪いことは無視し、都合のよいことだけ返事をする。
  4. 都合のよいことがない場合には、関係のない話をしてお茶を濁す。
  5. どんなにいい加減でつじつまの合わないことでも自信満々で話す。
  6. 自分の問題を隠すために、同種の問題を持つ人を、力いっぱい批判する。
  7. その場で自分が立派な人だと思われることを言う。
  8. 自分を傍観者と見なし、発言者を分類してレッテル貼りし、実体化して属性を勝手に設定し、解説する。
  9. 「誤解を恐れずに言えば」と言って、嘘をつく。
  10. スケープゴートを侮蔑することで、読者・聞き手を恫喝し、迎合的な態度を取らせる。
  11. 相手の知識が自分より低いと見たら、なりふり構わず、自信満々で難しそうな概念を持ち出す。
  12. 自分の議論を「公平」だと無根拠に断言する。
  13. 自分の立場に沿って、都合のよい話を集める。
  14. 羊頭狗肉。
  15. わけのわからない見せかけの自己批判によって、誠実さを演出する。
  16. わけのわからない理屈を使って相手をケムに巻き、自分の主張を正当化する。
  17. ああでもない、こうでもない、と自分がいろいろ知っていることを並べて、賢いところを見せる。
  18. ああでもない、こうでもない、と引っ張っておいて、自分の言いたいところに突然落とす。
  19. 全体のバランスを常に考えて発言せよ。
  20. 「もし◯◯◯であるとしたら、お詫びします」と言って、謝罪したフリで切り抜ける。

 以上のような詭弁を東大の教授がよくやってしまうというのです。これは私が興味が持っていた教育改革の問題でも同じでした。一部の改革論者が自分の思惑通りの方向に話をもっていくために、「東大話法」と同じような論理で説明していたのです。しかもそれは文部科学省という組織の中で守られているという印象でした。文部科学省の思惑にそった人材を文部科学省が招聘し、その立場にそった発言を「東大話法」で進めるのです。こんなやり方が許されるならば、どんな方向性でも進めることができます。これはたまったものではありません。

 さらには「東大」というブランドは、国家という立場に近づきやすいという社会的なシステムがあるように思われます。「東大」=官僚という結びつきがあるのです。筆者はそれを「立場」という言葉で説明します。

 筆者の論には納得することが多くあります。

 しかし、一方では筆者の言説も一方的で根拠が明確ではないと感じる所もあります。深く読まなければ正確な評価はしにくいというのが正直な感想です。

 今後、筆者の意見を参考に学者や官僚、政治家の言説を注意深く見ていきたいと感じさせられました。
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北川扶生子著『漱石文体見本帳』を読みました。

2021-09-13 07:51:32 | 読書
 北川扶生子氏の書いた『漱石文体見本帳』を読みました。とてもすばらしい本でした。
 
 私は今、近代文学の成立に興味を持っています。とくに「語り手」がどのように成立していったのかを考えようとしています。とは言え実際には忙しさでなかなか考える余裕がなく、ほとんど進んでいません。

 近代文学の成立に一番大きな貢献をしたのは、やはり何といっても夏目漱石です。夏目漱石は初期はさまざまな文体を駆使していました。漢文訓読調、戯作調、美文調など文体の見本市のようでした。しかしそれがいつの間にか落ち着いていき、いわゆる近代文学文体を発明します。漱石以降は、この漱石文体が主流になります。それは現在にまで続いていると言ってもいい。それほど漱石の文体は影響力があったことになります、

 その漱石文体は「近代」という時代と無縁ではありません。教養人の書く文体でもなく、庶民の話す語りの文体でもなく、誰もが受け入れられるような文体が要求されたのです。漱石はその文体を手に入れます。しかし、それは「自分を殺す」ことだったのです。

 この本に大きな刺激をもらいました。何度も読み返していきたい本です。
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