フクジュソウが庭で咲き始めた。朝日を受けると開花し、日中は開き続け、夕方にはしぼむが、また翌朝には開花するといった具合にこのところ繰り返し咲き続けている。
この株は、数年前に群馬県在住の妻の友人Mさんの畑にあったものを分けていただき、玄関先に植えているもので、他の植物が冬枯れ状態の中、毎年真っ先に咲いて、春が近いことを教えてくれる。近くにはスノードロップも植えているが、先を競うように咲き始めた。
庭に咲き始めたフクジュソウの花(2021.2.22 撮影)
朝、開花する様子をタイムラプスで撮影してみた。この日は朝方曇っていたが、次第に日が差してくるのに合わせ、10時頃から開花し始め、約25分ほどでほぼ完全に開いた。撮影は11時ころまで行い、編集している。
フクジュソウの開花(2021.2.23, 10:05-11:02 30倍タイムラプスで撮影後編集)
我が家ではこうして地植えにしているが、フクジュソウといえば正月の飾り物として鉢植えにしたものが売られている。年末には店頭に並ぶので、早く咲くように特別に栽培されているのであろう。
手元の「野草のたのしみ」(八代田貫一郎著 1974年 朝日新聞社発行)を見ると次のような記述に出会う。
「フクジュソウは旧正月には自然に花を開くが、新正月には人工で促成しなければ開花しない。自然では一月末から二月にかけて、地上すれすれに花を開く。そして日中開き、夕方しぼみながらだんだん茎を伸ばし、葉を出し、つぎつぎと花を開いて背が高くなってニンジンのような葉を茂らせる。
五、六月になると葉は黄変して枯れてしまい、株は休眠に入る。夏中は眠っていて、九月に入ると地中の芽は太りはじめ、十一月には地上に太い花芽を出してくる。庭で早く咲かそうと、土を除いて早く芽を露出さす人があるが、それほど効果がない。自然に蕾がふくらんでくるのを待つ方が望ましい。」
このフクジュソウは元禄時代にすでにいろいろな品種ができていて、江戸末期にはさらにたくさんの品種が栽培されていたようで、文久二年(1862年)に出版された「本草要正」には126品種記載しているという。
我が家のフクジュソウは、野生のものと近いようで、八重の大輪でおそらく「福寿海」という種であろうと思う。何も特別な世話をしていないが、丈夫で毎年咲いてくれる。
もうひとつ、フクジュソウのことを書いた本が手元にある。「花の百名山」(田中澄江著、1981年文藝春秋発行)であるが、この本の一番最初に紹介されているのが、高尾山=フクジュソウである。
田中澄江氏が第一番に高尾山を選んだのは、東京から最も身近に行くことができる山であるからかと思うが、もうひとつ、彼女の思い出の中にあるフクジュソウについて書きたかったからなのかもしれない。
彼女の父は彼女が小学校一年の夏に四十歳で亡くなっているが、その父の思い出もこのフクジュソウに重なっているようである。著書から一部引用すると次のようである。
「子供の頃、私の家の庭に、父が高尾山で採って来たというフクジュソウの数株があった。
町中にしては広い屋敷で、庭には築山があり、泉水が作られ、築山の石組みの下には、フクジュソウが、いち早く毎年の春を知らせた。・・・
あれは、いつの春であったろうか。私が女ばかりの山の会をつくってからの高尾山ゆきだから、ほんの十年前である。山歩きに馴れないひとびとのために、高尾山を登って、南浅川に下る道をえらんだ。・・・
小仏峠で、早く帰りたいひとは相模湖に、ゆっくりできるひとは南浅川への谷を下ることに決めると、主婦の多い集まりなので、ほとんどが西側の短い距離を下ってゆき、私をふくめてほんの四、五人が北側の道をとった。・・・
ところどころにキブシの花も、固い蕾なりに春らしい粧いをこらしている。私はいつかひとびとよりおくれて山道を歩いていった。高尾山などと一口に軽く見て、あまりにも低く、あまりにも開けているのを非難するひとが多いけれど、この春のさかりを前にした谷の美しさはどうか。
木々は皆、飛翔する前の若い鳥のように、息をひそめて張りつめた力を凝縮させている。この山気にふれ得ただけでも、今日の山歩きはよかった。
全身から湧きたつよろこびに、小走りに走り下りようとして、はっと息をつめた。一瞬にして金いろのものが足許を走り去るように思った。
フクジュソウが咲いていた。杉の根元の、小笹の中に一本だけ、たしかに野生の形の、売られているのよりは背も高く、黄も鮮やかな花を一つつけていた。その後石灰岩地帯を好むフクジュソウは、かつて多摩川の所々にもよく咲いていたことを知った。私の見つけたのは、残存の一株であったのだろう。
何故、高尾山に、こうもしばしばくりかえしやって来たのだろうか。
フクジュソウはたしかに高尾山に咲いていると父が教えてくれるために、おのずから私の足が向くように誘ってくれたのではないだろうか。
父は四十歳で死んだが、生きていたら、もっとたくさんの山に登ったことであろう。
父の願いが、私をこのように山に駆りたてるのかもしれない。父がもっと生きてもっと見たかった山の花々を、私は父の眼で見るために、こんなにも山にあこがれつづけているのかもしれないと、そのとき思った。父は栽培種の花よりも野の花、山の花が好きであったという。・・・」
この本に書かれているように、フクジュソウは石灰岩地帯を好むとされる。軽井沢と隣接する群馬県の下仁田町にはこのフクジュソウが見られる「虻田福寿草の里」があることをかねて知っていたので、これを機に出かけてきた。
軽井沢からは県道43号線で南下、国道254を下仁田方面に走ると案内板が出ているので迷うことはない。案内板には関東一という言葉が見られる。
虻田福寿草の里の案内板(2021.3.3 撮影)
コロナ禍の中、例年行われている福寿草まつりは中止されていたが、無人営業されていて見学はできた。入り口近くに座っている案内係の老人に聞くと、今年は雨不足のために、全体に花は少ないとのことであったが、広い斜面の梅林の下にフクジュソウがたくさん咲いていた。ただ、時期が少し遅かったためか、花茎が伸びて長くなっているものが多く見られた。
虻田福寿草園の受付所(2021.3.3 撮影)
虻田福寿草園内の斜面に咲くフクジュソウ(2021.3.3 撮影)
虻田福寿草園内の梅林の下に咲くフクジュソウ(2021.3.3 撮影)
虻田福寿草園内のフクジュソウ(2021.3.3 撮影)
虻田福寿草園内の紅梅(2021.3.3 撮影)
虻田福寿草園内の白梅(2021.3.3 撮影)
虻田福寿草園内の蝋梅の蕾(2021.3.3 撮影)
軽井沢に自生地があるという話は聞かない。火山性土壌の当地はアルカリ性の石灰岩地とは逆の酸性土壌だからだろうか。2年ほど前、軽井沢から佐久方面に出かけた時に、偶然道路わきにフクジュソウを見たことがあった。
そのことを思い出して、今回出かけてみた。以前と同じ場所にフクジュソウは咲いていて、気のせいか株数が増えているように感じた。近隣の人たちに大切にされているからだろうか。
自宅庭のものに比べると花びらの数が少なく、より野性味を感じるが、場所が道路脇でもあり、本当の野生種かどうかは定かではない。この時撮影した写真は次のようである。
雑木林の下に咲くフクジュソウ 1/7(2021.3.1 撮影)
雑木林の下に咲くフクジュソウ 2/7(2021.3.1 撮影)
雑木林の下に咲くフクジュソウ 3/7(2021.3.1 撮影)
雑木林の下に咲くフクジュソウ 4/7(2021.3.1 撮影)
雑木林の下に咲くフクジュソウ 5/7(2021.3.1 撮影)
雑木林の下に咲くフクジュソウ 6/7(2021.3.1 撮影)
雑木林の下に咲くフクジュソウ 7/7(2021.3.1 撮影)
【追記 2021.3.9 】
軽井沢周辺のフクジュソウ自生地を探したところ、佐久市の虚空蔵山に見られるとの情報を得て出かけてきた。
場所は国道254号と建設中の中部横断道とが交差するあたりで、最近オープンした「道の駅ヘルシーテラス」からほど近いところである。
先ず、この道の駅ヘルシーテラスに昼食のために立ち寄ったところ、建物脇に目指す虚空蔵山への案内板があった。ここを起点として、虚空蔵山へは3つのルートがあると示されていた。
「道の駅ヘルシーテラス」の建物脇に設置されている虚空蔵山の案内板(2021.3.8 撮影)
この道の駅の駐車場に車を残して歩いて行けないことはないようだが、虚空蔵山直下の多福寺には駐車場があるとの事前情報を得ていたので、山歩きが目的ではない我々は、昼食を済ませて多福寺に車で移動した。
虚空山・多福寺(2021.3.8 撮影)
多福寺に着いてみると、寺に上がる石段の脇にフクジュソウがたくさん咲いているのが目に入った。
多福寺の石段脇に咲くフクジュソウ(2021.3.8 撮影)
多福寺の石段脇に咲くフクジュソウ(2021.3.8 撮影)
中には花弁数のとても多い個体が混じって見られる。
多福寺の石段脇に咲くフクジュソウ(2021.3.8 撮影)
これで半分以上目的は達せられたようだが、せっかくここまで来たということもあり、しばらく撮影した後、山頂を目指すことにして歩き始めた。
途中所々に置かれた石仏を見ながら坂道を登って行ったが、山道の脇には目指すフクジュソウの姿はなく、ようやく山頂に設置された展望台が見えたところで、斜面に数本のフクジュソウが咲いていた。
山頂脇の斜面に咲くフクジュソウ(2021.3.8 撮撮影)
山頂は平たんに整備されていて立派な展望台が設置されている。この上に上ると、北に浅間山、西には近くの山並みの背後に天気が良ければ北アルプスが望める。
虚空蔵山頂上の展望台(2021.3.8 撮影)
今まで登って来た道とは反対側に複数本のフクジュソウが見られた。
虚空蔵山頂のフクジュソウ(2021.3.8 撮影)
今回は、多福寺から山頂までのルートでは群落と呼べるものに出会うことができなかった。
次のサイト
には2019年撮影のフクジュソウの群落の写真が紹介されているので、今回私が上った多福寺からのルート以外の場所にあるのだろうと思う。
佐久市の公式ホームページとその中の佐久市観光協会のサイトにも「花の見どころカレンダー」というコーナーはあるが、フクジュソウに関する情報は見られないのは何か意図あってのことかもしれないが、残念なことである。
尚、佐久市内山地区の園城寺境内にもフクジュソウが咲くと言われている。今回は行けなかったが、この地区は今年の大河ドラマの主人公「渋沢栄一」の「第二の故郷」として売り出し中の場所でもあり、近く訪ねて見たいと思っている。
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